剛と柔
クソッタレ・・・。仮にも全力で体当たりしに行ったのに、たった一本の人差し指で止めるだと・・・?どんな筋肉量してやがる・・・!
・・・・・・・いやちょっと待て。この感じは・・・
「受け流しの力・・・か?」
「・・・!よく分かったわね。普通、物理的な静止の方が頭に浮かぶはずだけれど?」
うんそれつまり脳筋プレイってことだよな?誤魔化さずにちゃんと言えや。
「最初は浮かんだ。だけどあんたの指にそれほどの筋肉はないし、鍛えてはいるみたいだけど、腕にも俺を止める筋肉はなさそうだった。・・・・・・それに俺の力が一瞬逃がされたようにも感じたし。」
その間、棗さんは目を細めて俺の話を聞いていた。
「・・・そう、単に戦闘を力で押すタイプではないのね。戦術眼も持ち合わせている、と。・・・・・・だけど、その程度なら私を円の外に出すのは、一生かかっても無理ね。」
ほーん?言ってくれるじゃん。
「ハッ。誰がこの程度って言ったんだ?あんまり早計に勝ちを確信するもんじゃないぜ、棗さんよ。」
「心意気は良いわ・・・。だけどその言葉、等しく力で魅せてみなさい。」
「言ったな?とことんやるぞ?」
「やれるものなら、やってみなさい。」
訪れる一瞬の静寂。
「ふっ!」
「・・・!」
瞬間的に後ろへ回り込み放たれた俺の打撃に対し、後ろ手で対処する棗さん。
後ろからの奇襲も効かないってなると大分キツイものがある・・・が。
「【拳魂武術】・・・・・・【揬螺旋】!!!」
「!!」
放った【揬螺旋】に対して、完璧な角度で右手刀を潜り込ませた棗さんによって受け流される。
だけどそのまま攻撃を続ける!!
「【拳魂武術】・・・・・・【乱武乱武】!!!」
これもダメだ。全部いなされる。おかしいな結構な速度で打ってるはずなんだが、全部見切ってんのか?
「【壊弾】!!!そしてぇ・・・・・・【打螺絶拳】!!!」
「ふっ!!」
【壊弾】を放った俺の右手は棗さんの右手によって止められた。そして、棗さんが止めるために出した右手と右腕の下・・・つまりは完璧な死角から左手で放ったはずの【打螺絶拳】も、棗さんの腹あたりで彼女の左手に止められている。
【壊弾】は結構威力があるだろ・・・。少なくとも腕一本で止められる技じゃないし、受け流すにしたって同じことだ。・・・・・・どうなってやがる。
とはいえ泣き言を言ってても始まらない。今ので確信したが、正攻法で殴り続けていてもまあ無理だろう・・・。恐らく力を受け流す技術が達人並みなのはもちろんなのだが、それ以上に動体視力と反射神経、それから経験値が半端じゃない。
さっきの【乱武乱武】も、今の死角からの【打螺絶拳】もそうだ・・・。あの連撃は恐らく全部「視て」対処したんだ。それが出来るだけの動体視力と反射神経を併せ持っている。そして【打螺絶拳】に関しては、恐らく「勘」で対処したんだ。それほどの経験値を有している。
これに受け流しの技術を高すぎる水準で備えているから、全然通じないんだな・・・?
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海斗の推測は、概ね全て当たっている。
ただし一つだけ惜しいところがあるとすれば・・・・・・
(さっきの下からのアッパー?は読みやすかった・・・。ただ、すごい回転をかけてきていたからそのまま受け止めていたら揺らいでいたかもしれないわね・・・。他も同じ。攻撃自体は鋭いけれど、読みやすい。戦闘経験の浅さ故かは分からないけれど・・・。)
海斗が「勘」での対処だと判断したもの・・・・・・棗はそれよりもさらに上の段階へと到達している。すなわち、自身の10年にも及ぶ多彩な経験を用いて、次に来る攻撃を予測し事前に対処方法を構築するもの。
実際、戦闘センスが抜群で成長速度が桁違いであるとは言え、海斗が経験した戦闘期間は3ヶ月にも満たない。その攻撃はどこか直線的で、棗からすれば読みやすいのは確かである。
だがしかし、次の行動を何パターンも予測し一つ一つに対処方法を一瞬で構築する思考回路。そして実際に攻撃が来た時に適切なパターンへ当てはめて対処する反射神経。さらに多少予想と反する結果になったとしても臨機応変に対応する応用力。
これらを高水準で並立させている棗の才能もまた、常識外れでありその裏には10年間の努力が見え隠れしている。それを本人が一番分かっているからこそ、塔棗は強いし、自身の力に絶対的な自信を持って構えることができるのだ。
(若干、私の下半身に意識を集中させながら突っ込んで来る・・・。だけど右腕に力が入っているわね。足払いに見せかけた、正面からの殴り・・・かしら?いいえ・・・さっきみたいな、なりふり構わない連撃の可能性もある。どちらにしろ十分引き付けて受け流せば良いだけ・・・。)
「【拳魂武術】・・・・・・・」
(まだ・・・まだよ・・・。もっと近づいてきてから・・・・。この段階で左腕には力が入ってないから連撃の可能性はない。であるなら、対処は容易・・・。)
棗は自身の力に絶対的な自信を持っている。神楽楓が護りなどいらないことを理解しつつ、それでも尚自身の役割を「護り」として楓の横に並び立つぐらいには。
・・・・・・・・・・・・・・・・故にこそ、見誤る。強者故の油断。
「【飛脚】!!!!!!!」
(!?飛んだ!?・・・・・・だけど、あの動きは完全に打撃を放つことを狙っていたような・・・?)
棗は知らない。たった3ヶ月という期間しか戦闘経験を積んでいないにも関わらず、すでに海斗が複雑な動きを戦闘中にできるようになっていることを。
(・・・いや、そんなことは良い。飛んで後ろに回られたのなら、後ろで対処すれば良いだけよ。)
すでに思考を前へと切り替え、後ろへと飛んで回り込んだ海斗による次なる攻撃に対処しようと、棗は振り向いた。
そして目にする。
すでに眼前で構えられた右腕。
「【拳魂武術】・・・・・・・・・・・・」
(すでに構えている!?走ってきた時から右腕での攻撃は主軸として・・・!対処が遅れた・・・・・・・けど問題ない。受け流すだけ・・・!)
棗は知らない。複雑な動きをできるようになった男は、ただ殴るだけではない・・・複雑な攻撃さえもできるようになっていることを。
「【蛇猪凌】!!!!!!!!」
「!?!?」
それはまさしく蛇の如く、重心を巧みにずらし相対するものを揺らがせる柔らかでしなやかな拳。
しかしてそれは、単にしなやかなだけでなく猪のような剛健さも併せ持つ。
柔と剛、二つを完璧に揃えしとき、全てを凌ぐ拳となる。
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参ったな・・・・・・。
楓さんに教わった技、【蛇猪凌】。重心をずらす、とかいうのが意味分からなすぎて習得に結構な時間がかかった技だが・・・。
その分ああいう「芯」を持ってるような棗さんみたいなタイプには効果的なんじゃないかと思ったけど・・・。
まさかギリギリのところで止められるとはね。・・・・・・・・・・・・・・・・でも。
「・・・・・・・ふー。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見事、としか言いようが無いわね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・完敗よ。約束通り、貴方のことを認めましょう。」
棗さんの足先は、ほんの少し円の外に出ていたのだった。
【獅王】、【虎王】、【打螺絶拳】、【揬螺旋】に続いて、楓の直伝武術シリーズ第五弾。
【蛇猪凌】は楓さんが中国の山籠り修行爺さんに出会った時に見せてもらった技を改良したもの。ちな、楓さんの【蛇猪凌】はヤバい。
今回に関しては棗が選択ミスすぎる。普通に10年の差で攻めたかったのなら、天力の勝負に持ち込むべきだった。そうすればまあ海斗の勝ち目は無かった。
とは言えそんなことは棗自身が最も分かってる。・・・・・・じゃあなんで武術勝負にしたかって?
それは次回明かされるでしょう。




