一番は一番が獲得し得る称号なり。
ハローワールド。遅い時間でごめんね〜。
「一瞬かぁ・・・・・・。」
「一瞬でございましたな。」
それを見ていた楓と草加部は、そう呟いた。
楓は頭を掻きながら考えていた。
自身が直近で教えてきた者が凄まじいポテンシャルを持っていることは理解していた。恐らく、10年間自身の隣でひたすら研鑽を積んできた者にさえ、良い勝負をするのではないか・・・・・・・・・・いや、もしかすると勝ってしまうかもしれない。
勝つとしたなら、あの防御術をどう攻略するのだろうか。
そんな風にさえ思っていた。
それがまさか、一瞬で決着が付いてしまうとは思ってもみなかったのだ。
棗が手を抜いていたことは分かっている。今の戦いをきちんと分析すると、終始棗が有利に進めていたことも理解している。
だが全体を総括して結果だけ見ると、その戦いは余りにも一瞬で終わり、しかも軍配は海斗に上がっているのだ。見る者によっては、海斗が棗を圧倒した、という者もいるだろう。
「・・・・・・・流石に予想外かな。」
———————————————————————————————————————————————————
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・・いや。この状況どうすれば良いんだ?
見ると、円の外に一歩踏み出したままの姿勢で棗さんは固まっており、俺のことをじっと見つめている。
俺は俺で【蛇猪凌】を振り抜いた状態のまま固まっている。と言うよりなんか気まずくて動けない。
試合を見守っていた審判の使用人さんも、どうすれば良いか分からないといった表情で佇んでいる。
・・・・・あなたが試合終了の合図を出せば良いのでは??
「いやーお見事。」
そんなことを思っていたら、突然背後からパチパチと拍手の音が聞こえてきた。振り返ると、楓さんがニコニコしながらこちらの方へと歩いてきていた。
「良い戦いだったよ、二人とも。海斗が本当に棗を攻略できるとは思ってなかったけど。どうやら想像以上に強くなっているみたいだね、海斗。」
ええ・・・?俺が負けると思っていたのか・・・・・・。
「いや・・・・・・勝たないと、追い出されちゃうんで・・・。ちょっと、ここの暮らしは気に入っていたし。」
若干恨みの籠った視線で楓さんを見ながらそう呟くと、楓さんは一瞬ポカンとしてから笑い始めた。
「ふふ・・・・・・ふふふ・・・・・・あははは!!」
え、なに?
「なんでそんなに笑ってるんですか・・・。別に良いじゃ無いですか、貴族みたいな暮らしに憧れても。」
少し恥ずかしくて声が小さくなってしまったが、それを聞いた楓さんは笑みを一層深めた。
「いや・・・そのことで笑っていた訳じゃないんだ。・・・・・・ふふ・・・・・・・棗、そろそろ種明かししてあげたらどう?」
そして同じく話を聞いていた棗さんにこう呼びかけた。
「・・・・・・なんのことかしら?」
やや間を置いて澄ました顔でそう答えた棗さん。
「ふふ、しらばっくれたら駄目だろう・・・?海斗、棗は元々追い出すつもりなんて無かったよ。」
え、
「ええっ!?」
え、待ってどういうことだ?
「ちょっと前からこの『棗ジャッジ』はあるんだけどね、新しく入る使用人の子たちに毎度のごとく棗は課題を課すんだ。大体海斗と同じようなものをね。」
棗ジャッジ・・・・・・。なんて呼び方をされてるんだ・・・・・・。
「まあ当然と言えば当然なんだけど、今まで海斗以外で棗を攻略した者は一人もいない。だけどみんな使用人としてこの屋敷に仕えている。・・・・・・・・さてそれは何故でしょう?」
何故って言われても。
「棗がなんだかんだ理由をつけてみんな雇っちゃうからだよ。『貴方は弱すぎるわ。私の条件を達成することはできなかったけど、このまま一人で生きていくよりもここで訓練した方が良いわ。』とか、『弱すぎて逆に心配よ。ここに住んでちゃんと鍛えなさい』とかね。」
いや、めっちゃ強引。しかも理由は使い回しかい。
「楓、私が意味の無いようなことをしている風に言わないでくれる?ちゃんと実力を見た上で、その人に最適な方法を提示しているだけよ。一人で生きてけるぐらいの実力はあるけど私に勝てないぐらいの人間はちゃんと追い出すわよ。」
「ああ、今まで実例0の人間ね。・・・・・・・見てみたいなぁ。」
「楓!」
顔を赤くした棗さんが楓さんに詰め寄る。
「とまあ、こんな感じさ。勝っても負けても海斗は高確率で入れてた。・・・・・・良かったね、今まで実例0の人間にならなくて。」
楓さんの言葉にすごい皮肉が込められているのを感じたのは俺だけじゃない、はず。
———————————————————————————————————————————————————
一方その頃、楓たちの話を周りで聞いていた数人の使用人たちは・・・・・・
「ま、実際のところ棗さまジャッジは確定で入れるよね。」
「うん、私も楓さまに武術習ってたから、全然実力はあったはずだもん。」
「私は、棗さまジャッジ受けてない組の一人なのでこうして見ると新鮮ですね。」
「なんで始まったんだっけ。」
「そりゃお前・・・棗さまが嫉妬してるからだよ。」
「え?嫉妬?」
「バカ、声小さくしろ!棗さまに聞かれたら半殺しにされるぞ!」
「ご、ごめんなさい。」
「で、嫉妬っていうのは・・・?」
「いや、最近使用人の数も増えて来たじゃんか?ってことはどういうことかって言うと、楓さまから武術を習っている人間が増えたってことなんだよ。」
「あー・・・やっぱり薄々感じてたけど、使用人として仕えている人全員、ここに来る前に楓さまの訓練を受けてる感じ?」
「そうだ。で、ここからが問題だ。知っての通り、棗さまは楓さまが一番最初にお持ちになった弟子じゃん?本人の意思で、メイドとして楓さまに仕え始めたらしいけど。」
「メイドっていうか・・・・・・。」
「・・・・・・敵対者抹殺・楓さま絶対防御メイド?」
「パワーワードすぎる・・・・・・。」
「話戻すぞー。それで、自分の一番弟子としてのポジションが揺るがされるのはプライドが許さなくてあのジャッジを始めたらしい・・・。」
「え、いつもクールな棗さんにそんな可愛いところが?」
「ヤバい、推せる。」
「でもさ、あの子ジャッジ早くない?私たちっていつも大体ここに来てから1ヶ月経ったぐらいだよね?」
「それは彼が俺たちと同じ『使用人』としてじゃなく、明確に楓さまの『一番弟子』としてここに来たからだろ。要は嫉妬が暴走したんだ。」
「でもあの子すごいよね。あの棗さまに勝っちゃうなんて。私たちとは比べ物にならないくらい強い。」
「昨日まであんな若い子に楓さまと同じように仕えるのは嫌だと言っていた奴らもいたけど、今回の戦いを見てそんなことは言えなくなっただろうね。」
「うん。第二の主君ができたんだ・・・・・・忙しくなるよ。」
「そうだな・・・・・・あとしばらく棗さまには気をつけろよ。何しろ『負け』は初めての経験だ。もしかしたらめちゃくちゃ不機嫌になるかもしんないぞ。」
「そうしたら、楓さまか草加部さんを呼ぼう。止められるのはあの二人しかいない。」
「ああ。」
そんな話をしていたそうな。
・・・・・・・ちなみに棗には何故かバレていて、しっかりお仕置きを食らったのだとか。
———————————————————————————————————————————————————
「さて・・・・・・めでたく正式にここにいられることになった訳だけど・・・。」
棗さんたちと別れて、二人で第一邸へと歩いているときに楓さんが声をかけてきた。
「ちょっと付いてきてもらえるかな?海斗に見せたいものがあるんだ。」
なんだなんだ?めんどくさそうな予感。
・いや、棗さま!!俺たちは決して貴方がプライドが高いなどとはっ・・・!
ちょっ・・・!お待ちを・・・グハッ・・・。
・棗さまに向かって嫉妬しているなんていう訳ないじゃないですかあ・・・!
き、聞き間違いですよ。きっと・・・。え、ちょっと待って・・・平手はアカn。




