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7話 屋敷での新生活

柔らかな陽が差し込み、目を覚ます。


「あれ、ここどこ⋯⋯?あ、そっか、昨日この豪邸に引っ越ししたんだった」


こんな綺麗な部屋だと緊張して眠れないと思ったけど、どうやら熟睡したらしい。


(ちょっと自分の神経の図太さに感心するかも)


これからどうしようか考えていると、扉をノックする音がした。


「ミナ様、失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」


「は、はい。どうぞ」


(すごい。私が起きる時間がわかっていたみたいに、完璧なタイミングだ)


そっと扉が開き、昨日出迎えてくれた若いメイドが現れる。


「おはようございます。ミナ様、私はエラと申します。今後、身の回りのお世話を担当いたします。何かございましたら、いつでもお申し付けください」


「こちらこそ、よろしくお願いします。でも、あの、基本的には自分のことは自分でできるので大丈夫です。あと、呼び方も様じゃなくていいです。すごくありがたいんですけど、こういうのには慣れてないというかなんというか⋯⋯」


「いえ、ミナ様はご当主様の大切な方。私たちにできることは、どうかさせてください」


「では、何かあった時はお願いします。でも、堅苦しいのは苦手なので、あまり気を遣わなくて大丈夫です」


「ミナ様はお優しいのですね。ありがとうございます」


「いえ、そんな⋯⋯」


(なんだろう、なんかこういうの慣れないな⋯⋯)


「ミナ様、朝食の準備が整っておりますが、召し上がりますか?」


(自分で朝ごはん作らなくてもいいって、お高いホテルに泊まってるみたい⋯⋯)


「ありがとうございます。いただきます」


なんだかありがたい気持ちよりも、申し訳なさが胸にのしかかった。






案内された食堂は、昨日来た時よりもさらに広く感じられた。


「そういえば、レオンさんはどこに?」


そばにいたエラに尋ねる。


「ご当主様は、お仕事に行かれました。本日はミナ様のお好きにお過ごしください。とのことでございます」


「好きにですか⋯⋯わかりました。ありがとうございます」


ひとりで食べるには、ありえないほどの席数とスケール。けれど卓上には、滅多に口にできない豪華な朝食が並んでいた。


(ファンタジー映画みたい)


金色に焼かれたクロワッサン。蒸した森イチゴに蜂蜜を垂らしたヨーグルト。とろりとしたスクランブルエッグ。澄んだコンソメ。そして、私の大好きなフルール・ミルダ。


「すごい、おいしそう⋯⋯いただきます!」


まずクロワッサンを一口。


外側は薄い層が小さく砕け、さくりと歯に触れる。内側は湯気を含んだやわらかさで、噛むほどにバターがじゅわりと染み出す。口中が温度と香りで満ち、思わず頬がゆるんだ。


「これ⋯⋯すごくサクサクで、美味しいです」


「あ、ありがとうございます⋯⋯!!」


(なんかめっちゃ喜んでくれた。こんなに喜んでくれるなら、どんどん美味しいって伝えていこう)


控えていたシェフが胸を撫で下ろし、ほっとした表情を見せる。


(あ⋯⋯)


ふと、スクランブルエッグの皿の前で手が止まった。


(どうしよう⋯⋯)


卵料理は大好物だ。けれど、この国ではスクランブルエッグに香草を混ぜるのが習わしらしい。私はそのハーブが少し苦手なのだ。食べられないわけではないが、得意とも言えない。


(でも、せっかく作っていただいたんだし)


思い切って口に運ぶ。


(あれ?)


「⋯⋯?これおいしいです⋯⋯!でも、これハーブが入ってない⋯⋯?アストリアでは基本、香草入りで作りますよね?」


「左様でございます。しかし、ご当主様からの指示がございましたので」


「そうだったんですね」


(レオンさんもハーブが苦手なのかな⋯⋯?)






食後は、自分の部屋に戻った、


(好きに過ごしていい、か。図書院は引っ越しがあったから今週末まで休みにしたし、特に予定もないんだよね。何しよう)


天蓋を見上げて転がっていると、ふと思いつく。


(そうだ、中庭でお花を見ながら紅茶でも飲もう)


昨日、中庭に桜に似た花が咲いているのを見かけて、何の花か確かめてみたいと思っていたのだ。


(それならまず、お気に入りの茶葉も買い足しに行かなきゃ)


早速、身支度を整え、廊下へ。広すぎて迷いそうだ。角を曲がると衛兵が二人、直立の姿勢で立っていた。


「ミナ様、おはようございます。外出ですか?」


「はい。少し買い物に。エラさんにも伝えていただけますか?探したのですが見当たらなくて」


衛兵たちは一瞬驚いた顔で目配せする。


「しょ、少々お待ちください。あちらの椅子でお掛けいただいて──」


「⋯⋯?はい、わかりました」








ほどなくエラが小走りで現れた。


「お買い物に行かれるのですね。お申し付けいただければ、私どもが参ります」


「いえ、自分で行けるので大丈夫です。それに、いろいろこの辺りも探索したくて」


エラは困ったように眉を寄せ、許可してよいのか迷う気配を隠さない。


「しかし⋯⋯女性お一人で外出は危険でございます」


「中心街から外れませんし、私は第五地区に住んでいたので多少は慣れてます。それに、夕方には戻りますし」


私はかなり治安が悪いとされる第五地区に、家賃の都合で住んでいたのだ。


そして、私の意思が固いと知ると、エラは渋々うなずいた。


「承知いたしました。必ず夕刻までにお戻りください。ご当主様も心配なさいますので」


「わかりました。では、行ってきます」


レオンさんの客人ってだけで、ここまで心配されるなんて思わなかった。


なんだか、私がここにいることで、ここで働く人たちの仕事を増やしている気がする。早くこの家を出るためにも、帰りに不動産屋さんに寄って、本格的に家探しを始めよう。

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