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バランス 〜自然は時として牙を剥く〜  作者: 水神朱
眠れる獅子よ、いざ吠えろ
16/49

戦う意味 拾参

最近、鼻炎がひどい。

「ハァハァハァハァ・・・・・・・・」


「グルルルルルル・・・・・・・・・」


もう何度目になるか分からない激突をし、もう何度目になるか分からない睨み合いを続ける。ある時は俺が吹っ飛ばされて起き上がり、ある時は蹴り飛ばされた奴が起き上がることで、いつまでもこの時間は続く。


今この時点で、俺と奴の戦いは三つ目の局面にある。最初、スキを誘うことで効果的に攻撃することができていた「攻」の局面。次点、それを攻略され一方的に攻撃を受けていた「守」の局面。そして現在、共に疲弊し決定打を放つことができない状態にある「膠着」の局面。


「膠着」の局面において一番大切なもの・・・・・・・それは体力だ。結局、この局面で求められているのは()()()()()()()()()()()()()()、だからだ。そしてその点において、俺は圧倒的に不利と言わざるを得ない。楓さんの修行をしてきた俺の体力は、人並み以上だろう。・・・・・・だが、()()()()()なのだ。目の前にいる敵は人ではない。恐らく、野生的な蝕食の体力は人よりも格段に上だろう。しかも今目の前にいる個体はBランク蝕食の区分けに位置するものの、その大きさは200m(Aランクの区域)に達しようとしているような、「ギリギリBランク」の蝕食である。その巨体がもつ体力は、いくら修行を積んだとはいえ、自身を遥かに凌駕しているはずだ。


故に、互いにジリジリと削られ続けているこの状況は、自分にとって最悪な状況だ。その状況はなんとしてでも変えなければならないのだが、それを変えるだけの力が自分には残っていない。そして当然、目の前の奴にもそれは残っていないだろう。だから、このままこの戦いは俺が削られ切って終わる。


















そう、思っていた。





















「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・・・・・」











突如として、ズンッと身体にのし掛かった重圧。太く、逞しく育っていた木々を、まるで切れ端の棒かの如くへし折りながら現れた巨体。十分巨大なBランク蝕食の牙よりも、一回り大きく鋭利な無数の牙。




俺の脳は、身体は、その事実を一瞬で認識しそして繋げ、最悪の結論を導き出し本能の警告として教える。
















「これが・・・・・・()()()()の・・・・・・Aランク蝕食・・・・・・!」











ブンッッッッッッ





「・・・・・・・・・っ!」




何がなんだか分からないが、Aランク蝕食がぴくりと動いた瞬間には咄嗟に後ろにいた親子を庇いつつ伏せていた。・・・・・・恐らく、正解だったのだろう。さっきまで「山の中」であった場所が、「丘の上」に変わっていた。見渡すと、衝撃で吹き飛んでいった木々や岩岩が、スローモーションで落ちていくように見えた。


「・・・・・・・・・・・・ここにきて・・・・・!」


それしか言葉は出ない。先ほどまで自分を追い詰めていた敵。満身創痍ながらも、そいつは強かった。・・・・・・だが、ここにきてそいつよりも基礎的なスペックが高い敵が、万全な状態で現れたのだ。悪態を吐きたくもなる。




「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・・・・・・・」


まるで息を吐き捨てるようなその唸り声は、()()を確実に食い殺すという強い意志を周りに知らしめている。



俺に残された選択肢は二つ。


このまま諦めて傍観し、無様に飲み込まれるか。


それとも足掻いてくしゃっと潰されるか。



満身創痍の状態で、想定外の脅威・・・・・・それも普段ですら対処できるか分からない脅威は、人から判断能力を奪い、目の前にただ絶望を置いていくのみだ。


戦って()()者と庇われていた者。3人の「餌」の前にはただ絶望しかなかった・・・・・・。

それは、知能を持った最上位個体へと変異を遂げる前の成長個体の中で、最大最強の区分けに分類される個体。


強靭な牙は鉱石をも貫き、尾の一振りは山をも粉砕する。


戦いは、最終局面へと移り変わる・・・・・・。

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