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氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
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行方不明の子供達

 この日、キースは届け出ている五時になっても、寮に戻らなかった。

 夜の六時に、寮監の先生たちが再度ミール邸に出向き、マックスの体調とキースの訪問について尋ねた。

 キースは三時頃に見舞いにやって来て、体調が良くなったマックスと二人で寮に戻ったと返答が来た。


 二人がまだ戻らないと告げると、母親はひどく驚いていた。


 先生方は、今の状況を危惧し、ランス家とゲート家に連絡を入れた。

 すぐに両家の伯爵夫妻たちが学園に駆け付け、先生方から経緯を聞いた。


 親代わりの四人が顔を見合わせた後、何事かを覚悟した様子でランス伯爵が、ここだけの話として欲しいと言ってから話し始めた。


「マックスの母親は問題のある娘で、マックスや私達とは正式に縁を切っています。学園への届出も、母親の欄は無しとしています。貴族としての誓約で、接近禁止の約束をしています」


「母上は、二人が寮に戻っていないことを聞いて、非常に驚いていましたが」


 先生方は、そう言って困った表情になった。彼らの考えていることは大体わかる。

 ランス伯爵は、一拍置いてから続けた。


「普通に考えれば、子供会いたさの母親と、母に会いたい息子が示し合わせたと思うでしょう。だが、あの娘は普通が通用しないのです。そして、ミール侯爵は監禁癖があり、社交界から締め出されている人物です。前の奥方の死亡原因も、束縛と監禁での気の病という噂があります。彼は美しい人間を監禁して楽しむという、理解できない性癖の持ち主です」


 今度は本当に先生方の顔が青くなった。

 居なくなった二人は、彫像のような美少年たちだ。


「以前の事件は嫡男が阻んだため、噂はあまり広がっていません。社交界からの締め出しと、皇都から離れた場所への移住、後継者への爵位の譲渡が早目に行われる予定でした。ところが、つい先日その嫡男が病死したのです。まさか彼らが、こちらに戻っているとは思いませんでした」


「では、侯爵邸に二人が捕らえられていると思うのですか?」


「たぶん。でも二人が帰ったと言い張られたら、嘘だと決めつけることもできない。証拠はないのだから」


 ランス伯爵がそう話した後、ゲート伯爵がもう一つの疑問を口にした。


「マックスに関しては言い訳ができる。母親が子供を手元に置きたい、あわよくば侯爵位を与えたいと言うものです。

 でも、キースには言い訳が成り立たない分、ただでは済まないとわかっているはずだ。それでも彼を監禁しているなら、徹底的に隠すしかなくなる。命の危険もありうると思います」


 そう言ってから、自分の言葉で焦ったゲート伯爵が立ち上がった。


「今から訪問します。王宮にも遣いを出して、協力を仰ぎます。居場所がわかっているうちに、なんとかしないと」


 突然起きた大事件に、先生方も同行を願いでた。王宮にはすぐに遣いが走った。

 あいにく王達は他国の要人接待で離宮に行っており、連絡がつかなかったので、彼らだけでミール侯爵邸に向かった。


 門の前で訪問を告げると、事前の連絡もなしで格上の侯爵邸に、いきなりやってくるとはと相手にされなかった。伯爵位の彼らでは、身分上無理を通すことができない。


 ランス伯爵夫人が応対に出て来た執事に、娘のマーシャと話をさせてと言付けると、マーシャが門前まで出て来た。


「マーシャ。マックスとキースはここにいるの? 何をしようというの?」


 マーシャは蔑むような目で全員を見渡した。


「私はあなたの娘じゃ無いわ。縁を切ったのはそっちよ」


「マックスはあなたの息子じゃないの。何てことをするの」


「マックスにとって悪い事なんかするはずがないでしょ」


 ランス夫人が食いさがった。


「じゃあ、キースは? あの子はどうする気なの? 二人を返して」


 あ~ら。何のことかしらと言いながら、マーシャは屋敷内に戻ってしまった。


 門番から、ここから離れるよう言われ、全く手が出せないまま、伯爵達は学園に戻るしか無かった。

 ランス夫人は、マーシャがいるのだから変なことにはならないわ、と何回も何回も言う。それを一番信じていないのは彼女かもしれない。



 学園に全員で戻った後、広い貴賓室に通された。その部屋に、休みで家にいた学園長や教頭や教師の主だった者が続々と集まって来た。

 なにせ生徒が2名も行方不明なのだ。

 夜の九時から緊急の会議が開かれたが、解決策は出なかった。



 黙りこくった四人を先生方が励ましていたが、それも効果が無かった。

 母親が付いているのだからと言うのが、先生方の拠所だったが、その母親を知っている四人には、何の慰めにもならない。


 その内、誰も喋らなくなった。

 重苦しい沈黙に耐えきれなくなった頃、誰かがバタバタと走り込んで来た。


「キースとマックスが監禁されてるって、本当ですか」


 飛び込んできたのはニコラスだった。王宮に居た彼は、学園からの要請を伝え聞き、慌てて家に知らせ、こちらに向かったのだった。

 後ろからソフィが付いて来ている。


 二人共緊張して顔が強張っている。迎える四人も同様だ。


「どういうことなの。説明してちょうだい」

 ソフィが四人を見回して鋭く言った。


 舎監の先生とランス伯爵が、マックスの無断外泊した日から今までの事を、かわるがわる話した。黙って聞いていたソフィが、立ち上がった。


「それならば、私が行って屋敷内を検めます。なるべくたくさんの人数で一緒に来てください。何かあれば叫びますから、門番を倒して突入してください」


 邸内に入れる事を前提の話しぶりに驚き、ランス伯爵がソフィを留めた。


「お前、そう簡単に邸内には入れないよ。私達も、先ほど門前払いされて帰って来たところなんだ」


「私なら、ミール侯爵は招き入れるはずです。今まで何度も誘われて断ってきています。こちらから出向けば断わらないでしょう」


 ニコラスがバッと立ち上がり、彼女の腕を強く掴んで振り向かせた。


「絶対駄目だ。あんな変質者のところになんて」


「そこに私の息子が捕らわれているのよ。行くわ」


「じゃあ僕も一緒だ。侯爵家の権力とキースの後見人としての権利を使って入り込ませてもらう。キースの父親代わりとして、最後に彼に会ったミール侯爵たちに、話を聞くのは当然のことだ。しかも急を争う件だ。拒否はさせない」


 いつも穏やかなニコラスとは思えない、強い物言いだった。絶対に引かないつもりなのが窺えた。


 ソフィが折れた。

「では一緒に。だけど、ミール侯爵が気味の悪い事を言っても冷静にね」


 ニコラスは帯剣している。剣を帯びた状態で屋敷に迎え入れられるのだろうかとランス伯爵が問いかけた。


「有事の今、帯剣が当然です」


 すっかり近衛騎士の厳しい顔付きで、ニコラスが答えた。

 一行はモートン侯爵家の騎士達も加え、結構な人数でミール侯爵家の門前を再び訪れた。


 ニコラスが門番に、訪問理由と緊急である旨を伝え、急いで開門するよう求めた。

 先程とは違い、急いで主人の意向を聞いて来るので、しばらくお待ちくださいと丁寧な応答が返って来た。


 しばらくの後、門が開き、ニコラスとソフィの二人だけが招き入れられた。

 他の者達は、門前で待機することになった。

 門の守衛は二人だけで、待機している騎士達が一気に押し掛かったら、すぐに門は破られるだろう。形勢は逆転していた。


 この屋敷は都心部にあり、周囲には大きな屋敷ばかりが立ち並んでいる。通りかかる者たちが、何事かと遠巻きに見ていた。近くの屋敷からは問い合わせがいくつか入ったが、それには伯爵達が詫びを述べ、行方不明の子供たちの捜索中で、この屋敷に立ち寄ったのが確認されているので、話を聞いている所だと言っておいた。


 ミール侯爵が問題のある人物なことと、嫡男の不幸で最近こちらに戻った事を知っている周囲は、これはひと揉め起こりそうだと、自分の屋敷の警備を固めた。


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― 新着の感想 ―
なんで問題のある姉娘を問題がある権力持ちに 嫁がせたんだか 正直ソフィの親が実は馬鹿親なのでは?と 小説最初から思っていたけど、ここに来て見えない毒親疑惑が私の中で再再燃ですわ 子供達が可哀想
母親最悪! マックスの馬鹿ーー~ 早く助けてあげて。
いや実子ならともかく妹の子の方なら誤魔化しなんか効かないのに何で監禁するような馬鹿な真似をするんです
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