進級条件
阿莉方先生が、ホワイトボードにつらつらと書き連ねていく。
「はいッ!ということで〜皆さんもうすぐ2年生ですね~。で〜2年生に、進級する条件が〜、こっちぃら!」
ゆるふわな喋りとキレッキレな動きをして、ホワイトボードを指す。
〘進級条件1 一年次における成績が、合計六割を超えていること
《進級条件2 悪魔との適性を測りそれで適性値が、少なくとも1以上であること
《進級条件3 学外での、活動で一定の成績を残したものは、学校に報告すること。その内容を審査し、合否の結果を報告する
という三つの条件が、2年生に上がる為には満たしてないと留年してしまう。だけど、この中のどれか一つでも満たしていれば進級は出来る。
「みんな、わかったかな〜。この中の、一つでも出来ていればいいからね〜。二つ目は、確か……今日あっ!そうそう、みんなごめんね〜。伝え忘れてたんだけど体育の時間に魔性を測るんだった〜」
この先生は、これがある。よく伝達ミスが起こり、その結果何故か、内のクラスだけ取り残される事がままある。
「まさちゃん、またかよ〜」「私たちまた、何も知らないでやらされるとこだったじゃ〜ん」「な、何も……wwぶほぉ中泉とブラックライが、た、戦うとこですなww」「先生ーもうちょっとしっかりしてよー」「うーん、お腹空いたな。……よし、弁当食べよ」
クラスから、様々な意見が飛び交っている。……誰か今弁当食べてるやついなかったか?
クラスの野次の熱が高まり、次第に関係なく友達と話をしだすものも現れてきている。本来なら先生が、注意すべきなのだろうが、申し訳なさそうに縮こまっている。こういった時に、内には便利な人間が一人いる。バンッ!!!机を強く叩き注目を集めたのは
「皆さん、いい加減静かに。先生もそんな縮こまらないで!ほら、シャキと!」
月城だ。彼女がいるから、正直このクラスは、纏まっているも同然だ。阿莉方先生も、生徒に怒られてるし。背中を、伸ばされ顎を引かされている。先生の顔に若干恐怖の色が、出始めている。分かるよ、先生。さっきも俺も同じ気持ちだったから。
鐘が、鳴りホームルームの終わりを告げる。
「あっ……、ごほんっ。というわけで、ホームルームを〜終わりま〜す。じゃあ、みんな〜また後でね〜」
阿莉方先生は、教室を去っていった。あの人の、担当は現代文だ。時間割を確認すると、今日あの人の授業は無い。あぁ、多分勘違いしてるなあれ。また、他の先生とブッキングするのか……。よく、教師になれたな。
肩を、叩かれ後ろを向く。後ろには雅が座っている。
「どうした?何かあったか」
「星歌君……あれ……どうしたら良いと思う……?」
雅が、指さしたのはホワイトボードに、書かれた進級条件。
「あれって……あぁ、そういう事?」
恐らく、学外での活動で、ゲームは含まれているのかってことだよな。
「まぁ、大丈夫とは思うけど……。って言うより、雅にはそんなの必要無いむぐぅ」
雅が、身を乗り出して手で口を押さえつけられた。
「!!しっ……、それあまり大きな声で、言わないで」
「あぁ……ごめん」
「ううん、私こそ、……強く言い過ぎちゃったし。ごめんね、無理やり口……閉じちゃって」
「俺の方が、配慮足らなかったから……全然大丈夫だよ」
「そ、それで、どうかな?いけるかな?」
「あぁ、大丈夫じゃないか。まぁ、いざとなったら、助けるからさ」
「ふふっ……持つべきものは、頼れる友だね。流石、私の唯一の友」
「それ、言ってて悲しくならないの?」
「え?……あ、ぐふッ!お、遅れてくるタイプの、致命傷だった……」
「何それ、……ふふっ」
まぁ、俺もあんまり人の事は言えないんだが。それにしても、雅はこう話していると、とても面白いし、楽しい子なんだがなぁ。
「なぁーに、話してるの?」
雅の後ろから、マコトが出てきた。いつの間にそこに。
「いやぁ、何。あの進級条件に付いてな」
「……あぁ、確かに雅、成績悪いもんなぁ」
「ぐぇっ……」
あーあ、致命傷だったのに、追撃しちゃったから、死んじゃった。机に突っ伏してるし。
「だから、そのゲームでどうにかならないかなって言ってきてな。そっちは、あまり使いたくないらしい」
「成る程、雅、安心しろ。俺も、最大限先生達に、掛け合ってみるから、な。むしろ、こういう状況の時の為に、俺は今までやってきたと、いっても過言ではない」
「マー君!!」
いつの間にか、復活して目をキラキラ輝かせている。
「よし、じゃあ、今日の放課後先生に、申請してきな」
「もちろん、マー君も、ついてきてくれるよね……?」
「ごめん!今日は、バイトで早く行かないと駄目だから」
「わ、私には、一人であの魔境へ行けと……そう言ってるの……?」
職員室を魔境って、先生たちを何だと思ってるんだろ。雅の顔を覗くと、天国から地獄へ落ちたさまのような表情をしてる。
「星歌、頼めるか……?」
「えっ……俺……うーん、」
チラッと、雅の方を見ると藁にも縋る思いで、祈ってるし、ぷるぷる震えている。これ断ったら、どんな反応するんだろうか、少し興味がわいた。
「良いよ。放課後特に、これと言った用事もないし」
興味は湧いたが、友達を傷つけたくない。まぁ、からかったりはするけど……。
「星歌君……!!やはり、君は、心の友よ……」
雅が、ジャイアニズムみたいな事を言っている。顔を見ると地獄に蜘蛛の糸が垂らされて、それを登って天国に来たような顔をしている。表情豊かで、面白いな。
1時間目の予鈴が鳴る。皆、蜘蛛の子散らすように各々の席へと座る。
「じゃあ、放課後頼んだぜ!」
マコトも、自分の席へと戻って行った。
「星歌君。……ありがとう……」
「いいよ、大したことじゃない」
そうして、1時間目の授業が始まった。