表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の貴婦人  作者:
第一章 最初から破綻した結婚
8/58

洗礼式の朝

 ソフィとグレッグの前に、乳母に伴われキースがやって来た。伯爵夫妻も一緒だ。


「おはようございます。お母様」


 キースがソフィを見て駆け寄り、嬉しそうに挨拶する。そのうれしそうな様子と、天使のような愛らしさに、グレッグの顔はだらしくなったが、ソフィには何の影響も及ぼさないようだった。


 ソフィはキースがそれ以上近寄らないよう手で制し、きっぱりと言った。


「私はあなたのお母様ではないの。だからこれからは、そう呼ぶのはお止めなさい」


 この言葉にはグレッグも驚いてたしなめた。


「ソフィ、それは、あんまりなんじゃないか」


 ソフィはグレッグの方を振り向いてから、背筋を伸ばして周りを取り囲む人々を見回した。


「今後のこの子供の幸せのためには、そのほうがいいと思うの。

 洗礼式を節目として、ちゃんと線引きしましょう。伯爵夫妻、お認めいただけませんか」


 伯爵は帽子を指で被りなおしながら、キースを見つめた。

「どうにかならないか、と言っても無駄なんだな」


 キースを乳母のもとに戻らせ、少し離れるよう指示してから話し始めた。


「はい、私も母を慕っておりますので、あの子供の気持ちはわかります。

 努力はしたのです。せめて花や本や星が好きなようにでも関心を持てないかと」


 ちらっとキースを見てから続けた。


「駄目でした。これからもっとアトレー様に似たら、この子を見て吐くかもしれないのです。罪のない子供を不幸にしたくはありません。今の内に関係を整理したほうがいいと思います」


 伯爵夫妻は、その言葉に反論も同意もできずに黙って聞いていた。


「最後に子供に謝らせてもらえませんか」


 キースがソフィの前に連れてこられた。触れるほど近くに寄ったのは初めてで、戸惑いながらも嬉しそうにしている。


 ソフィはキースの前に膝を突いた。


「キース、心の弱い私が悪いの。ごめんなさいね。皆に可愛がられて幸せになってちょうだい」


 キースがソフィに腕を伸ばしたが、ソフィはそれを無視した。そしてグレッグの差し出した手に捕まって立ち上がり歩き去った。



 その様子を見ていた伯爵夫妻と使用人達は、病気のせいだと理解してはいたが、感情が納得しなかった。腹が立ったり悔しかったり悲しかったりと混乱して、気持ちの持って行きどころが無かった。


 しかし、どうとも出来ない。それに、使用人達もわかっていることだった。内輪の賭け事で、もう少し成長したキースを見て吐く方に賭けている者が半数もいるのだ。



 ゲート伯爵家の一行が教会に着くと、ランス伯爵家は先に着いていたようだった。めでたい日なのに、ソフィの両親は、なぜか落ち着かなげだ。

 母がソフィの方にやって来て、袖を引いた。


「ちょっと、向こうで話さない? 聞きたいことがあるのよ」


 そう言って教会の庭の人気のない隅に行ってから切り出された。


「マーシャの産んだ子供の事、ソフィは初めて見るのよね」


「ええ、そうよ」


「あのね、キースと似ている気がするのよ」


「そうね。そっくりね。双子みたい」


 母はそっけなく言うソフィの手を取り、軽く揺すった。


「あなたは、もしかして知っていたの?」


「ええ、知っていたわ。結婚式の二日前にベッドにいる二人を見たわ」


 母が口を手で押さえた。その時の子なのね、と言った。


「そうね、二人の永遠の愛の結晶ね」


 母は、泣かないソフィの代わりに、ソフィの体を抱いて泣いた。



 洗礼式では、子供たちが一人ずつ順に前に出て、洗礼を受けていく。マックスとキースは、生まれた日の順で前後して並んでいた。マックスがキースの前にいる。


 余りにも似ているし、前後して並んでいるので、係の人間がキースとマックスを、双子の兄弟だと勘違いしたようで、二人を一緒に神父の前に進ませた。

 

「かわいい双子だね。お名前を言えるかな?」


「マックス・サウザンです」

「キース・ゲートです」


「双子じゃないんだ。それでは、二人は親戚かな?」


「ううん、知らない子だよ」


「僕も、初めて会った」


 神父は一瞬詰まったが、そそくさと洗礼を授け、二人を王と王太子の元に回した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ