戦う意味 捌
3日目・・・・・・三日坊主と言われた自分もとうとう今日で終わりなのか!?
頑張っていこう!!!
メギメギバキボキ・・・・・ゴギッ
凄まじい音が山奥に響き渡る。木々が薙ぎ倒される音だ。
ドゴンッバゴンッ・・・・・ゴガンッ
凄まじい音が山奥に響き渡る。岩岩が破壊され、地に巨体がぶつかる音だ。
逃げる。避ける。ひたすら逃げる。ひたすら避ける。
血走った目(何十個もあるからどれが目なのか、はたまた全部見えているのかは分からないが)で狂ったように攻撃してくるBランク蝕食に対し、俺はひたすら逃げに徹する。イライラしているのだろう。ただでさえ身体の小さいやつが、攻撃を捨ててちょこまかと逃げに徹しているのだ。身体が大きく攻撃方法も範囲攻撃と言っていいBランク蝕食からすれば、攻撃を当てるのは至難の業だ。怒るのも分かる。
だが俺に攻撃を当てられない理由はそれだけではない。
避けてるときに肌で感じる。お互いゴリゴリに殴り合っていた先程までと比べ、攻撃が大振りになっている。怒りは冷静さを失わせる。結果、攻撃から繊細さも奪い取っていくことになる。必然的に、攻撃を避けやすくなっているのだ。そして、冷静さを失わせるということは、もっと恐ろしい結果へと結びつく。
「くっ。」
「グルルルルルルル・・・・・ゴァァァァァァァァァァ!!!!!!」
岩壁まで追い詰められた俺を見て、Bランク蝕食は勝ち誇ったような叫びを上げ、突進してくる。だが・・・
「ふっ。【拳魂武術】・・・・・・【飛脚】!」
飛び上がった俺を捉えられず、その勢いのままBランク蝕食は岩壁へとぶつかっていく。あーあ、痛そう。だけど、そんなもので終わりじゃない。
「【拳魂武術】・・・・・・【衝隕落撃】!!!」
「ゴギャァァァ!!!!」
落下エネルギーが加わった、全力の隕石落としだ。それを、頭にまともに受けたBランク蝕食が堪らずのたうち回る。
壁際に追い詰められてあえて「隙」を見せることで攻撃を誘い、逆にカウンターを決める。相手が攻撃してくるのが分かっているなら、それを避けることは容易い。まして冷静な判断力を損なった今の奴なら尚更だ。
しかしすごいな。お互い殴り合っていたさっきまでは、全然攻撃が通らなかったのに、今は攻撃が簡単に通る。・・・いや、正確には敵が自分から弱点を曝け出してきてくれている。これが父さんの言っていた「隙を誘う」ってやつか。確かに、これは弱者が強者に打ち勝つために必要な技だ。
「ゴァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
おっと。またひたすら逃げる。逃げて逃げて、ちょうど奴の怒りが頂点に達したな、と感じたときに合わせて自らの隙を見せる。すると、奴は必ず飛び込んでくる。
「ゴァァァァァァァァァァ!!!!!」
「【拳魂武術】・・・・・・【壊弾】!!」
服が木の枝に引っかかって身動きが取れなくなったように「見せかけた」俺に、Bランク蝕食は突進してくる。が、素早く横に避けた俺を捉えきれず素通りしたところを、後ろから殴りつけてさらに吹っ飛ばす。吹っ飛ばした先にあるのは、蝕食が暴れ回ったことで砕かれ、鋭利になった岩肌。
「ゴァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?」
ものすんごい速度でぶつかってきた蝕食の硬い装甲を、それは遠慮なくゴリゴリと抉る。そして蝕食はそれに悲鳴をあげる。
「ちょっとは学習したらどうなんだ?」
これ、イケる。勝てるぞ!
神楽楓はそんな海斗の様子を少し離れたところから見ていた。
「すごいな。巧みに蝕食を動かしている。」
どこでそんな技術を身につけたのか、と疑問に思いつつも、楓は目を細めて弟子の成長を喜んでいた。
「能力なしで、ほぼBランク蝕食とあそこまで渡り合えるなんて。本当にすごいよ、海斗。
君もそう思うだろう?歌那。」
「やはり・・・・・・気づいていましたか。生徒会長。」
楓が呼びかけた先の薮を掻き分け、姿を現した星降歌那は、学園の頂点であることを示すその役職の名と共に、楓にそっと呼びかける。
「僕が気づかないわけがないでしょ?他にもAクラスの生徒を5人引き連れてきているね?」
「・・・・・・!そんな、ことまで。」
「久しぶりだね。おおよそ8ヶ月ぶりかな?『生徒会長』はやめてって言ったはずだけど。」
ピリッ。2人の間に張り詰めたような緊張感が流れる。
「・・・・・・ふふっ。冗談冗談。今日はなにをしに?まさか、僕を見つけたからって訳じゃないよね。」
楓が笑い、明るく話し始めたことで緊張感はほぐれる。
「まさか。ここに来たのはBランク蝕食とAランク蝕食の討伐のためです。あなたがの姿を見たときには心底驚きましたよ。」
「そう・・・。Aクラスの5人は何を?」
「近隣の住民の避難をさせています。Aランク蝕食もこの山に向かっていたので、私が来たのですが・・・・・・。まさか、Bランク蝕食相手に能力も無しに戦っている者がいるとは思いませんでした。」
「だろうね。能力使ってないから、そっちの検出機にも引っ掛からなかったのかな?」
「ええ。とりあえず、私はAランク蝕食を討伐してきますね。楓さんは能力使用の許可、政府から取って無いですよね?何回か使ってたみたいですけど、やめてくださいね。・・・じゃあ、行ってきます。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だよ。」
Aランク蝕食を討伐せんと動き出した歌那に、楓は待ったをかける。
「えっ?」
当然、意味がわからず聞き返す歌那。
そんな歌那に、楓は微笑みながら告げる。
「この山に集結する蝕食は、全てあの子が倒さなければならない。修行の意味がない。」
「・・・・・・私は、直々に討伐命令を受けて今この場にいます。ですので、あなたが彼をどうしたいのかは分かりませんが、私にはAランク蝕食及びBランク蝕食を討伐する義務があります。」
少し困ったような表情をして、歌那はそう返す。
「そうか・・・・・・。じゃあ、言い方を変えるね。命令だ、歌那。ここにいて。」
「・・・・・・っ!」
歌那に討伐命令を出したのは、他でもない学園の校長である。そして、その命令は基本的に何よりも優先しなければならないものだ。・・・・・・・例外として、ある一人の命令を除いて。
いかに校長の命令とて、いかに学園最高権力の一柱である監査委員長の星降歌那とて、逆らえない、逆らってはいけない者がいる。
それは、名実ともに学園の最高権力者、学園の頂点に立つ、生徒会長、神楽楓その人である。
「・・・・っ。承諾できません、楓さん。確かに彼は強いですが、能力も無しにAランク蝕食とBランク蝕食を相手取るなど不可能です。無駄死にさせる気ですか!?」
「だから、能力は覚醒するよ。この後ね。僕には分かる。それに、たとえ能力が覚醒しなかったとしても、僕がいる限り死なせはしない。」
「・・・・・・っ、それでもっ!」
「それとも・・・・・・今ここで戦るかい?不服なら、かかっておいで。」
「・・・っ!!!・・・・・・・・・・っ分かり、ました。・・・・・・信じますよ。」
命令に従わないのなら、今この場で叩きのめす、と言わんばかりの楓の言葉。歌那は、楓と戦っても絶対に勝てないことなど明白であるが故に、その言葉に従うしかない。
「ふふ・・・。」
楓は相変わらずにこやかに微笑む。その笑顔の裏に一体どんな想いを抱えているのかは、本人にしか知り得ない・・・・・・。
そしてそんなことはつゆ知らず、一人と一匹の戦いは続く。今この時点ですらも、まだまだ始まりに過ぎない。大きな一匹の乱入者と、小さな二人の犠牲者。どちらが先にこの死闘に出会い、どんな影響を及ぼすのか。それを知る者はこの場にはいない・・・・・・。
それは、最高権力者。学園の頂点。誰も逆らえず、誰も勝てない。人類最強の者。
やーと楓さんの正体が分かったと思ったら、めちゃくちゃヤバい人でした。