戦う意味 拾壱
た、だ、い、ま
「お前は『神楽』の時期当主だ。期待しているからね。」
会う度いつもこの言葉を掛けられる。
「楓様、まだ力をお使いできないのですか?」
過度な期待ばかりだ。見たこともない蟲の存在に、皆が心を奪われている。我々『神楽』の家こそが五雄の筆頭家系なのだと意味も分からないことを叫んでいる。
・・・・・・・・・・・・・・・・気持ち悪い。
いつもいつもニコニコと笑いながら、腹の奥では底知れぬ野望を抱く人間たち。それが自身の肉親だというのが恐ろしい。こんな家、出て行きたい。
「おやおや、楓様ではありませんか。またそんな反吐を催した顔をなさって、どうされたのですか?」
ただそんな地獄のような空間にも、常に光があった。
「・・・・・・じぃ。」
他の者とは違う、本心からの笑顔を見せてくれた存在。僕の・・・・・・神楽楓の教育係として配属されたじぃだけが、唯一心から信じられる存在だった。
「あなた様はあなた様が望むように生きれば良いのです。周りの期待に応える必要などありませんとも。」
それがじぃの口癖だった。何度この言葉に救われていたか。何度この言葉で前を向けたか。じぃには計り知れない恩がある。家なんてどうなっても良いが、願わくばじぃとずっと一緒にいたいと思っていた。
あの日までは。
「ハァハァハァハァ・・・・・・・!!!」
ちょっとした散歩から帰って、ボロボロに崩れ去った神楽の屋敷を見たとき、とても嫌な予感がした。慌てて家の中に入って駆けずり回っていると、普段親族が集まる『神楽の間』で親族だったものを見た。どれも醜悪で酷い臭いを放っていた。
だがどうだろう。すでにその者らは絶命していたはずなのに、僕には声が聞こえたように思う。
「なんで私たちを助けてくれなかったんだ!楓!!!」
「自分だけ逃げるなんて!!!!」
「あなたは蟲に対抗できる存在じゃ無かったの!!!」
「期待した我々が愚かだったよ、一族の恥晒しめ!!!」
やめろ。やめてくれ。死んでまで僕を苦しめないでくれ。
「・・・・・・・楓、様?」
「っ!?じぃ!!」
よく聞き慣れた声に咄嗟に振り向くと、皆と同じように血を流しながらもまだかろうじて息はある様子のじぃが横たわっていた。
「・・・・・・!待ってて、今救急車を・・・!!!」
「・・・・・・残念・・・ですが・・・じぃは・・・ここまで・・・のよう・・・です。」
今でも忘れない。絶望に前が染まり、いっそのこと自分も死んでしまおうと本気で考えた。
「・・・楓様・・・どうか・・・自ら・・・命を・・・絶たない・・・ように・・・。」
「っ!!・・・もう、じぃがいない世界になんて生きてても意味がないよ・・・・・・。」
「・・・それでも・・・生きるのです・・・。絶対に・・・良いですね・・・?」
「・・・・・・。何を目標にして生きれば良いのさ・・・・・・。」
「・・・・・・残念・・・ですが・・・神楽家が・・・言っていた・・・蟲が・・・侵攻・・・しようと・・・してきて・・・います。これから先・・・・・・此度のような・・・・悲劇が・・・・・幾度も・・・起こる・・・。楓様は・・・・・それを・・・・無くせる・・・・人に・・・なって・・・ください・・・。あなた様なら・・・・・・必ず・・・できます・・・・。」
「そんな・・・・・・いきなり言われたって、僕にはできないよ・・・・。」
だけどじぃは、ふふっと笑って搾り出すように言った。
「『安倍』は一代で途絶え・・・・・・『夜夢』と『桜狼』は共倒れ・・・・・・。今残るは、『神楽』のあなた様と・・・・・・『天音』・・・・・・のみ。・・・・・・・楓様・・・・・どうか・・・・・・末長く・・・・ご達者で・・・・・。」
それが、じぃの最期の言葉だった。
僕が15歳の時の出来事だ。
後になって能力が開花した時、自分を呪ったのはまた別の話。
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「【拳魂武術】・・・・・・【払揬滕翹絇】!!!!!!」
「ゴァァ!?!?」
「おいおい、殴りが蹴りに変わっただけだぜ!?なんでそんなにダメージ受けてんのかなぁ!?!?今まで殴りの動きにばっか慣れてたせいで、蹴りは新鮮だってか!?」
「グルルルルルル・・・・・・・・ゴァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
うおっと。危ない危ない。とはいえ、相変わらず両腕は粉砕されてるし、体もあちこち痛みが広がってきている。戦えるのもあと少しだろう。だがそれは向こうも同じ。もう何時間か分からないくらい戦い続け、奴の装甲もボロボロだ。だから前よりも攻撃が通りやすくなっている。こちらが先に動けなくなる前に、絶対に決め切る!
「ゴァァァァァァァ!!!!」
「【拳魂武術】・・・・・・【抜脚】!!!」
「ゴァァ!?!?」
「ぐぅっ・・・!!!」
お互いがぶつかり合って両方吹き飛ぶ。だけど、だいぶ動きが遅くなってきている。後はどちらが先に倒れるか、ということだが・・・・・・・・・
「お、お母さん・・・!あの化け物・・・・・・・・・何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
な、なんで・・・・・!・・・・・・・・・登山者がここにいるんだ!?
「グルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・まずい。
それは、まだ「最強」になる前の記憶。
そして、先に来たのは二人の犠牲者。




