蝕食、それは人喰らうモノ
地球に突然現れた未知の生物、それが「蝕食」だった。ある日突然、空にできた裂け目から現れたそれは、ムカデのような体に何百もの目と足と触手を持っていた。最初は小さな異形の怪物だったが、その異常な繁殖力と恐るべき進化速度が、人類を絶望へと導いていった。
蝕食は人間を好んで食べ、その食事によってますます強大化し、形を変えていった。その時点では人間が対応できる程の生物だったが、成長し大きくなるにつれ、その体は巨大化していった。さらに、ある一定まで巨大化し切った後は、まるで人間の姿を模倣するかのようにその姿を変え、人型の怪物となり、ついには人間社会に溶け込むようになっていった。
蝕食はその強さによってランク付けされた。どんどん大型となっていく《成長個体》は、サイズによって上からAランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク。そして知能を持ち人に擬態して生きる《最上位個体》は強さによって上からSSSランク、SSランク、Sランク。Sランク以上になると倒すのは非常に困難となり、それまではなんとか対応できていた人類も、Sランク以上の個体が現れてからは地球は侵略される一途を辿っていた。
SSSランク蝕食:《最上位α個体》。一体で数十カ国を滅ぼせるほどの力と知能、経験を積んだと言われる個体。全ての蝕食の頂点に立つ。存在自体は確認されていない。あるSランク蝕食の発言によって、いるということが分かったのみ。
SSランク蝕食:《最上位β個体》。一体で数カ国を滅ぼせる力を持った個体。SSSランクに比べ知能、経験が甘い部分があるらしい。滅多に出現しない。存在の確認は過去3回のみ。そして、3回とも出会った人類は皆殺しにされているため、情報が全くと言っていいほどない。
Sランク蝕食:《最上位γ個体》。一体で一国を滅ぼせる力を持った個体。甘くはあるものの人に擬態し、人間社会を内から蝕んでいく。SSSランクやSSランクからは忠実な部下として危険な場所にも平気で放り込まれることが多いらしい。Sランク以上になると異能力を持ち始め、超常的な力を扱い始めるようになる。滅多に出現しない。過去7回、確認されているものの、殲滅回数は0。かろうじて逃げ帰ることができた人から、その情報がもたらされた。
Aランク蝕食:《超大型成長個体》。異形個体の中でも最大の大きさを誇りその全長は200mにも達する。もう少し成長すると人に擬態するSランクとなる。Sランク以上の蝕食からは貴重な駒として見られ、知能を持たないためよくペットとして扱われることも多い。巨体から繰り出されるパワーは規格外であり、過去に一体のAランクが一撃で東京スカイツリーを叩き折ったことも。基本的には出現頻度は非常に低い。
Bランク蝕食:《大型成長個体》。Aランクに次ぐ大きさを誇り、全長はおよそ50mから100m強。人類にとっては強大な敵であるものの、AランクやSランク以上の蝕食からは、Bランク以下の蝕食は「ゴミ」としか思われていないようであり、よく腹を空かせたAランク蝕食に貪り食われたりSランク蝕食の遊び道具にされていたりする。出現頻度は普通。
Cランク蝕食:《中型成長個体》。全長はおよそ10mから50m弱。装甲がまだ厚くなっておらず、人類の兵器でもなんとか倒せる個体。とはいえ、一匹で民家を薙ぎ倒すほどの力はあるため、油断ならない敵でもある。市街地などで人類の前に姿を現し襲ってくるのは大体Cランク以下の個体。よく現れる。
Dランク蝕食:《小型成長個体》。全長は5m前後。力は一般成人男性よりも少し強いくらいで、動きもそこまで早くないため訓練を積んだ兵などなら一人で組み倒すことができる。装甲も弱く、非常に体は脆い。よくBランクやAランクに喰われている。蝕食関係の事件では大抵存在が確認される。
Eランク蝕食:《微型成長個体》。全長は1m以下。蝕食たちの中で最小・最弱の個体であり、一般人でも容易に倒すことができる。蝕食であるため人を襲おうとはするものの、基本的に返り討ちに合うことの方が多く、Eランク蝕食はいても基本ほっとかれる存在である。そこらへんにいる。
「というのが、『蝕食』だ。」
「・・・・・・・・・」
今、海斗は大人気スイーツ店「ストロロロ・ベリーグッド」にいる。そして、目の前にはこの店の看板メニューでもある「ストロベリーのストロー串刺しパフェ」が二つ、デデーンと置かれている。さらに視線を前に移すと、幸せそうな顔で「ストロベリーのストロー串刺しパフェ」を頬張る青年、神楽楓が。んん??
「どうした?パフェが崩れてしまう前に食べなよ。ここのパフェはめちゃくちゃ美味しいぞ。それとも、食欲無いのか?無いなら、僕が貰っちゃうけど。」
「・・・・・・あの・・・・・・神楽、さん?」
「楓でいいよ。何?」
「・・・楓さん。・・・・・・あの、よく・・・こんな状況で・・・・・・食べれますね・・・・・・。」
ちら、と視線を横に流すと、俺らの席の隣の通路では先ほど楓さんが説明していた「蝕食」とやらが息絶えて倒れていた。
「いや、まあ自分で殺っといてそれを気にするのもね。死んだらもうこの世界にはいないんだから、『何もない』ものとして気にしない方が楽に生きれる。」
そりゃまあ、そうなんだろうけど。俺は渋々パフェを口に運ぶ。モグモグ・・・・・・美味いな!?なんだこれ!苺がストローに刺さってるから、ストローを咥えれば苺ジュースが飲めちゃうし、濃厚な生クリームと苺の相性が抜群だ!こんなの今まで食べたことない!
目を丸くしてガツガツと頬張る俺を見て微笑みながら、楓さんは声をかけてきた。
「それに君だって、もういない者のことは気にしないようにしてるんじゃないのかい?」
———あ。そうだ、パフェが美味しかったのもそうだが、蝕食とやらのインパクトも強すぎて忘れていた。・・・・・・父さんと母さん。
「思い出せと言っている訳でもないし、忘れろと言っている訳でもない。ただ、すでにこの世にいない者を想っても返ってくることは何もないんだ。遺された僕らできることは、彼らの想いを受け取り力に変えることだけさ。」
すごく、すごく優しい声だった。俺を励ましているようでも、殺した蝕食も一つの命として謝っているようにも聞こえた。・・・嗚呼、きっとこの人は俺よりも遥かに多くの別れを繰り返してきたんだな。俺は・・・何ができるだろうか。
「さて、しんみりとした話は無しだ。食べ終わったかい?そしたら出発しようか。」
「出発って、どこへですか?」
「そうだね・・・。まずは海斗の能力を鍛えなきゃいけないから、修行の旅に行こう。」
「目的地とかって・・・?」
「修行の旅に目的地なんてないよ。ひたすら強くなること、それこそが修行の旅だ。・・・・・・ただまあ、修行をした先にあるゴールならすでにある。」
「ゴール・・・・・・?」
「そう。君が目指すのは、君と同じような能力を持つ人々が集まる、『対蝕食特殊能力学園・日本校』だ。」
「たいくるす・・・とくしゅのうりょくがくえん・・・にほんこう・・・?」
「およそ三ヶ月後の四月、それまで中等部で三年間学び続けてきた生徒たちが高等部へと進学する。君をその高等部へ編入させよう。」
「高等部・・・。」
「だが、高等部へ行くためには強さが必要だ。少なくとも三年間学び続けてきた者たちと同程度の、な。」
「それを・・・三ヶ月で???ちょっと待ってください、無理じゃないですか??」
こうして地獄の三ヶ月間が始まる。
恐ろしや蝕食。Sランク以上とは会いたくないものよ・・・。
にしても食べてみたいですね「ストロベリーのストロー串刺しパフェ」。めっちゃ美味しそうじゃん。
で、楓はいったい何者なんだ!?それが分かるのは、だいぶ先かもしれないですね。
※次回予告;死ぬな!海斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!