学級長決定戦
やっとね、諸々の事情が片付いたんですわ。
「知ってますよ?」
「え?」
さらりと返された言葉に、楓は驚いて言葉を失った。
無理もない。楓としては、非常に言いにくい海斗の知らない真実を伝えたつもりなのだ。それを驚きもしないどころか、「知っている」と返されては思考が停止する。
「それは・・・どういう・・・?」
「俺が養子で父さんと母さんとは血が繋がってないってことですよね?小さい頃から口を酸っぱくして言われてきましたよ。まあもちろん、血は繋がってないけど愛してるともずっと言われ続けられてきましたけど。」
珍しくしどろもどろになる楓を見つつ、海斗はあっけからんと言い放った。
「そ、そう・・・。」
「ああですから、楓さんがさっき言ってたので合ってますよ。俺の父さんは天音綾越さん?の子孫かもしれないですけど、俺は違いますね。血は繋がってませんから。」
養子であるということを全くもって気にしていない。なんだ、これならあそこまで緊張する必要はなかったじゃないかと楓はいささか脱力していた。
「まあ、知ってるなら良いんだ。慰める言葉とか結構考えてたんだけど、使う必要もなさそうだし。」
普段の調子を取り戻した楓はそう言いながら、内心では別のことを考えていた。
(さて・・・これで海斗と天音家には本当に血の繋がりが無いことが分かった訳だけど・・・。そうするとやっぱり謎が残るな。『五雄』の血を継いでいないんだとしたら、海斗のポテンシャルは一体?あの成長速度、そして吸収力、持って生まれた戦闘センスに関してはもはや天賦の才と言ってもいい。『五雄』の血脈なら筋は通った。だけど一般人である以上、どう考えても辻褄が合わない・・・。もう少し血縁関係を調べてみたほうが・・・いや、これ以上彼のプライバシーに踏み込むのは失礼か。)
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「楓さん?」
「ああ、ごめん。少し考え事をね。」
「そうですか。それで、この『百鬼夜行』は結局どうなったんですか?」
まだ結末を聞いてない。千年前に地球を襲ったとされる蝕食の集団。それが引き起こした『百鬼夜行』。
「ああ、そう言えばその話だったね。結論から言うと、五雄によって百鬼夜行は食い止められたんだ。当時侵略してきた蝕食は軒並み討伐された。文献から読み取るに、Sランク以上の蝕食もそこそこいたようだから当時の五雄たちがどれほど強かったかが分かる。とは言え、人類側も無傷だった訳じゃない。ここには何千もの家が倒され、何万もの人が死んだと書かれている。五雄にとっても命をかけた戦いだったようで、生き残ったのは左顔の半分を失った桜狼永光と左腕を失った夜夢莫与だけだったらしい。」
「それは・・・悲惨ですね。」
「ちなみに残った二人もその後、仲違いして壮絶な死闘を繰り広げ結果相打ち。両者とも命を落としたんだってさ。安倍晴明以外は子供を儲けていたようでね。不思議と直系の子孫、特に長男には不可思議な力が何代か継承されていったらしい。だけど時代の流れとともに桜狼家、夜夢家の直系は途絶えて現代には分家筋しかいない。君の父君、母君も子を儲けずに亡くなられてしまったから、現代に残っている直系の子孫は僕だけになってしまった。」
「なるほど・・・。」
え、せっかく生き残ったのに仲間同士で喧嘩して両方死ぬっていうのはどうなの?
「とは言え、現代には蝕食と戦う手段が千年前よりも遥かに多く溢れている。天力を発現させた能力者然り、A.S.T然りだ。だからもはや直系の子孫なんて関係ないんだ。」
なるほどなぁ。しかし楓さんが異常に強いのはやはり五雄とやらの直系だからなんだろうか。今でも天力が何なのかは知らないけど、天力で出来ること自体が相当強そうな上に制御も完璧だし、体術も俺より強いんじゃないかな。他人とはポテンシャル根本から楓さんは違う気がする。
「さて、まあ僕の話はこんなところかな。どうだった?初日は。」
「初日・・・ああ、入学式のことですか。入学式は特に面白いことはなかったですね。会長さんが欠席していて、それはどうなんだって思いましたけど。」
「ははは・・・。」
「あとは代わりに挨拶していた副会長さんにほぼ名指しで警告めいたことを言われて驚きました。と言うより敵対意識持たれてますよ、あれ。」
「ああ・・・うん。災難だったね・・・。友達は何人かできたかい?」
「いや、全く。クラス行った途端にめっちゃ囲まれて、色々と質問されたり刺々しい言葉投げかけられたりで散々でしたよ。」
「まあ初めは仕方ないさ。例年、初めの内なんか特にAクラスの子はプライドの塊みたいな子ばっかりだからね。ただでさえ普通の人にはない特別な力がある上に、中等部の三年間はずっと上位にいたような子達ばっかりだからさ。高等部で蝕食との実践訓練が始まるまではそれはそれは鼻高々だよ。」
「あ、でも一人友達はできましたよ。同じAー1クラスの三坂春って子です。」
「それは良かった。三坂・・・話すのが少しゆっくりな子かい?」
話すのがゆっくり。優しい言い方だ。下手に言語能力に難があるとかよりはよっぽど響きがいいね。
「そうです。知ってるんですか?」
「うん。確か中等部でトップを争うぐらい実力がある子じゃなかったっけかな。ほら、今年の首席の・・・千堂竜星くんだっけ?彼と何度も引き分けているはず。」
「ええ!?ほんとですか?じゃあ、次席ってことですか?」
「いや、確か最後の模擬戦で準決勝まで行った後に自分から棄権していたはず。首席とか次席にはなりたくないって言っていたとか。もしそのまま続けていたら彼が首席だったかもね。」
「そうなんですね・・・。と言うよりなんでそんなこと知ってるんですか。」
「まあ、色々と情報元はあるってことさ。」
濁されたな。やっぱこの人学園の関係者じゃないのかな?
「・・・あ、あと楓さんに一つ聞きたかったんですけど『学級長決定戦』って何ですか?なんか同じクラスの人が言ってたんですけど。」
「ああ、学級長決定戦は毎年初めに行うイベントさ。要はクラスのトップを決める争いだね。個人戦かつトーナメント方式で試合が行われて、勝った人が学級長になる。試合では天力を使ってもいい、と言うか基本みんな天力で戦うよね。さらにその後には階級長決定戦というイベントが待ち構えている。これはAランク、Bランク、Cランク・・・とそれぞれの階級の長を決める戦いでね。各学級長が自分のクラスの中から数人選んで、クラス同士が争うんだ。そして勝ったクラスの学級長が階級長も兼任する形だね。」
へー・・・。何だかめんどくさそうだな。
「あーめんどくさいって考えているとこ悪いんだけどさ、海斗。」
「へっ!?」
やっぱ俺って顔に出やすいのか!?
「学級長、階級長に海斗にはなってもらうから。」
「ええ!?何でですか、めんどくさいですって。」
「いやだって、それに成らなきゃこの先クラスのメンバーとか他の生徒たちにずっと言われるよ。『どんなコネを使ったんだ。』とか。」
あーそれはもっとめんどくさいかも。
「ということで全力で戦っておいで。あーただ天力はあんまり使わないように。」
「え、天力使っちゃダメなんですか!?」
「いや、多分だけど天力使ったら海斗は圧勝しちゃう。【拳魂武術】だけでさえ、常人よりも遥かに強いっていうのに。おまけに海斗は蝕食との実践経験もめちゃくちゃ積んでるからね。戦いにおいて海斗に勝てる子たちはあんまりいないと思うよ。」
俺ってそんな強いの?いやいや、嘘だ。だって楓さんとの訓練はもちろん、棗さんやA.S.Tを持った草加部さんとの訓練でもあんまり勝てないもん。・・・草加部さん強いって知った時はビビったな。
「まあ、頑張っておいでよ。友達は大切にしなよ。」
「はーい・・・。」




