生徒会 参
生きてるよ。大丈夫。
「第一殲襖戔境墓・・・『戦』」
「現隷・・・肆番『玄武』」
・・・はぁ。どうして私の周りには人の言うことを聞かない人ばっかりいるのでしょうか。
こちらの静止も聞かずに突如として天力を解放した二人を見ながら、私ー星降歌那はため息をつきました。
確かに生徒会室の中は一種の治外法権、本来なら日本政府の事前許可を取らない限り天力を解放してはならない我々が、唯一自由に天力を解放できる場所です。エーテルの流れを察知して、「どの能力者が」「いつ」「どこで」天力を解放したのかまではっきりと検知・通達するA.S.T「監視者」すらも、ここでは無効化されています。
・・・ですが、だからと言ってSランクとSSランクが本気の決闘を始めて良いわけが無いでしょう、と思うのは私だけなのですか?本当に、ストレスで胃がキリキリ痛みます。
天力の全容がまったくもって分かっていない会長を除けば、恐らく生徒会内で最強と言われる副会長・白里リリ。今現存する人類の中で、たった二人しか確認されていないSSランクであることからも、その実力は明白です。対して、Sランクでありながら実践においては生徒会内でも1・2を争うのでは、と言われている仙聚咲良。ここまで本気で争いを始めてしまったこの二人を止められるのは、もはや会長以外にあり得ません。
しかしその会長は、生徒会室を壊さないのであれば好きにしていいとでも言いたげな顔で、観戦を決め込んでしまっています。あの人は自分が原因でこの争いに発展したことを理解しているのでしょうか?
そうこうしているうちに、目に映る景色はまったく変わっています。白里さんの天力によって作り出された結界が現世とこちらの世界を切り離したのでしょう。見回すとあたりに浮かぶ、剣、槍、火縄銃、弓・・・。白里さんの天力「五聖界」は、その名の通り五種類の結界を使うことのできる力。その一番目、「戦」は、戦争を再現したかの如くありとあらゆる膨大な数の武器が、結界内で指定された者に対しての一斉攻撃を行う。囚われたら最後、結界を壊すか白里さん本人が解くかでもしない限り、死ぬまで武器の雨にさらされることになります。
「ねえねえ、白里くん?僕たちを結界効果の対象には指定していないよね?」
「ああ、していない。」
少し焦りの色を浮かばせた樋口岬が確認をとるも、まったく見向きもせずに端的に答える白里さん。白里さんは関係ない人を無差別に攻撃に巻き込むような人ではないので、指定していないであろうことは予想できますが・・・。とは言え樋口さんの気持ちも分かります。いくら同じSランク以上の人間であろうが、これほどの数の武器に狙われ続けていたら捌ききることはできないでしょう。
・・・・・・私の天力なら勝ち目はありますが。
「やめときなよ、歌那。」
「!?」
声のした方を見ると会長がこちらを見て笑みを浮かべています。
「どういう意味ですか?」
「君が天力を解放しても無駄ってことだよ。」
「どうして・・・。」
「天力を解放しようとしたか分かったかって?そんな気配がしたからさ。とにかく、君が対処できるのはこの盤面のみ。言っている意味、分かるでしょ?」
・・・会長のおっしゃる通りですね。少し冷静になりましょう。私の天力が通じるのは、白里さんが一番目の「戦」を展開しているときのみ。それ以外を展開されたら意味がない。
気配とか、意味が分からないこともありますが・・・。やはり会長は恐ろしい。
しかしだからこそ・・・この戦いを止めてほしい。
「ふん、『玄武』か。そんな木端で防ぎ切れるのか?」
暗赤色に輝いた両目で、咲良を睨みつけながら白里さんが問いました。
「試してみるが良い。尤も、これだけで防ぐなどとは誰も言ってはいないがな。」
対して青銅色に輝く両目で、白里さんを睨み返しているのは咲良。
その横にとてつもなく巨大な・・・・・・亀?を従えながら。
「殺せ。」
白里さんの呼びかけに応じた無数の武器が咲良に向かっていきます。でも・・・
「フフ・・・残念だったな。貴様の刃は届くことはないようだが?」
向かっていった武器は咲良の周りに展開された甲羅によって防がれていました。
「神獣の加護」。咲良の天力であるそれは、まさに文字通り。神獣を召喚し、術者の守護及び敵との戦闘をさせるというもの。
天力のタイプ「拡張型」と対になるもう一つのタイプ「規定型」。
その中でも最強の系統の一端と言われる「召喚系」。
そしてさらにその中でも最強である「神獣の加護」。
これが咲良が生徒会の中でも強いと言われる所以です。使い手である咲良がSランクであることからも、「神獣の加護」が強いのは十分想像可能ですが、なぜこの能力が数ある召喚系能力の中でも最強と言われているのか。それはその圧倒的手数にあります。
通常、規定型の天力は拡張型とは違い手数は少なめです。すでに施された手札の一つ一つが強いから、手数を多くしそれらを組み合わせて戦う拡張型とのバランスは取れているためです。
そして特に召喚系は手数が少ないことで有名です。乗り物や植物、動物など色々な召喚系の天力が確認されていますが、そのどれもが召喚する時だけに限らず召喚物を維持するのにさえ莫大なエーテルを持っていかれているからでしょう。召喚できる対象を増やせば増やすほど、自身が保持するエーテルは削られ戦うどころの話ではなくなります。
しかし「神獣の加護」だけは別。今私が知っている限りでも、彼女が召喚できる神獣は脅威の百体。流石にその全てを一度に召喚、というのは前述したエーテルの関係上無理なようですが、単純計算で咲良は100通り以上の戦い方を併せ持っているということです。彼女の馬鹿げたエーテル量がそれを成しているとは言え、規定型を持つ能力者の大前提である「手数の少なさ」を踏み倒している咲良はSランクに相応しい実力者と言えるでしょう。
そしてその彼女が持つ手札の一つ、肆番「玄武」。亀の体から蛇の尾が生えているそれは、防御にとても適した能力をしています。今見ているように、108の甲羅を術者の周りに展開して全ての物理的攻撃から身を守る、というもの。そこには一切の隙間も存在しません。
ここまでだと、白里さんは負けはせずとも勝てないように思われますね。
ですが、あの甲羅は・・・
「硬いだけで壊れないことはない、違うか?」
「フフ。」
そう、その通りです。あの108ある甲羅は壊すことができる。そして一度壊れた甲羅は、再召喚するまで元に戻ることはありません。さらに言うと白里さんの命に従うあの幾万もの武器たちは、咲良が再召喚のために一度玄武をしまうその一瞬を絶対に見逃すことはないでしょう。
「ふん、随分と余裕そうだが後は俺が玄武の甲羅を削り切るだけで終わりだぞ?分かっているとは思うが、玄武を再召喚するまでの間に貴様を殺すことなど造作もないからな。」
「クク・・・別に一度に召喚できる神獣が一体だけとは誰も言っておるまい?たとえ玄武が倒れようともこの戦況を維持し続けることなどこちらとしても造作もなきことだ。」
ああ、あんまり挑発しない方が良いかもしれません、咲良。そろそろ白里さんの怒りが頂点に達しそうです。
「とは言え・・・いつまでも防御に徹しているというのも中々嫌になるからな。こちらからも迎撃はさせていただこう。」
「現隷・・・拾番」
咲良・・・もうそろそろ本当に終わりにしてほしいのですが!?
「ちっ!第四殲襖戔境墓!」
ああ、白里さんあなたまで乗っからないでください・・・っ!
「【戦暴の貫き】。」
「な・・・!」
「は・・・?」
「え・・・?」
・・・信じられません。
咲良が展開していた召喚陣と、白里さんが新たに広げていた結界の二つが、粉々に砕かれたように消え去りました。・・・こんなことができるのは
「二人とも、そこまでかな。もう十分やり合っただろう?」
両目を金色に輝かせた会長が笑みを浮かべながらそう言いました。
「どういうことだ。結界を破壊したのか?どれだけの硬度だと・・・?」
「・・・(召喚陣そのものを破壊しただと?どういう原理だ?)。」
咲良は黙っていますが、おそらくこの場にいる全員が今起こったことを必死に考えているでしょう。私もその一人なのですから。全くもって何が起こったのか・・・。「アレッソリア」?何をしたと言うのでしょうか・・・?普段、会長を信仰し切っているような表情を絶対に崩すことのない真鈴さんですら、不思議そうな顔をしています。
「まあ、落ち着きなよ。今回は僕のせいでこうなってしまったから素直に謝罪しよう。その上でそろそろ生徒会会議を開きたいから、この辺にしてもらえないだろうか?」
圧倒的。今しがた訳の分からない方法で強制的に戦闘を終了させられた二人は、黙って自分の席に座りました。あれをされてこのまま戦闘を続けるのは、二人でなくても無理でしょうけど。
「さて、それじゃあ諸々の会議に入っていくとしよう。各々、前回の会議以降あったことの報告と、今年度の話について。意見のある者から遠慮なく言ってくれ。」
やはり、全く底が見えませんね。我らが会長は。
怖い怖い。




