戦う意味 陸
これからしばらく、連続更新できたら良いなぁ・・・・なんて。
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長野県にあるとある山。その奥深くで人知れず眠っていたBランク蝕食。元の発見者は神楽楓であるが、楓は殺さずに生かしていた。理由は主に3つ。
1点目。このBランク蝕食は明確な「縄張り」を持っている。それがこの山だ。自身の縄張りに侵入したものには殺意を抱き抹殺しにかかるが、それ以外では基本的に休眠している。そしてそもそも、この場所に人間が近づくことは滅多にない。故に被害が全く出ないのだ。どれだけ強大な力を持とうと、その影響が人に及ばないのなら無益な殺生はするべきでない、というのが楓の考え方だ。
2点目。今回のような事態を想定していたから。今現在、地球に侵攻している蝕食の大半が「人の味」を覚えてしまっている。本来蝕食は人を食わずとも生きてゆくことは可能だ。だが自身の成長のために、あるいは好き好んで人を食べるようになっているのが現在の蝕食だ。そして、一度人を食べ人の味を覚えてしまった蝕食は、次も人を食おうとして獲物をよく観察する。その過程で、獲物のことをよく知るようになり、結果として討伐する難易度が上がってしまうのだ。
楓は「力をつけたければ、実践が一番」と考える人間である。だが蝕食との実践の練習として、人の動きに慣れた蝕食を相手に選ぶのは分が悪すぎる。特にそれがBランク蝕食やAランク蝕食などの強者になってくると、尚更だ。故に、人の動きに慣れていないBランク蝕食というのは楓にとってとても都合が良かった。今回のように誰かを育成する場合、手っ取り早くより安全に強者と戦わせることができるためだ。
3点目。実のところ、これが一番大きい理由だ。
「【拳魂武術】・・・・・・【爆砕】!!!」
ドゴォォォォォンンンン!!!
「・・・なっ!?・・・・・・威力特化じゃないとはいえ、【爆砕】が効かない!?!?」
「ゴギャァァァァァァァ!!!!!!!!!」
「うおいっっ!!!!!」
・・・・・・そう。Bランク蝕食にしては強過ぎるのだ。それは楓が面倒くさいと感じる程に。Bランク蝕食と言いつつ、すでに体長は200mに到達しようとしているそれは、もはやAランクの範疇に届いていると言っても良い。休眠してばかりで人に影響が出ないと考えられるのに、わざわざ倒そうとするのは割に合わないと楓は判断していた。
そしてその強さは今、前回よりも戦えているとはいえ、やはり防戦を重視しなければならない海斗も感じていた。1ヶ月間、様々な蝕食と戦い続け、各ランクごとの大体の「強さの基準」を理解し始めていた海斗は直感的に理解する。「これ、Aランクレベルじゃね」と。
そして、海斗は戦いつつこうも思っていた。
「もしかして楓さん、自分が倒すのめんどくさいからって俺に押し付けた・・・?」
・・・・・・当たらずしも遠からずである。
———2日前———
「・・・・・・ふぅ。」
今日もノルマの10ポイント達成だ。ここ1ヶ月間、色んな蝕食と戦ってきた。Cランク蝕食は、一番最初の以外にも10体ぐらい討伐したし、DランクやEランクの蝕食たちの討伐数は数えられないほどだ。おかげで身体能力はめちゃくちゃ向上したし、【拳魂武術】も大幅に強くなった。今ならプロのアスリートや武道家と張り合えるんじゃないかってぐらいの自信がある。・・・・・・流石にそれはないか。
「うん。だいぶ蝕食との戦い方が分かってきたようだね。」
「!楓さん。今までどこ行ってたんですか?」
また音もなく背後に立っていた楓さんに俺はもうびっくりしない。慣れっこだからだ。
「ん、ちょっと街へ下りてた。夕ご飯の材料を買いにね。」
朝、昼、夜のご飯は楓さんが作ってくれる。俺たちが普段、住処としている洞穴は、山にある天然の木々に囲まれ場所を知っていなければ絶対に見つけることができないような隠れ家だ。そしてその中には楓さんが整えてくれた生活空間が広がっている。何故かは分からないが、お鍋やフライパンもある。
「今日は何ですか?」
「んーと、パスタを作ろうかなと思ってるんだけど。大丈夫?」
「パスタ!良いですね!」
楓さんの料理の腕前は一級品だ。それこそ料理人になった方が良いのでは、と思うほどに。
それから数時間後、楓さんの作ってくれたパスタを二人で食べていると、楓さんが唐突に話し始めた。
「海斗、君はここ1ヶ月で蝕食との戦い方が分かってきたよね。」
「ええ。Cランク蝕食も今なら楽々倒せるようになりましたよ。」
「そっか。・・・・・・ただね、まだ足りない。」
「?・・・というのは?」
「今の【拳魂武術】だけでもある程度は戦える。だけど、この先Bランク蝕食、Aランク蝕食と更なる強者と戦うことになった場合、【拳魂武術】だけでは絶対に勝てない。蝕食と戦うには、やっぱりどうしても能力が必要になってくるんだ。」
「そう・・・・・・ですか。」
「・・・・・・だから、いよいよ君の能力を解放する段階に移ろう。」
「え?・・・・・・・・・でも、前やったときは全然できなかったですよ?」
「今回はきちんと『きっかけ』を用意する。それで解放できなかったら諦めるしかないけどね。だけど、絶対に解放できると信じてるよ。奴相手に解放できなかったら、君は死ぬからね。」
「ええ・・・・・・・。」
———現在———
「と、いう訳でさ。今回の戦いで能力を解放しろだってさ。じゃないとお前に勝てないんだと。」
「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
「お前もそう思うか?でもさっきから能力解放しようとしてるんだが、まるで方法が分からん。それに、1ヶ月鍛えた俺の武術は、お前にも通じると思うんだよなぁ。何やらきっかけが必要らしいし、それがあるまではひたすら殴り続けるってことで、OK?」
ガチンッッッッッッッッ!!!
ひゅー。大口あけて俺を飲み込もうとするなんて、それはOKの返事ってことでよろしいのかな?ていうか、相変わらず歯を噛み合わせたときにして良い音じゃないんだけど。
「【拳魂武術】・・・・・・【打螺絶挙】!!」
「ゴギャッ!?」
ぐっ。流石にこの巨大な頭をしたからカチ上げようとすると腕にとんでもない負担がかかるな。だがやっと少し怯んだみたいだ。喜べ、全力アッパーだ。
ブンッッッッ!!!!
っっっとと。やっぱあの大質量の尻尾振りはやべーな。・・・・・・・ってあれ?尻尾まだあるけど・・・・・・。え?いや、まさか。
ブワンッッッッッ!!!!!
どわぁぁぁ!?!?!?う、嘘だろ?さっきの尻尾だと思ってたやつがただの触手で、今の目の前に迫ってきたビルみたいなのが尻尾だと!?よくよく見てみれば、Cランク蝕食よりも触手の数は少なくなっている分、はるかに太く、長くなっている。そして尻尾はマジでビルかと勘違いするレベルの太さだ!えっぐぅぅぅ!!
「そんなの食らったらひとたまりもないでしょうが。」
「グルルルルルルル・・・・・・・・・・・。」
一人と一匹の死闘は、まだ始まったばかり。そして、乱入者が来るのは、もう少し先の話。
海斗「ちくしょー。武術あんまり効かないし、能力解放できないし、勝てるのか?これ。」
Bランク蝕食「ネムリヲジャマスルナ。」