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氷の貴婦人  作者:
第一章 最初から破綻した結婚
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洗礼式での醜聞

 二人の顔を見て、サイラスはすぐに悟った。この二人はアトレーの子供だ。

 もう一人はいったい誰が産んだのだ? しかも同い年。しかもほぼ同じ誕生日。こんな事をしておいて、何も覚えがないとよく言えたな、と腹が立った。


 洗礼を受ける子供の家族の方を見るとソフィがいた。冷静な顔でこちらを見ている。彼女は知っていたのだ。その子の母親とアトレーが関係していることを。

 だからおかしくなり、そして変わった。

 隣に立つアトレーはと見ると、そっちは青い顔をしている。知らなかったのか。全く馬鹿だとしか言いようがない。


 そして子供達が、貰ったお土産を手に、各々の親の元に戻って行く。

 例の子供が戻った先は、ソフィの姉のマーシャの元だった。


 最悪だ。王太子は、顔を覆った。



◇◇◇

 

 アトレーに手を引かれてキースが戻って来ると、ゲート伯爵夫妻は微笑んで孫を迎えた。アトレーはいつの間にか、どこかへ行ってしまった。

 ソフィは相変わらず、子供に興味がないようだが、今日は珍しく、少し口元が笑っている。

 そこにキースによく似た子供を連れた年配の夫妻が近付いてきた。マーシャの嫁ぎ先のサウザン子爵夫妻だった。


「ソフィ様、お久しぶりですね。あなたのお子様と家の孫がそっくりで、驚いて居ましたのよ。お子様のお顔を見せてくださいな」


 そう言ってマックスを前に出した。


 子供の顔を見てぎょっとしたのはゲート伯爵夫妻だった。キースにそっくりだ。そしてアトレーの小さい頃にもそっくりだった。

 二人共血の気が引いて行った。


「最近、この子の髪の色が茶色から金色に変わって来て、目の色も、我が家の血筋にはないものだったので驚いたのだけど、ランス伯爵家の遺伝なのね。マーシャからそう聞いてはいたけど、マーシャも金髪ではないし、不思議に思っていたの」


 にこにこしているサウザン子爵夫人に、ソフィも薄く微笑んで答えた。


「ランス伯爵家の髪の毛は茶色で、瞳も茶色ですわ。姉も私もそうだし、両親もそうなのです」


 言葉を理解するまでしばらく掛かったようで、子爵夫妻はぽかんとした顔のまま目を見張っている。


 そこにアトレーが戻って来た。マーシャが見つからなかったようで一人だった。

 その顔と、金髪と緑の目を見た子爵夫妻は、一気に結論まで到達したらしい。

 まじまじとアトレーを見つめていた二人が動いたのは、姉の夫のザカリーがやって来た時だった。


「ザカリー、ここを出て戻りましょう。早く」


 子爵夫人にせかされて、ザカリーは面食らったように周囲を見て、キースに目を向けた。


「やあ、従兄弟同士そっくりだなあ。血は争えないね」


 空気が更に凍てついたが、まだアトレーに気付いておらず、嬉しそうに続ける。


「産まれた日もほとんど一緒だし、双子みたいだね。ソフィ嬢のお子さんは結婚してすぐにできたんだよね。僕達のところはなかなか授からなかったから、君の結婚にあやかれたのかな」


「そうですね。私の結婚式のおかげかもしれないですね」


「本当だよ。ありがとう」


 シンとした沈黙が流れた。


 異様な緊張感を感じ取ったザカリーが、不審気に周囲を見回し、アトレーに目を留めた。

 無言のまま顔が赤くなり、拳がキツく握り締められていく。


 均衡を破ったのはソフィの笑い声だった。楽しそうに小さく笑っている。

 皆が呆然と見つめる中で、彼女は、軽やかに言った。


「こんなことってあるのね」


 面白そうに無邪気な顔で、口元を扇子で覆ってふふふと笑う。


 周囲の目はこの集団に向けられていた。それこそ一目瞭然だ。何がいつ行われたか、丸わかりだった。疑う余地が全くないので、取り繕うことも、言い訳も無理だろう。


 そして氷の貴婦人が楽しそうに笑っている。最近の冷たく妖艶な雰囲気を脱ぎ捨てたかのような、可愛らしい表情で軽やかに笑っている。


 ソフィの友人、知人や、最近の彼女の崇拝者達は皆悟った。彼女は、夫が姉と不貞を働いていたのを知っていたのだ。彼女が変わった李湯はここにあったのだ。

 グレッグがアトレーの肩を乱暴に掴み、無言でそのまま外へ引っ張って行った。



「私、実家に帰りますね。今までお世話になりました」


 ソフィは笑顔のままそう言って軽く頭を下げ、両親の腕を取り外に出ていこうとした。両親は硬い顔をしているが、ソフィに引かれるまま、ぎくしゃくと歩き始めた。


 それをゲート伯爵夫人が引き止めた。


「この子は、キースはどうするの」


「間違いなくアトレー様の子供ですわ。お好きにどうぞ」


 そしてそのまま行ってしまった。

 そっくりの子供達は、きょとんとして大人たちの顔を見回していた。



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― 新着の感想 ―
まあ、そりゃあ大体はそうなるよね。反対で男が托卵されてたの分かった時だって普通に愛情が反転したり、相手の何もかもが嫌になる方が多いし。子供も知らずに愛情持って育ててても発覚したら、それでも親で愛してる…
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