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名無しの天使  作者: 逢咲楓
一章 あれから
9/25

堕天との戦い


 あれから数日がたった。そして、今何をしているのかと言うと……

「……午前十一時、本屋に来店。2冊の本を、手に取りレジへ。タイトルは……」

スマホに、同じ内容を打ち込んでいく。スマホには、ここ数日分の行動が記されている。……上原先生のだが。

 彼が堕天だという証拠。それを集めるために、ストーキン…………じゃない尾行を続けている。今の所、特にこれといった証拠は出てきていない。! 動いた。次は何処へ……。決定的な証拠が出るまで、諦めないぞ。


「お待たせ致しました。ウィンナーコーヒーでございます」カチャッ、と音が鳴り、目の前に立派なクリームの渦が現れる。軽く会釈し、店員さんが奥へ戻っていく。上原先生は、喫茶店に入った。なので俺も同じ喫茶店に入っている。ここの席から……良く見える位置に上原先生は居る。パソコンを、取り出し作業をしているのが目に入る。何か、動きがあるまで待機だな。


――――――2時間。この店に、来てから2時間もの時間が過ぎた頃、上原先生は席を立ち会計へと向かっている。すぐに、準備を整え俺もレジへと向かう。

会計を済まし、店を出て辺りを見回す。行き交う人々の波の中、上原を見つけた。そう遠くないが、信号を渡り対向の道を歩いている。

「うーん、今日はもう無理……かなぁ」

 上原は、そのまま角を曲がり姿が見えなくなってしまった。一応、後を追いかけるも何処に行ったのか分からない。……これは、また別の日だな。そう思い、今日は家に帰ることにした。



 学校でも、基本的には観察しているが、特にこれと言った事はない。

(……やっぱり、思い過ごしなんじゃないかなぁ)

そんなことを考えながら、窓の外を眺める先に、他クラスで体育の授業をしている上原がいる。生徒たちと一緒にサッカーをしているようだ。

(……どうしようか。…………そうだな、こっちから仕掛けてみるかぁ?)

もうそろそろ、尾行にも飽きてきた。こっちから、カマをかけてみたら、案外ポロッと漏らすかもしれない。そうと決まれば今日の放課後仕掛けてみるか。

一応、月城には連絡しておこう。



―――――――――――――――――――――



「先生、ちょっと相談したいことがあるんですが……」

「え、俺に?まぁ、良いか。何だ?」

「それが……ちょっと……ここでは。放課後、ここに来てもらっても構いませんか?」

「うーーん、………………分かった。華幻が、こんなこと言ってくるなんて珍しいしな」

「あ、……ありがとうございます。それでは、また放課後」


やけにあっさりと、受けてくれたな。普通、こういうのは「担任にまず相談するべきだ」みたいな事を、言われるかと思って色々想定していたんだが……。まぁ、いっか。呼び出しには成功した。後は待つだけだ。



放課後になり、生徒たちが帰宅している様子や部活動に励んでいる姿が、一望出来る。学校の屋上、ここなら誰にも邪魔はされないし、滅多に人も来ない場所だ。風が、肌を優しく撫で冷やす。頭が、冷えてより思考を巡らせられる。

後ろから、ガチャッとドアが開く音が聞こえる。

「……すまん。待たせてしまったな!」

上原先生の声だ。振り返り、彼に近づいていく。手を伸ばせば届く距離まで。

「それで、相談ってのは…………」

「えぇ、これのことで……ッス!」

袖から、対天使用の特殊なナイフを取り出し上原の、心臓めがけ刺しにいく。普通の人間では反応出来ない速度で、攻撃した。これを、防いでくるようなら……。

「……やっぱり、そうだったんですね……」

心臓に刺さっているはずのナイフは、虚空に留まっていた。上原の表情が、赤く血潮が昂って、怒りを顔に浮かべている。

「ッ……!! 貴様ァァ!!」

背中から異形の腕が、六本生えてそれは翼のようにも見えた。その内の二本が、こちらへと伸ばしてくる。

「フッ……! よっと……」

後ろへと飛び、ナイフを奴の手に当て軸とし、身体を左へと回避する。そのまま、その手の下を潜り、貯水槽へと向かう。そこに、月城から借りたある道具がある。

「よし、……後は時間を稼いで……月城に連絡を……」

「何を……しているッ!!」

「ヤベッ!!」

勢い良く飛び込んできた上原を、既で躱す。貯水槽から水が、勢い良く飛び出した。そのまま、居たら間違いなく死んでいた。貯水槽の中から、一本の腕が飛んでくる。月城から、借りた道具を手に持ち迎え撃つ。


「ふんっ!!」渾身の力を込めて、弾く。怯んだ隙に、下へ降りる。広いほうが、多分避けやすいように思えたから。

水浸しになった上原が、見下ろしている。

「何だ、それは……野球でもするつもりかぁ……?」

俺の手にあるもの、それは……バットだ。ちなみに、何故これなのかは全く分からん。


「なめ腐りやがって……テメェ、いつ気付きやがった俺が、堕天だということを」

「あの体育の時、かな……」

「そうか……そうなんだなァァァ。そうなのかァァァ。まぁこの姿をみた以上、お前を、ヲヲヲ殺す。けけっかかぃぃぃ」

段々顔も、人間として認識出来なくなってきている。話す言葉も、歪んできている。空が、赤く染め上げられる奴が結界を、張ったのだろう。

「ギビャャャァァァァ」奇声を上げながら、拳をふるってきた。避ける……って、まずッ!

「ッ………」腹から、痛みを感じ確認する。直撃はしてないただ掠っただけ。それだけなのに、血が少しずつ溢れている。

「いッ……、ふぅッー」

確かに避けたはず……だけどあの瞬間、加速した?奴の能力が何か分からない。もう一度、って……!!

そんな思考をしている暇なんて、与えぬかのように、今度は蹴りを、入れてきた。

「ばっ……と……で!!」

今度は、バットで防ぐ。防ぐも、俺はいとも容易く吹き飛ばされてしまった。屋上のドアの横の壁に、叩きつけられる。

「ぶぇっ……カヘッェ……」息、出来てる?視界も、狭まっている。いや違う、左目が開いてないだけ。口の中から鉄の味と臭いがする。骨も、何本折れてるんだろう。分からない、でも足は……立てる。手も動く……。ポケットから、スマホを覗く。

……あともう少し。

「よっ………と……」バットを支えに立ち上がる。

よろよろと……力なく歩く。

「あーはっはは、ギャハハハハハ!!!」

それが、面白いのか奴は高笑いをしている。そうだろうな、面白いだろうなお前の様な、クソ野郎にとって。


「ふふっ……」つい笑いが、溢れる。

「何が、…………なぁにぁがぁぁぁぁ笑っていやがる」

二度あることは三度あるのか、再び拳を振るう。恐らく、全霊の力を込めて。だけど、それはもう。

「くらうか、バーカ」

奴の拳は空を切り、そして奴の身体は吹き飛んでいった。

「?!?!な、何!!」

驚きが、隠せない様子だった。立ち上がることもせず、ただひたすらに、困惑している。その隙を、逃しはしない。間合いを詰めバットを大きく振り上げ、タコ殴りにする。手足を、動かさせないよう徹底的に。

「じゃ……きさっ……やめっ……ぢょうじ……」

背中の腕が、捕まえようとしてくるので、一旦離れる。奴は、立ち上がってしまったが……しょうがない。

「くそっ……!!!何故だ!!俺は、俺は!!」

奴の傷が、みるみる内に回復している。こっちは、その力使えないというのに。

「俺はァァァ!!同胞たちの中でも、最速をぉぉぉぉ極めたというのにぃぃぃ」

背中の腕が、激しくムチのように触手らしい動きで辺りを、傷つけていく。屋上のフェンスは、もうほとんど無い。落とされたら、そこでおしまいだ。

「加速。それが、あいつの能力なんだろう……。ってか、ぶぇっへッ……自分で最速って言ってるし」

まだか、まだなのか月城は……。もうそろそろ、限界なんだけど。


「まぁだまぁだぁぁぁぁ!!」

腕が、今度は全方位から襲いかかってくる。一つでも当たれば命は無い。深く、思考へと潜る。どうすれば、この状況を……。―――――あれが、あった……。




―――――――華幻。それは、武術を習うものなら多分一度くらいは、聞いたことがある位の名家だ。歴史は、古く確か、飛鳥時代から続いていると、爺ちゃんに教えられたことがある。

華幻には、一家相伝の技がある。


「華想幻実」


それが、華幻の家に伝わる、武術の名。

[華やかな想いは、幻に飲まれず現へと実る]




思考をやめ現実へと、戻る。全方位に対する技。

それは、本来刀で成す技。バットでいけるかどうか。

「ふぅッーー」深く息を吐く。神経を集中させ、目を瞑る。感じるのは、敵意、悪意、殺意。ただ、それだけで良い。

目を、ゆっくりと開き言の葉を紡ぐ。

『華踊』

花が、風に舞い踊るように縦横無尽に。こちらに、伸びてくる手を切り落とす。後ろから来たとしても、上からだろうと下からだろうと、向かってくる全てを斬り伏せる。それでいてありながら敵へと近づき……。

「がはっ………?!?!」

無数の剣筋で、相手を斬りつける。これを、やっていると気分が良い。温かい春のそよ風を纏うように。小鳥が、囀り春の報せを告げるように。

ただ、穏やかに……。だけど、それは何時までも続かない。

「ゔへぇっっ…………カッ……ハァッ……」

息を、するのを忘れてしまうくらい夢中になってしまった。ただでさえ、上手く息が吸えないってのに。

首を捕まれて、持ち上げられる。

「ハァ……ハァ……ようやっと、殺せるぅぅぅぅ!!ただの人間のくせにぃぃぃぃ!!」

首に込めた力が、段々と強くなっていき、息も苦しく意識も飛びそうだ。




【星歌!!大丈夫?!】

突然頭に声が響く。ルナの珍しい焦り声、中々レアだな。

【そんな、くだらないことどうでもいい。何で、私の力使わないの!?使えば、そんなヤツ簡単に倒せるよ?】

【今は、使えない。多分、どこからか見られている。使うわけにはいかない】

【でも、死んだら元も子も……】

【大丈夫……絶対に……――――待ってて】

【やばかったら、こっちから勝手に、……するから】

頭に響いた声が、無くなる。あらぬ心配を、かけてしまった。

「………………」奴の動きが止まり、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしている。

「きさま、……もしや……」何か言いかけた、その時。

奴の身体を、無数の何かが貫いた。

「がはっ………ハァ……ハァ」酸素を、取り込む。意識も徐々に戻り、景色に色がついていく。

「なッ!!……誰だ!!」

上原が、上を向く。誰かなんて、俺には明白だった。

「あら、上原先生、私の顔を覚えて居ないのですか?」彼女は、空から降りて来てそう問いかける。

「!つ、月城!」

「はい、風紀委員会副委員長の、月城円香です」

ニコッと月城は笑っている。

「な、何故、お前がぁぁぁぁぁぁ!!この、離せ。ッ……ぐぁっっ」

「はぁー……、うるさい黙れ。お前に聞きたいことがある。……堕天共の集い『天下楽園』それは一体何処にある。お前が、そこの幹部だということは、調べがついている」

天下楽園……。最近、話題の集団だ。悪魔に、心酔した愚かな人類を救済するみたいな事を言っていたから、カルト宗教的なものと思っていた。

「……言ーうかよー。バーーーか!!ぺっっ!!」

唾を月城の顔面に、吐き捨てる。その瞬間、こいつの命は終わりを告げた。

「そうか……なら、死ね……」

顔を、ハンカチで拭きながら指をパチンッと鳴らす。

「……申し訳……」

天地から、無数の鎖が上原を串刺しにしていく。やがて、底に残ったのはおびただしい数の鎖だけだった。



月城が、こっちに近づいてきて肩を貸してくれる。

「ごめんね、助けるのが遅くなった……」

「ほ、ほんとに……。死ぬかと思った」

実際、死にかけなのだが。

「すぐに、病院へ連れて行く。……しっかりと掴まれる?」

「……ごめん、……限界」

「あ、ちょっ……大丈……」

意識が、ゆっくりと闇に落ちていき、それを手放した。


























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