目的
「……うぅ……んぁ……」
意識が半覚醒の状態、瞼が上がりきらないまま目を覚ます。視界は、ボヤけているためか、ここにいるはずのない彼女を捉えた。未だ、夢の中だと思い、それに手を伸ばしてみる。
「ひゅ……へへ〜」
頬を、軽くつつくと柔らかい肌に、指が少し沈んでいくほどしっとりとしている。彼女の冷たい体温は、名を表しているようだ。その寝ている顔があまりに愛おしく、自然と頭を撫でていた。
「……せいか〜……」
彼女の顔が綻ぶ。寝ているのに、感覚で分かるものなのだろうか。段々と、意識が目覚め現実を認識し始める。
「……何で、ここに? また勝手に……」
すやすやと寝ているルナがそこにあった。多分、こっちに、テレパスしてきたのだろう。
「ルナ……起きて、……ルーナー」
「ぅぇっ……ん〜? 星歌……おはよー」
起き上がるも、ふらふらとしており、放っておけばまた眠りについてしまいそうなので、彼女を抱きしめる。冷たい体温が、心地良かった。次第に彼女の体温が、上がり始めていく。顔を、覗くと頬は赤く染まり耳も同様に赤くなっている。
「…………いきなり、ズルい」
「…………」
その様子に、呆然としてしまう。少し、前までの彼女は平気で、裸で部屋を闊歩したりと恥じらいが、無いように思えたが、今の彼女は乙女のような反応を、している。それが、妙に新鮮だった。
「家の鍵、ちゃんと閉めてきた?」
「……私、外に出てないから、星歌が鍵閉めたままだよ」
「……それなら、良いか」
ベッドから降りようとしたら、裾をクイッと引っ張られる。
「どうした?」
「もいっかい、ハグして……。だめ…………?」
甘えるような猫なで声、可愛い顔とその瞳がこちらを覗き込む。
「ッ……。はいはい……」言われた通り彼女を、抱きしめる。
「頭も、撫でて!」
右手で、彼女の頭を優しく撫でる。髪は、サラサラとしておりシルクのような肌触りで、滑らかでずっと触っていたい。
そのまま、彼女が満足して離してくれるまで俺は、やり続けた。
取り敢えず、彼女も連れて彼等が、いると思われる部屋まで向かう。中からは、姉妹の声が聞こえてくる。扉を開け、中へと入る。白茅姉妹が、テーブルでゲームをしていた。2人の視線がこちらへ向く。
「おっ……? って誰だ! そいつ!」
雲雀が、立ち上がり警戒をしている。まぁ、当然の反応だろう。
「彼女は、敵じゃないよ」
「うるせぇ! まだ、あたしはお前の事を、信じてねぇ。そいつとお前が、敵の可能性だってまだ充分に有るからな」
「うーん……。何、切ればいいんだろう」
アリナは、ゲームに視線を戻し続きをしている。
「アリナ!! ゲームしてる場合じゃないでしょ。彼奴等が、襲ってきたらどうすんの?」
「……? 大丈夫でしょ。ね、不来方」
「えぇ!! 問題ないと思いますがねぇ」
いきなり、後ろから声がして身体が、ビクッと震える。本当にびっくりして声すらでなかった。
「おはようございます、星歌さん。……そちらの彼女を伺っても?」
「……えぇと」言葉を遮るように、彼女は告げる。
「私の名は―――――。『元』冠位位階神位第5位の天使で、今はルナと名乗っており彼と、契約を結んでおります。以後どうぞお見知り置きを」
空気を裂くような鋭い声、有無を言わせない威圧感、
名を失って本来の姿ではないが、その威厳は失われず、何処か神々しい雰囲気を纏わせて彼女は、自己を述べる。
「…………」
雲雀が、凍りついた様に止まっている。雲雀だけではない、アリナも不来方もだ。
情報を、脳が処理しきれないのだろう。しばらく、フリーズした後不来方がうごいた。
いきなり跪き、ルナに頭を下げている。
「……まさか、貴方様のような冠位の天使に、お目にかかれようとは……。自己紹介遅れました、わたくし……」
「大丈夫、星歌を通して知っているから。不来方優、白茅アリナ、白茅雲雀。私達は、あなた達に協力を惜しまない」
彼女が、ずっと凛として喋っている。所謂、外向きの顔。俺と家以外の場所では、基本的に理智的な喋りをする。
「さぁ、席に着け。作戦会議を始めるとしよう」
席は4つしかないので、彼女が能力を使い椅子へと変貌させる。
「まず我々の敵は、天下楽園。その目的は、万魔殿の破壊、解体。……では、その真意は?」
ルナが、怖いほど流暢に言葉を紡いでいる。先程のハグは、前借りってところか。
「あぁ! 真意ィ? んなもん、暴れてぇだけだろうが」
雲雀が、テーブルをダンッと力強く叩く。
「違う。彼等だって、馬鹿ではない。真正面から、万魔殿とぶつかった所で、数と質量で押しつぶされるだけだ。ならば、何故彼らは、このような事をした? 絶対に負けるゲームだと分かりきっているのに」
不来方が、何かを察したかのような顔をしている。
「……天使、いや違う。…………!! まさか!」
「そう、彼等の本当の目的は、堕天を、認めさせること。政府に対し。だから、彼等が、現れるとしたら、政府関係者の建物だと思う。ま、あくまで私の推測だが……」
「なるほど、灰色の天使で、万魔殿の気を引いてるうちに本来の目的を果たすと」
「そう、まずは日本そして、世界と広げていくつもりだろうね」
堕天は、一度なるだけで即刻死罪が、決まるほどに重い罪。そうだろう、天使が人に、仇なす存在なのだから。
「だったら〜、ほっといていいんじゃない?」
アリナが、口を開き欠伸をしながら語る。
「うぁぁ〜〜ふぅ。私達も、堕天だし、いいことしかないと、思うけど〜」
「そうだ、もし仮に奴等の目的がこれだった場合、私達にとっては、プラスが大きい。天使の力を、使っても星歌が死ぬことがなくなるから」
「確かに、わたくしたちの目的は、柚葉の奪還。ただそれだけですからね」
柚葉の奪還……。青年……。そういえば、柚葉の能力って何なのだろう。俺は、悪魔と契約してたときのことしか知らない。
「なら、奴等の目的が達成された後が、俺たちの闘いってことか」
「そういう事」
「でも、天下楽園が、どう攻めてくるのか……」
「簡単な話。臨機応変に対応すればいいだけ」
ルナ……。割と、無茶な事を言ってる。パワハラ上司のような、無能な作戦指揮官のような。
「取り敢えず、彼等が万魔殿と相対するときまで、私達は遠くから観察し、タイミングがあい次第。柚葉を奪還する。ちなみに、奪還する術は?」
ルナが、不来方に問う。確かに、どうやってやるつもりだったのだろうか。
「力ずくで、取り返します!」
「なるほど、…………」
ルナが、思わず絶句している。
【ねぇ、星歌……。協力、するの、間違ったかなぁ……】
心の声で、助けを求めてきた。
柚葉の部屋に、戻りベッドに座る。ルナは、思いっ切りダイブして、ベッドのふわふわを享受している。
「せいか〜、疲れた〜。また、ハグして?」
「後で、やってあげるから。待ってて」
背中から、手を回され抱きついてくる。背中に当たるほのかな柔らかさに意識が向きそうになるのを、静止する。すると首元に、顔を近づけ耳に息を吹きかけられる。
「ッ〜〜〜〜」
身体のそこから、震えてしまう。
「へぇ〜〜」
彼女の顔が、わるい顔をしているのは想像に難くない。さっさと、要件を済ませないと、そう思いスマホに淡々と文字を打っていく。
「なにしてるの?」
「ん? ……戦力強化」
今の戦力だと、正直きつい。だから、俺は彼女に連絡を取る。彼女の力を借りられれば、頼もしい事この上ない。
月城円香。彼女に…………堕天であることを告げる。




