戦う意味 参
左足狙い・・・避ける。
横からの尻尾振り・・・避ける。
襲ってきた三本の触手・・・殴って軌道を逸らす。
・・・良いぞ。トレーニングの成果が出てるのか、だいぶ動けてる!前にBランク蝕食と相対したときは避けるので精一杯だったけど、今日は動きを観察する余裕まで出てる。観察して分かった。大体の攻撃手段は、3パターンぐらい。
鋭利な歯を使った噛みつき攻撃。突進の威力も加わって捉えられたら一撃で死ぬ。けど実際のところ、避けられない速さではない。これは避ければ問題ない。
尻尾を使った薙ぎ払い攻撃。威力がとんでもなく高い。前回のBランク蝕食も使ってきたから、おそらくそういった習性があるのだろう。デカい図体の割に振り抜くスピードは速いから、注意してないと直撃して全身の骨が逝くかもしれない。常に注意。これ大事。
全身から生えたキッショい触手。こいつが一番厄介だ。振り回せばムチのように強力な攻撃手段になり得るし、こっちの体に巻きついて動きを止めてこようとしてくることもある。しかもそれが何十本だ。こいつらのせいで、迂闊に近づけず、結果として満足に攻撃ができない状況に追い込まれている。つまりはこいつらをなんとかしない限り、蝕食への攻撃は不可能ってことだ。
「くっ・・・!それにしても・・・!」
ドガンッ・・・ドゴンッ・・・ヒュッ・・・ヒュンヒュン・・・
「・・・・・・数が多いわっ!避けても避けても次の攻撃くるじゃないか!一息つく暇ぐらいよこせーーーー!!!!!」
ちくしょう。奴の攻撃を避け続けてなんとか今は岩陰に隠れているが・・・。いずれ限界が来るのは分かりきっている。何度かあの触手を殴ってもみたが、怯みもしねぇ。なんとかして奴の攻撃を掻い潜り、胴体部分に攻撃を当てなきゃ、ダメージは通らないってことだろう。・・・・・・それが難しいんだけどな!
ビュンビュン!ドガン!
「っち!」
隠れていた岩が触手で破壊された。丸見えになってたまらずそこから逃げる。あんな細い触手で岩を砕く威力出せんのはもう反則だろ。どうする!?一か八かで突っ込んでみるか?いや、胴体部分に近づけば近づくほど、触手の数は多くなっていく。今でこそ一度に三、四本しか攻撃してこないからなんとか避けれているものの、一度に十何本も来たら無理だ。そうなったら俺はR18と言われかねない姿になりそうだ。かといって、触手を一本ずつ殴り飛ばして進んでいくなんてとても無理だ。俺が一本一本対処していくよりも、奴が触手を補充させていく方が確実に早いだろう。・・・・・・これぞまさしく数の暴力!
「ギャャァァァァアアアアアア!!!!!!」
「うおいッッッッッ!?!?」
だ!か!ら!!!ただでさえ避けんのが大変な、口かっぴらき突進している間に触手も振り回してくんのやめろや!!!あーくそ。まじで触手うっぜぇぇ!!!!
「ふふふ。」
眼科で繰り広げられている壮絶な戦い・・・もとい蝕食による一方的な蹂躙を見ながら、楓は静かに笑っていた。海斗は攻撃ができないことにイライラしているようだ。だが、初めての蝕食との戦闘で・・・しかも銃器すら効かなくなり始めると言われるCランク蝕食との戦闘で・・・・・・さらに言うと蝕食にとって特攻である能力を使わず鍛えた身体能力だけで、ここまで生き残れているのは快挙に近い。
いや、快挙というか楓が知っている限りそんなことができる人間は片手で数えられる程度だ。そもそも自分がついていたとは言え、あのトレーニング内容に付いて来れているだけでもはや異常とも言えるのだが・・・。
なにより、普通初めて蝕食と戦うときは誰でも緊張して「逃げる」ということを念頭に置くものだ。動けなくなってしまう者も多い。だが海斗は、生き残るために蝕食の攻撃を避け続けてはいるものの、その意識は常に「どうすれば有効的な攻撃ができるか」というところにある。その精神力は・・・自分たちと同じかそれ以上の可能性すらある。
「全く・・・とんだ収穫かな。海斗は強いとは思っていたけれど・・・・・・。未だ能力も使わずにこれほどとは・・・。これはどこまで強くなるか分からないな。・・・・・・世間には逸材が隠れているってことかな。」
相変わらず、避けて逃げて飛んで・・・を繰り返しながらも鋭い目で相対する敵を見続けている海斗を見ながら、楓は目を細める。
「だけど、精神力だけじゃ蝕食は倒せない。それは海斗が一番よく分かってきたよね。思い出すんだ。修行の日々を。僕は蝕食を身体能力だけで倒す方法も教えてきたよ。海斗はきちんとモノにしているはず。大丈夫。海斗ならきっとできるよ。これから先は、Cランク蝕食なんて目じゃない蝕食たちと戦っていくことになるかもしれない。今ここで、蝕食との戦い方を覚えるんだ。・・・・・・期待しているよ、海斗。」
・・・あー。なんとなく分かるぞ。姿見えないけど、どうせどっかからこの戦い見てるんだろう、楓さん。それで多分いつものように微笑みながら「期待してるよ」とか言っちゃってるんだろう。一ヶ月の付き合いだ。大体わかる。(大正解)
・・・なんかムカついてきたわ。この戦況見てて傍観してる楓さんに。正直まだ俺は楓さんの全力の、千分の一くらいしか見てないんだろう。だけど恐らく、楓さんがいれば基本なんとかなるような、そんな存在なんじゃないか?楓さんって。別に俺が強くならなくても良いじゃんって思ってしまう。俺は確かに蝕食に復讐したいと思っていた。前回のBランク蝕食との戦闘で楓さんに復讐の対象がもういないということを指摘されてからは、その想いはごっちゃごちゃになってしまって分からなくなってしまったが。
まあ、そんなことは置いといて。俺は確かに復讐したいとは思っていたが、別にそれは俺じゃなくても良かったんだ。楓さんがやってくれるならそれはそれで良いし、とにかく俺から大切なものを奪った蝕食さえいなくなれば、それを誰がやろうが関係なかったんだ。・・・だからこそ、能力は発動しなかったのかもしれないが。だから別に俺は自分が強くなることに固執していない。俺の強さなんてどうでもいい。楓さんや、その他の人間がやってくれても全然構わない。
と、思っていたのだが。蝕食と戦って分かった。こいつらは黙ってても傷つけてくるような奴らだ。そんな奴らに関わった時点で、俺は自分を守るために強くならなきゃいけなかったんだ。それに・・・せっかく戦えるなら、俺が蝕食を根絶やしにするのもいい。あと単純に「やれるだろ?やってみろよ」みたいな感じ出してる楓さんにムカつくから、やってやろうじゃん。俺が強くなって蝕食全部根絶やしにしてやるわ。そしてそのためには・・・・・・。
「まずはテメーが邪魔なんだよ!良い加減に触手プレイやめろや!オメーが一番ムカつくわ!!!!」
「ギィィァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!」
おっと今までは三、四本だったのに、俺を攻撃してくる触手が10本に増えやがった。ちょこまかと動き回る俺が邪魔だってか?良いじゃねぇか受けてたってやるよ。
ヒュンヒュン!ビュンビュンビュンビュン!!
迫り来る触手を前に俺は深呼吸する。思い出せ、攻撃の仕方だって楓さんから学んだだろう。
———修行時———
「二種類・・・ですか?」
「そう。攻撃には二種類のやり方がある。『個』と『集』だ。一点に威力を集め穿ち抜く『個』。力を分散し、多くの連撃を繰り出す『集』。前者はただ一つの目標を見据えたときに有効な手。そして後者は・・・」
———現在———
「『多くの敵に対しての範囲攻撃』、だろ?」
ビュンビュン!!
「【拳魂武術】・・・・・・【乱武乱武】!!!」
ドドドドドドドドドド!!!!!
「うぉぉぉぉぉおおおりゃああああああ!!!!!」
「ギャ!?ギャ、ギャァァ!?」
「どうした!丸見えだぞ!胴体がよ!!!」
確かに一本一本対処してたんじゃキリがないが、なりふり構わず殴りまくれば道は開けるもんなんだよなぁ!!乱撃によって見えた奴の胴体まで一直線に走り抜ける。
「そしてぇ!!ダメージを確実に与えたい胴体にはもちろん『個』だよなぁ!!!」
「ギャァア!!」
ビュンビュン!!!
払い除けた触手どもが後ろから迫ってくる音がするが・・・
「遅い!!【拳魂武術】・・・・・・【壊弾】!!!!!」
ドガァァァァァァァァァァァァアアアアアアアンンンンンン!!!!!!!
「ギィィィィィィィィィィィァァァァァァァァァアアアアア!!!!!」
「・・・・・・ふぅ。」
ものすっごい悲鳴と共に吹っ飛んでいったな。まぁ、とにかく!
「逃げてばっかじゃねぇ。攻撃だってするんだぜ?全力で来いよ!第二ラウンド開始だぁ!」
お、わったぁ!ここがこれからの戦闘シーンを分ける重要なストーリーでした!なんとか戦闘の書き方を掴めたかな?
乱武乱武;ただひたすらに前へ前へ殴り続ける技。ただし、襲ってくるのは楓のトレーニングを受けて岩をも砕けるようになった拳。
壊弾;ただ一点を狙い定め全力で穿ちにいく技。上記の海斗の拳が一部だけを狙ってくるため、威力が分散しない。破壊神の拳。頭おかしい。
さーて、第二ラウンドじゃぁぁぁ!!!