外界の都市
廃墟となった喫茶店を、進んだ先。目の前に、一つの都市が現れた。
「……何……コレ……」
言葉が、出ない。街を行き交う車、親子が手を繋ぎ笑いながら歩き、頭上からはモノレールが運行している様子が目に入る。
戸惑いを、あまりに隠せない。流石に、これには驚くほかない。
「ふふっ、驚いてる、驚いてる!。――――ようこそ、『ヴィルドシティ』へ!!」
『ヴィルドシティ』それが、ここの名称か。ここは、一体何処にあるんだ。
「さ、詳しいことはあそこで、ね」
月城が、指を差した先にある、それはこの都市の中央にそびえ立つ、摩天楼だった。
☆
「じゃあ、……ちょーとここで待ってて、取ってくる物あるから!!」
月城が部屋から出ていった。案内されたのは、月城の個室らしき場所、部屋に入る時隣に月城の名前が、入っていたから多分そうなんだろう。カーテーションが、下ろされておりその隙間から外を覗く。人や車の影が見にくい。ここは、地上から約二十メートルは、離れている。そう、今俺は摩天楼の中にいる。ここに、入ってくる時色々な視線を浴びて、中々辛かったから、個室はありがたかった。ここでなら、視線を浴びることもない。
「ふー、お待たせー。……眺め、良いでしょ」
「あぁ、いい眺めだ」
月城も戻って来たことだし、ソファに座る。
「……さて、何から話そうか。んー……何から聞きたい?」
「じゃあ、まずこの場所の事を……」
「オッケー!、えっーと、ねぇこの場所は、ヴィルドシティって名前の、私たち万魔殿の本拠地なの」
「じゃあ、俺が知る万魔殿の本部っていうのは……」
「うん、あれはダミー。だから天使の攻撃を受けても、私たちには何の影響もない」
万魔殿の本部は、全国五都市にある。東京を中心に、札幌、福岡、京都、仙台に戦力を分散し、日本での被害を抑えている。
「なるほど……。それで、この都市、一体何処なんだ。地下なのか?」
「ここはね……『外界』とそう呼ばれる場所」
「外界?」
言葉の意味をそのまま取るのなら、ここはこの世界の外側にある……そんな感じになるが。
「まぁ、言葉の通りそのまま。ここは、この世ではなくあの世でもない。世界の外側にある空間。宇宙を超えた先にある、不定の狭間。それが、外界」
「……じゃあ、ここはどうやって……?宇宙を超えた先って人類には、まだ無理…………あ、」
一つの可能性が頭に浮かぶ。だけど、それでも可能なのか?
「やっぱり、君を連れてきて正解だった。恐らく、君が考えてる通りだよ。とある悪魔の能力を使いこの空間を、構築した。約千の命と引き換えに」
やはり、悪魔は…………。
「ここの、存在に関しては、このぐらいかなぁー」
「なぁ、ここは安全なのか?」
「?安全だよ〜〜。心配いらないって〜」
月城は、笑いながらそう答える。だけど、ここに来たときから何故か胸の奥が、ずっとざわついている。
……気の所為だと、良いんだけど。
「……それで、俺に協力して欲しいことって」
「あぁ、あぁそうだった。えーとね、これを見て欲しい」
ようやく本題に入り、月城が何枚かの書類を渡されそれを目を通していく。書いてあることを、要約すると……。
「俺に、堕天と天使の討伐。そのサポートをして欲しい、と。その為の、資金や道具はそっちから出され、報酬も支払われる。…………超危険なバイト……みたいな感じ……か」
「バイトって程、気軽なものじゃないけど、認識はそれでおおよそ。だから、学校ではああいったけど、今からでも全然断っていいからね」
「いや、……やろう」
「け、決断早いね。ホントに大丈夫?最悪命の保証だって……」
「何も、問題ない……」月城が、パァとにこやか笑顔になる。
「えぇっと、じゃあ、契約書類取ってくるから、ごめんね」月城は、もう一度部屋を、出ていった。
恐らく、俺が断ると思っていたのだろう。学校では、勢いでいっただけで冷静に考えて、辞めると。だけど、これは……実に好都合。……通じるかな。家に居るはずの彼女――――ルナへと、テレパスをとばす。
【何〜〜?何かあったの?】
よし、通じた。早いとこ要件だけを、伝える。こんな所で天使の力を長い事使うのは、危ない。
【万魔殿に潜り込めそう。そこで、天使の討伐を手伝える】
これで、通じてくれたら……【あぁ~、そういうこと……がんばぁ〜〜】伝わったらしい、とても眠そうな声で答えられた。
――――――ルナの本当の名を、取り戻す。
それが俺の目的だ。その為なら、何でもする。彼女に、救われたあの時からそう誓ったから。
月城が戻ってきて書類を、差し出す。そこに、サインを書く。ペンの重みが、手を介して伝わってくる。
「よし!これで、星歌君。今日から君は私の、サポーター。これから、よろしくね!」
月城が、手を差し出してその手に応える。
「よろしく頼む。月城」
「じゃあ、早速君に初仕事を命じる。上原先生、彼を徹底的に調べ上げ、堕天の証拠を集めなさい」
「……上原って、堕天じゃないの?」
「あれは、私が見たままを言っただけ。確固とした証拠があるわけじゃない。もし仮に、私の勘違いだとしたら大問題。それに、私は自分が万魔殿だということを学校にはいってない。つまり……」
「なるほど、俺の方が、自由に調べ上げやすいと」
「そういうこと。あと普段は風紀委員会の仕事と、万魔殿の書類仕事があるから、中々自分では行けないの。だから、お願いね。何か分かったら遠慮なく連絡してね」
「あぁ、了解した」
「それじゃあ、これ。ハイッ」
手渡されたのは、一枚のカードだった。
「これは?」裏を、見ても何も書かれていない表には万魔殿のマークが、入ってある。
「それはね、この都市へと入るために必要不可欠な物。それが無いとここには、これないからね。使い方はね、カードを持った状態で特定の扉をくぐる。それだけ、……特定の扉の点在値は、後でメッセージアプリで送っておくね。それじゃあ、……送るよ、帰ろっか」
――――――――――――――――――
入って来た時と同じ所から出て、またあの路地裏の喫茶店へ出てきた。
「それじゃあ、頼んだよ。……また、学校でね」
月城は、そう言ってあの都市へと戻っていった。やり残した仕事があるらしい。
これで、目的へとやっと近づけた。この一年あまり、特に収穫もなく、正体を隠し天使を非効率的に倒していたが、これからは違う。情報が、得られる。これは、大きな一歩だ。そう思い、帰路へとついた。
――――――――
空を見上げると、そこに太陽の温もりはなく、無数の輝かしい星たちが冷ややかな夜を、もたらしていた。
無数の星を、侍らせている夜の主。月が、雲の隙間から姿を覗かせる。その月に、手を伸ばす。もっと、高い所へ。そう思い、近隣で一番高いビルのヘリポートへと飛ぶ。
「月に、心臓に、契約に、魂に誓いを。太陽に、脳に、盟約に、意思に、祈りを。再度誓おう、―――は、彼女の為に」これは、依存ではなく、執着でもない。
月が、光を伸ばし―――を、祝福しているかのよう。時の歯車は、動き出した。
??????
「やっと、動き出した……。早く、何とか……しないと」
一人の少女が、虚空へそう呟き、歩みを進めた。