戦う意味 壱
「えっ、ちょっ、待っっ!!うわぁぁぁぁ!!!!????」
「ガギンッッッッッッッッ!!!!!!!」
・・・・・・っ!あ、あっぶねぇぇぇぇ!!!!危うく飲み込まれるところだった場面から、横に転がって回避した。よく回避したな、俺。・・・っていうか、横でとんでもない音がしたんだけど。あれ蝕食が歯を噛み合わせた音だよな?え、なんかダイヤモンドで出来た包丁を思いっきり衝突させたような音したんだけど?いや、俺死ぬんじゃ・・・・・・。
「いや〜。よく回避したね、海斗。初めての相対にしては上出来じゃないかな?みんな基本は足が動かないから。前に格闘技とかやってた?」
呑気に声をかけてきたのは、俺をこんな状況に追い込んだ張本人だ。俺が死にそうなのは見てて分かってるはずなのに、そんなことはまるで気にしていないように高い木の枝に腰掛けてニコニコと見ている。
「あのっ!流石に死にますって!」
「グギャァァァァァァァァァ!」
「どわぁぁ!?」
奇跡!!今のマジで奇跡!!咄嗟に右に避けたけど、左に避けてたら潰れてた!!
「楓さん!!!!助けてください!!ほんとに死んじゃいます!!」
「海斗。」
「なんですかっ!!」
「あのね、ぼ「ギャァァァァァァ!!」「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」・・・うん。ちょっとうるさいね。」
何!?なんか言った!?マジでなんも聞こえない!避けることに集中しないとほんとに死ぬ!!
「海斗。」
うわぁっ!?びっくりした!!めっちゃ近くで声が聞こえたから横を見ると、さっきまで上にいたはずの楓さんが立っていた。
「海斗。ただ逃げてるだけじゃ、蝕食は倒せないよ?」
「そ、それは分かってますけど!じゃあどうすれば・・・!」
「おかしいな。君はあの日、能力を使っていたはずだけど?」
「そ、それは・・・。あの日は本当にどうしようもなくて・・・・・・!」
「今だってどうしようもない状況のはずだけどねぇ。まあいいさ。ちょっと下がってて。」
「は、はい。」
言われて下がったけど・・・・・・。楓さん、何をするつもりだろう?
「グルルルルルル・・・・・・」
楓さんの目の前にいる蝕食は、獰猛な目で睨みつけてきている。対する楓さんは・・・いつもの微笑みのままだ。それから数秒、互いに何もせずに時間が過ぎたとき。
「ゲギャァァァァァァ!!!!!!!!!!」
「・・・ふふっ。」
蝕食が大きく口を開けて楓さんに襲いかかったのと、楓さんが笑い、その両目が金の輝きを帯びたのは同時だった。
「【全音消失】」
・・・・・・それをなんと表現すれば良いのだろうか。俺の目の前で楓さんに襲いかかった蝕食は、大きく口を開けたまま、止まった。いや、固定された?とにかく、楓さんの顔に危うく牙がかかるんじゃないか、というぐらいの位置で蝕食は動かなくなってしまった。
「・・・これが、僕たちが扱うことのできる能力の一例さ。」
クルリ、と僕を振り返った楓さんはそう言った。
「能力は人の思考・魂の一部が、なんらかの強い影響を受けて外界に現れるものだと考えられている。だから、能力を扱うにはイメージがとても大切なんだ。願望と言い換えても良い。僕は今、蝕食がうるさかったから、静かにさせたいと思った。そういう願望を強く持つんだ。そうしたら、能力を使うことができるようになる。」
な、なるほど・・・?
「さあ、次は君の番だよ海斗。想いを強く持つんだ。やりたいことをしっかりと心の中で思い描くんだ。あと10秒でこの拘束は解ける。次はもう手伝わないから、自分の力で切り拓いてみて。」
よ、よしっ。俺のやりたいこと・・・。それは当然「復讐」だ。父さんと母さんを殺した奴らをぐちゃぐちゃにしてやりたい・・・・・・!同じくらいの苦しみを与えたい!それができるだけの力を!
「・・・・・・本当に大丈夫かい?その想いで。」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
どういう・・・・・?
「あと5秒だ。」
っ!そんなこと考えてる場合じゃない!集中しろ!ありったけの憎悪を!・・・・・・っ!
「0。」
「・・・ギャ・・・ギャァァァァァァ!!!!」
・・・・・・っ!・・・・・・っ!・・・・・・な、なんで・・・?あの時の火が・・・・・・出ない・・・!
やけにゆっくりと迫る蝕食の巨体を見ながら、そんなことを考えていた次の瞬間には
ドガァァァァァァァァァァァァンンンンンンンンン!!!!!!!!!!
とてつもない衝撃を受け、意識は飛んでいた。
「っは!?」
目を覚ますと、地面に寝っ転がっていた。痛む体を起こして周りを見渡すと、木々は薙ぎ倒され、岩は砕け、落ち葉が舞っていた。
「やあ、起きたかい?」
「!?」
突然声が聞こえた。その方を見ると、楓さんが相変わらず微笑みを浮かべながら岩の上に座ってこちらを見ていた。
「あ・・・あの、俺は・・・・・・?」
「Bランク蝕食に吹っ飛ばされて、意識を失ってた状態だよ。」
「そう・・・・・・ですか。」
じゃあなんで生きてるんだ?とかそんなことはどうでも良くて。・・・・・・結局、能力は発動できなかった。
「あの・・・やっぱり俺があの日能力を発動できたのは・・・・・・たまたまなんじゃ・・・・・・。」
「うーん。一度能力を発動させたってことは、必ずその資格があるってことなんだ。だから能力は発動できるはずなんだけど・・・・・・。やっぱり、海斗が考えた願いが影響してるのかもね。」
「どういうことですか?」
「・・・端的に言うよ?海斗、君は『復讐したい』という願いを抱いた。合ってる?」
「・・・・・・!合って、ます。」
「復讐というのは、自身を嫌な目に合わせた奴に対して抱く憎しみだ。海斗、君の復讐したいという気持ちはとても分かるけど、残念ながらその想いは真の力を発揮しないと思う。」
「どうして・・・・・・ですか?」
「簡単なことさ。君から大切なものを奪った奴は、すでにこの世にいない。違うかい?」
「・・・・・・!それは・・・。」
「まあ、僕が殺っちゃったからね。だから、君が復讐すべき相手はもういないという事実が、能力解放に制御をかけているんだ。解放したいなら別の願いにしたほうがいい。」
「別の・・・・・・願い・・・・。」
それは、なんだろうか。父と母の復讐をしたいという想い以外に抱えている想いなんて無い。
悩んでいる俺を見ていた楓さんは、少し笑って言葉を口にする。
「今すぐ持てとは言わないさ。どちらにしろ、きっかけが少なすぎる。3ヶ月以内に気づいて欲しいとは思うけど・・・・・・まあ、しょうがないことはしょうがない。能力が現状使えないなら、別の方法からのアプローチを試そう。・・・・・・山を降りるよ。」
「え・・・。あ、は、はい。」
やけにあっさりと能力の解放を諦めたような。だけど、その目は俺が絶対に解放できると信じているようで・・・。一体何を考えているのか未だによく分からない。
「あ、そうそう。なるべく足音は立てないようにね。またあいつが襲ってくるから。」
「・・・・・・え゛!?仕留めて無いんですか!?」
「そりゃあね。あいつを倒すのは君の役目だよ。」
「いやいやいやいや!一部始終見てましたよね!?無理ですって!!!!」
「前に説明した通り・・・Aランク蝕食を軽く倒せるようでないと、Aクラスには入れないよ。」
「それでもっ!」
「任せなよ。3ヶ月後までには必ずそこまでもっていってあげる。その代わり、しっかり着いてきなよ。」
・・・・・・無茶苦茶だ。そもそも誰も頼んでないし・・・・・・。
「ふふ。誰も頼んでないって顔してるね?・・・能力を保持しながら基本教育を受けて無いとして政府に一生追われるのと、3ヶ月の訓練で学園の上位まで上り詰めるの、どっちが良いかな?」
「っ・・・。・・・・・・・・・・・・卑怯ですよ。そんなの、一つしかないじゃないですか。」
「まあ、そうなるだろうね。」
「分かりました・・・着いていきますよ。」
「ふふふ・・・。じゃあ、行こうか。」
「はい・・・。いてて。」
立ちあがろうとしたところで全身に痛みが走って顔をしかめる。骨折れてんじゃないの、これ。いやあの衝突で骨折れてるぐらいで済むなら万々歳なのか・・・?
「あ、ごめん。忘れてたよ。」
そんな俺の様子を見た楓さんの両目がまたも光り輝き・・・・・・
「【超治癒】」
「まじ・・・ですか・・・。」
先程まで痛みが広がっていた体は何事もなかったかのような心地よさに包まれている。ていうか逆にめちゃくちゃ力が湧いてきてる。
「さ、行くよ。」
緑の閃光に、固定、回復まで・・・。この人に着いていけば、本当に自分が強くなれるような気がした。
「はいっ!」
こうして、俺たちは一旦山を降りて別の場所へと向かうのだった。
第4話!終わりました!
いろいろ紹介したい設定などもあるので、ちょっとまとめ。
「目が光る」について:特殊能力を持つ人類は、能力を発動させる際に目が光を放つ。その色は千差万別、赤、青、黄、緑、紫、白、銀、金。様々な色を放つ彼らのことを、Sランク以上の知能を持った蝕食たちは「眼光人」と呼ぶ。それは自信を脅かす存在に与えられた侮蔑の言葉であり、ひとえに恐怖の象徴である。片目が光る者と、両目が光る者がいるらしいが・・・?
基本教育の義務:能力を持つ者は全て特能日本学園へと通わねばならない。通うことによって初めて、能力者として国に登録がされ、そうしてやっと国から能力行使の許可を貰うことができる。そのため、学園へと通わずに能力を行使した者は政府によって追われる運命。学園には能力が発動したことと、その能力の出力を感知する機械があるため無登録者は一発で分かる。ちなみに生徒の実力を感知してランク分けしているのもこの機械。・・・・・・一体誰が作り出したんでしょうね。
【全音消失】:神楽楓の、能力の技の一つ。実際、不思議な空間が現れて音を消していたりとか対象を止めていたりとかそういうことではなく、空気そのものの流れ自体を止めることによって空気を震わせて伝達する音を消したり対象を空気の塊ごと固定する技。あまりに凶悪。故に発動してから30秒で自動的に能力は途切れる。一応、任意解除も可能。
【超治癒】:神楽楓の、能力の技の一つ。人の細胞体に干渉しその活動効果を最大限まで高めることで、素早く傷を治し身体に活力をもたらす。細胞が死滅さえしなければ、たとえ心臓が止まろうと再び生き返らせることのできる離れ業。自身にも、他者にも使えるためとても便利。
楓さんの技の名前の由来は、ギリシャ神からです。
・音の神「ミューズ(正確にはムーサ)」
・薬の神「ヒュギエイア」
基本的に能力者は一芸に特化しています。例えば、火を操る力、水を操る力、広い範囲でいくと薄いものを操る力、なんてものもあったりします。そのため、楓さんを絶対に参考にしないようにしてください。彼のように空気を操り、細胞に干渉し・・・なんて芸達者な人は少ないです。まあ、彼の場合もきちんと「〇〇を操る力」の枠に入っているんですけどね。一体何を操る力なんでしょうか。それが明かされるのは一体いつのことになるやら。
次回予告:筋肉は全てを超える・・・・・・・・・らしい。