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氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
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平和な日々

 体育祭の大騒ぎが終わり、学園は静かになった。


 あれからキースとも普通に話すようになった。彼は、マックスが考えていたような、手の届かない天使ではないようだ。

 実はすごく狡猾なのかと疑っていたが、それも違う。

 良くも悪くも、キースを買いかぶりすぎていたようだ。


 モートン侯爵家の子供達の話をした時、リデル王女の話になったので、皮肉を言ってやったら、逆に驚かれてしまった。


「子供の王子様ごっこに付き合っているだけだよ。君は8歳の女の子を、自分のガールフレンドにできるの?」


「え? そりゃあ無理だ。子供じゃないか」


「六歳の頃はまだ軽かったけど、今は全員いっぺんにだと体がきついよ。君、二人程引き受けてくれないかなあ」


 キースがじっとマックスの顔を見る。


「いや、無理だよ。僕は君じゃないからね。顔が一緒だからって、ありえないでしょ」


「僕だって、ジョンにリデル王女を押し付けられたんだ。まさか、それに双子が合流するとは思わなかったけど。早く大人になって、ごっこ遊びから解放してくれないかな」


 マックスが思っていたのと全然違う返答だ。

 やっかみで言った言葉に、代わってくれと返されたら、途端に遠慮したくなる。だって面倒くさい。

 そしてジョンに押し付けられたというのは、いかにもありそうでマックスは深く納得した。

 でもなあと思い、もう少し聞いてみた。


「もし、このままずっと王女が君を好きだったらどうなの? もう三年したら、僕達は社交界デビューだろ。その頃王女は……まだ十一歳か」


 マックスは自分で言っておきながら、ないかな? と思ってしまい、ちょっと口ごもった。


「その頃には、そろそろ婚約者選びが始まるから、大丈夫じゃないかな。外国の王族や、国内の有力貴族から選ばれるから、その前に周囲から男は排除されると思うよ」

 

 キースは意外と大人で貴族的な考え方をしている。


「なんだい?」


「キースが候補だと思っていたんで驚いた。だって、王達も公認だし」


 キースは、まじまじとマックスを見つめた。


「今は、変な虫がつかないように、僕におもりを任せているだけだよ。ジョンが放棄したから。マックスって意外とロマンチストなんだね」


 マックスは恥ずかしくなって、目を逸らした。自分だけ子供みたいじゃないかと、同じことを言った寮の奴に、心の中で悪態をついた。



 次の週末、キースに誘われ、侯爵家に一緒に遊びに行くことになった。

 一旦は断ったが、紹介されたのだから大丈夫と言われ、なんとなく決まってしまった。


 今日はゲート家からの馬車に相乗りして、モートン侯爵家に向かう予定だった。

 マックスを拾うだけのはずが、ランス伯爵家でキースが歓待されたせいで、約束の時間に少し遅れてしまった。粘るランス伯爵夫妻には、帰りに寄ると伝え、急いで侯爵家に向かった。


 到着すると、歓待されると共に、遅いと怒られた。従妹達の舌鋒は鋭い。それは全てマックスに向けられ、初対面時の遠慮はすっ飛んでいた。


「キースお兄様は、今まで遅れたことなんて一度もありません。マックスお兄様のせいに決まっています」


 オロオロしていたら、ジョン王太子がやって来た。


「言い訳しても無駄だよ。全く聞いてもらえないんだから」


「ランス伯爵家のお祖父様とお祖母様に、僕が引き止められていたんだ。ごめんね」


 キースが笑いながら言うのを見て、やっぱり性格悪いのでは、と改めて疑う。


「まあ、ランスのお祖父様たちが。今度文句を言いますわ」


 ほらね、と言いながら、ジョンが僕を庭に案内してくれた。

 庭ではニコラスとハーレイが、おとなしく座って待っている。


 王女がいないな、と思ったら、彼女が屋敷の中から飛び出してきた。一直線にキースに向かって走って来て、キースの前にピタッと止まる。


「僕たちを間違えないんだね」

 キースは感心したが、王女は不思議そうだ。

 このメンバーには、二人の違いがすぐに分かるらしい。ちなみに学園では頻繁に間違われる。


「キース様、こんにちは。さあ、こちらへどうぞ」


 侯爵家の客なのに、王女はホストの様に振る舞っている。

 キースは慣れた様子で王女をエスコートし、かなり様になっている。

 マックスはその姿を自分に置き換えてみたが、到底出来る気がしない。容姿が同じだからといって、同じようには出来るわけではないのだ。


 テーブルに着くと、ハーレイがじっと見詰めてきた。笑いかけたらすぐに寄ってきて、お兄様の横に座ると言い出し、ニコラス叔父さんが従僕に椅子を運ばせ、ハーレイの横に置いてくれた。


 ああ、落ち着くと、マックスはしみじみ思った。


 丸いテーブルの反対側にはキースを挟んで密集した女の子達、ちょっと離れてジョンという偏ったテーブルだ。


 ジョンを見ると、僕もそっちに入れてくれと言い出した。

 そして男ばかりで、小声でボソボソと話をした。


「先日キースに二人引き受けて欲しいと言われたけど、無理そうです」


 そう言ったら、ニコラス叔父さんが笑い出した。


「僕もキース絡みのことには口を挟めないよ。娘たちは、怖いんだよ」


「キースって鈍感なんでしょうか?」


「そうかもね」


 笑う三人をハーレイが見上げてキョロキョロしている。

 キースハーレムチームが怪訝そうにこちらを見た。


「彼女たちの僕の扱いもひどいんだ。デビューする頃には、王太子に対する礼儀を身につけていて欲しいよ。せめて邪魔だとか言わない程度には」


 ジョンのぼやきに、ニコラスが微妙な顔をした。


「キースが言えば、途端に改善されます。今すぐにでも」


「表面だけでしょ。全くもう」


 マックスはブハッと吹き出してしまった。

 確かに王子様は彼女達から、思い切り邪険に扱われている。失礼しました、と謝ったけど、ハーレイも笑い出したので、皆で笑ってしまった。


 王子様でもキースに敵わないのか。それならマックスが敵わなくて当たり前だ。その考えはすんなりとマックスの心の中に収まった。子爵でも伯爵でも王様でも一緒だということだ。


 思ったよりずっと気楽に楽しく時間が過ぎていった。




 そんなある日、縁が切れたはずの母から寮のマックス宛で手紙が届いた。


 一ヶ月後の学園祭に行きたいと思っているので、久しぶりに会いたいと言う。


 確か社交をしない、子供への接近も禁止の誓約をしたはずだ。

 学園祭が社交かは微妙だが、どうしたものだろうかとマックスは悩んだ。


 次の休みにランス邸に戻り、この手紙の事を伯爵たちに話すと、二人もすごく驚いた。


「あの子は一体どういうつもりなの?」


 伯爵夫人が怒っている。

 伯爵も考え込んでいた。

 普通に考えれば、別れた子供に会いたくなった、のだと思う。


 伯爵が顔をあげた。


「マーシャの嫁ぎ先の跡取りが、重い病気になったという噂を聞いた。その見舞いでこちらにやって来るのかもしれない。

 跡取りには子供がいないそうだが、もし何かあっても娘たちと孫が数人いて、そこから養子を取ればいいことだ。だから、そういう関係の話ではないと思うがね」


「僕に侯爵家の後継の話が来るかもしれないんですか?」


「ありえないよ。我が家門とも、お前とも縁を切ったんだ。もうマーシャとお前は親子では無いし、相続の対象にはならない」


 幸運が舞い込んで来たかと期待してしたが、マックスはすぐにあきらめた。そんなおいしい話はそうそうないものだ。


「手紙は捨てて、忘れてしまいなさい。私の方から文句を言っておくよ」


 そして、その後は手紙も来なかったし、テストや学園祭の準備で忙しかったから、マックスはそのまま忘れていた。


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― 新着の感想 ―
マックスはこのままいったらヤバいな…と思ってましたが早めに現実のキースが見られてよかったね…!!後母親がとんでもない毒親だということに気付いた方が良いと思うんだけど、それは彼が傷つくのと一緒だから全面…
これはなんかマックス可哀想な事になりそうな予感…… あとキースガチ勢女子トリオがウザい……
まあ周囲に色々揉まれて多少の常識というか良識を身に付けたので、アレの言動を目の当たりにするには良い機会じゃないでしょうか。ナンダアレ、と思えるかどうかでその後の指導方針決まるからマックス君、正念場だぞ…
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