プロローグ
「はあっ。はあっ・・・!・・・くそっ!」
一人の少年が路地裏を走り抜けていく。少年は度々後ろを振り返りつつ一心不乱に走り続ける。ときどき涙を拭いながら。
少年が路地裏を200mほど走り抜けたとき、後ろから少年を追うものが現れた。それは到底人と呼べるような形をしていなかった。体長はゆうに10mを超え、体はムカデのように長く分厚い装甲に囲われている。何百もの目と足と触手を持って、ものすごいスピードで少年を追いかけてきていた。
200mあった距離はどんどんと縮まっていく。周りの建物は怪物が通るたびに破壊され押し潰されていく。少年は必死に逃げ、曲がり角を右に曲がったが、その先は行き止まりだった。振り返るとちょうど化け物が曲がり角に到着し、少年と目が合った。その目は少年を「獲物」として捉えている獰猛な目だった。
終わった。この現場を見ていた者であれば誰しもが口を揃えてそう言っただろう。だが、少年の目は未だ微かに闘志を残しているようだった。
左右は壁。後ろは行き止まり。前には捕食者。逃げる術はない。故にこそ・・・他に方法がないと直感した少年は構えをとり深呼吸して気持ちを落ち着かせる。静かな静かな路地裏に、化け物と人の吐く吐息の音だけが響いた。そして、少年の右手がゆっくりと化け物へと向けられた。
突如、少年の右目が黄色く光り、構えた右手から炎が生じ化け物へと向かう。炎は矢の如く突き進み、化け物に当たった。・・・だが化け物は何事も無かったかのようにそこにいる。化け物を覆う分厚すぎる装甲は炎では焼き切れなかった。少年は全力で炎を出し続けるが、全て通じることなく、やがて力を使い果たして地面に膝をついた。
父親と母親を殺した憎き相手が目の前にいるのに、少年は仇を取ることが出来ない自身の無力さに唇を噛む。
「自分も父と母のように食われるのか。」
その思いが頭を巡る。力が及ばなかった悔しさに涙を流れる。せっかく父と母が命懸けで逃がしてくれたというのに。ごめんなさい・・・。自分は結局逃げきれなかった。
地面にへたり込んで動かなくなった獲物を前に化け物は大きな口を開ける。幾つもの血が重なったような吐き気を催す匂いが少年の鼻をついたとき、死を覚悟して目を瞑った少年の瞼の裏をも染めるような緑の光が走った。ゆっくりと目を開けた少年は、すぐに目の前に立つ青年を視界に入れた。その青年はどこか・・・人間離れしたような雰囲気を醸し出していた。全身を黒い服で覆い、化け物と少年の間に悠々と立っている。
青年は少年を見て微笑んだ。そして彼は少年へと「大丈夫か?」と声をかけた。突然声をかけられたことに戸惑いつつも、少年は「は、はい。」と返事を返す。だが、その頭の中は疑問に溢れていた。「彼は誰だ?」「なんで自分は生きてる?」「そもそも、後ろは壁で前は化け物が占めているのに、どこから現れた?」しかしそれを考える暇もなく青年の後ろの化け物が動き出していた。大きな口を開け青年に襲い掛かろうとする。
「危ないっ・・・!」
少年が叫んだときには、もう青年の手は化け物へと向けられ、その瞳は二つの金色の光を放っていた。
「Cランク如きが調子に乗るな。」
そう言った青年の手からは緑色の閃光が放たれる。閃光は化け物の頭から尾までを一直線に貫き体に丸い穴を開けた。しばらく動きを止めていた化け物はそのまま地面に倒れ込み、いくらかもがいていたがやがてピクリとも動かなくなった。あまりに一瞬の出来事に少年は驚き声を出すことができない。そんな少年を振り返って見た青年はまた声をかける。
「・・・到着するのが遅れて、すまなかった。僕が来るまでよく耐え忍んだね。・・・よく、戦った。」
少年はその言葉をしばし噛み締め、父と母を想い涙を流す。
「俺は・・・あの化け物を殺したいと思ってて・・・。気づいたら手から火が出てて・・・。それを必死にぶつけて・・・。だけど、あの化け物には通じなくて・・・!」
まるでダムが決壊したかのように、少年の口からは言葉が溢れ出す。それを静かに聞いていた青年もまた、言葉を紡ぐ。
「・・・ああ。あいつらは並大抵の攻撃じゃ傷一つつかない。・・・誰か、失ったのか?」
「・・・・・・父と・・・・・・母を・・・・・・。」
青年はしばし目を伏せる。この年で、両親を失うことはどれほど辛いだろうか。そして、青年はそういった者たちを何人も見てきている。故にこそ、言葉をかける。
「・・・そうか。・・・本当にすまない。もっと、早く到着していれば・・・。・・・・・・君の・・・悲しさを和らげることはできないが・・・・・・『奴ら』を倒す方法なら教えられる。今も世界のどこかで君のような人々が増えている。・・・・・・君の『力』はその人々を救うことができる。・・・・・・・・・ただ、一歩この世界に足を踏み入れたら終わるまでは地獄だ。・・・・・・それでもついてくるか?」
そう言って青年は少年に手を差し出した。
倒す・・・?救う・・・?なぜ、見ず知らずの人を助けるために、自分がもう一度あの化け物と関わらなければならない?自分が失った大切なものはもう帰ってこないと言うのに。そう考えた少年は、少し戸惑い、それでもゆっくりと青年の手をとった。目的は「救う」ことではない。「復讐」だ。
そんな少年の想いに気づいているのか気づいていないのか、青年は少し悲しげに目を細めた後、また同じように微笑みを浮かべる。
「僕の名前は神楽楓。・・・・・・君の名前は?」
「・・・海斗。天音海斗です。」
「そう。これからよろしく。海斗。」
こうして、少年は激闘の世界へと身を投じていくのだった。
初めまして!最近ものを書きたいという欲が溜まりに溜まりまくっていたので、いっちょ書いてみようかと書き始めました!友情あり、喧嘩あり、恋愛あり、感動ありなバトルものにしていく予定です!稚拙な文章だとは思いますが、ちょっとした隙間時間にさささーっと読んでいただければ幸いです!批判・意見などもどしどし下さい!参考にさせていただきます!それではこれから、よろしくお願いいたします!
※次回はこの作品の設定などを入れていきます。化け物とはなんなのか、人がなぜ光や閃光を出せるのか、主人公を救った青年は一体・・・?などなど、お楽しみに!え?あらすじから大体わかってるって?読んでくれよ〜。