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氷の貴婦人  作者:
第一章 最初から破綻した結婚
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ソフィの妊娠

 女性二人が花を摘んで戻って来た。

 久しぶりにソフィがリラックスした顔をしているのを見て、アトレーがほっと息を吐いた。


「ここに来たのは正解でした。このまま気持ちがほぐれてくれたらいいのですが」


 サイラスは友人のそんな様子を見ながら、嫁姑の問題だろうか、と想像していた。


「はい、プレゼントよ」


 ローラが摘んできた花束をサイラスに渡して振り返ると、ソフィは花束をもったまま既に椅子に座っている。その様子を見て不思議そうに尋ねた。


「花束をアトレーにあげないの?」


「王太子妃様、ありがとうございます。でも、ソフィの好きなようにさせて置いてください」


 アトレーがローラの気遣いに感謝の言葉を述べるのを、ソフィはぼんやり見ているだけで何も言わない。その後、なんとなく白けた空気が漂い、お茶会は早々に終了した。



 アトレーとソフィが帰って行った後で、二人は今日の事について話し合った。


 ローラは彼女がアトレーの事を一言も話さなかったと言った。

 アトレーの話題を出しても、全くの無関心で、まるで、遠くの国の今日の天気を聞いているようだったわ、と不思議なたとえをしたが、意味は伝わる。それほど無関心だったということだ。


 二カ月前の彼女からは考えられない態度だ。

 そしてもう一つ、気付いた事があった。帰宅する時にエスコートの手を出したアトレーを無視し、アトレーも、無視されるのをわかっているような雰囲気だった。


「結婚したばかりだけど、うまくいっていないみたいね」


「ストレスだそうだよ。なんのストレスかな」


「アトレーが嫌なんじゃないの?」


「まさか。そんなこと……」


「あると思うわ。私とあなたとアトレーの三人で、彼の方だけ一切見なかったもの。それよりも、あの半分眠っているような反応の薄さが気になるわ。彼女はちゃんと正気なのかしら」


 友よ、いったい何があったんだ、王太子は心の中で呼びかけた。




 同じような一カ月が過ぎた後、ソフィの妊娠が判明した。

 これできっと元に戻るだろうと、屋敷中の者達が思い喜んだ。しかしソフィはそれにも無関心だった。

 何にも関心を示さず、ぼんやりと過ごし、アトレーとはほとんど関わらずに過ごした。

 なにせ妊娠しているので、母体に負担を掛けてはいけないと医師から言い渡されている。ストレス源であるアトレーは接近を禁止されてしまった。



 妊娠が分かって、ランス伯爵家の両親が大喜びでお祝いにやって来た。

 そしてソフィの様子を見てショックを受けた。まさか、こんな状態になっているとは思ってもいなかったのだ。

 手紙が来ないとは思っていたが、慣れるまでは色々と余裕がないだろうと、連絡が来るまで静観していたのだ。


 あんなに好きだったアトレーを見るのも嫌になり、しかも豊かだったはずの感情が希薄になってしまっている。全くの別人のようだし、正常な精神状態には思えない。


 いったい何があったのかと聞いても、ゲート伯爵家の人達もわからないと言う。ランス家に来た初日から、ずっとこういう様子だそうだ。

 ランス伯爵夫妻は、こんな事なら変な遠慮などせず、どんどん押しかけて来ればよかったと後悔した。


 結婚式の前から思い返してみて、結婚式の前日から様子が変だったのを、母親のランス伯爵夫人が思い出した。

 

 「ソフィは今のように妙にぼんやりしていたわ。ここまでひどくはないけれど。

 そしてあんなに楽しみにしていた結婚式なのに、前の日からずっと上の空で、髪形や化粧に関しても、何を聞いても何も答えなかった。母親の私が、その時点でおかしいと気付くべきだったのに」


 ランス伯爵夫人がそう言うと、ゲート伯爵夫妻も式の時の様子を思い出そうとした。

 結婚の誓いの言葉もなかなか言えないほど、緊張している様子だった。そしてうれしそうな様子は全くなかったことに、改めて気が付いたが、あの時は緊張しているのだとしか考えなかった。

 笑顔ではなかった、のは覚えている。引きつったような青ざめた顔をしていたかもしれない。

 つまり、結婚式の時には、すでに様子がおかしかったのだ。


 ゲート伯爵は主治医の見立てについて説明した。

「気持ちが大きく動くことがあれば、治るかもしれないと言っております。だから、子供が産まれれば治るのではないかと期待しているのです」


 両家の家族も使用人たちも、それを期待して出産を待ち望んだ。

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