表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
48/58

騎馬戦の結果

 イーストは他の二チームから狙われているため、人数が減ってしまい、大将も戦っている。


 マックスは慌てて馬を返し、大将の側に向かうが、邪魔されてなかなか近づけそうにない。迂闊に近づくと、こちらがやられてしまう。けれど、大将が帽子を取られたらお仕舞いなのだ。


 焦っているマックスの目の前で、大将は立て続けに二人を倒した。

 この時ほど、あの馬鹿げたLOVEマークの帽子が尊く見えたことはなかった。


 隙間を見つけ、打ちかかってくる剣を叩き返しながら、マックスはやっとで大将の側に馬を寄せた。其処までにだいぶ剣が振り下ろされたが、ジャケットの腕の部分が頑丈に作られていて、腕でも剣を防ぐことが出来る。


「よお、マックス、やるなお前。見どころあるよ」


 大将に褒められた。喜びにマックスの心臓がドクンと鳴った。


 その時、金色の髪がマックスの視線の端をちらっとかすめるのに気付いた。

 キースが突っかかってきている。


「笑いながら切りかかって来るなんて、もしかして僕より性格悪いんじゃないのか?」


 そう言いながら、キースの剣をはじいて、その場を離れ、馬の首を回して、ぐるっとイーストの後ろに回り込んだ。


 全く後ろ側を意識していない奴がいたので、剣で叩いて体勢をくずし、後ろから鉢巻を引くと騎士が落馬した。

 これはどうなるんだろう。鉢巻が取れていないので、マックスは勝ったと思っていいのかわからない。


 戸惑っていると、突然、ワーッと歓声と悲鳴が上がった。

 見回したら、イーストの大将が帽子を取られたところだった。


「あ~、やられた」

 ガクッと気落ちして、声に出してしまった。こんな気分は初めてだ。短時間で、こんなに気持ちが上がったり下がったりしたのは、マックスの人生で初めての事だ。


 残ったイーストチームの騎士数名とフィールドの外に向かう途中、大将がマックスにも声を掛けてきた。


「マックス、お前よくやったよ。いい戦いぶりだった」


 チームメイトたちからも口々に褒められ、マックスは、なんとなく泣きたいような気分になる。大将がマックスの肩を叩いた。


「来年、リベンジしてくれよ。期待しているからな」


 そうか、最上級生は来年はいないんだ。

 そんな事を考えたら突然に寂しくなったり、頑張る気になったりした。感情の振れ幅が大きすぎて、マックスは目が回りそうだ。


「早くフィールドから出て、観戦しようぜ。きっとおもしろいぞ」


 急いで待機場所に行き、馬から降りて皆で観戦した。

 広がった陣容のウエストは、丸く集まったサウスをドーナツのように取り囲んで戦っている。


 両陣営とも、数が減っているので、その形もばらばらになっていき、そこここで一対一の戦いが繰り広げられている。

 さすがに大将の王子様は守られているだろうと思ったら、他の騎士と同じように戦っていた。


 相手はキースだ。

 まずくないのか? いいのか、それ、と心の中でマックスは突っ込んだ。まあ、キースだからいいか。自然にそう思ってしまい、ぎょっとした。周りの生徒に聞いてみたら、やはり同じように思っている様子だ。


「キースだからなあ。いいんじゃないか? 俺にはできないけど」


「そうだな。キースなら殿下に勝っても問題ないな」


 キースとジョン王子は、楽しそうに結構過激にやり合っている。おまけに二人共、腕がいい。

 紙の剣が折れない程度で、お互いの体勢を崩そうと、狙い合っている。

 ただ、馬自体の能力がジョンの馬の方が断然良く、キースの馬は小回りが利かない。あれは、多分最後に残った馬だなとマックスは思った。


 そう言えばあの時、キースは貴賓席に王女を送り届けに行っていた。だから準備が遅くなり、かなり遅くなってから厩舎に行ったのだろう。


 次々に勝負が付き、騎士達が討ち取られ、数騎が残った状態になった。

 やっぱり目立つ。キースも目立つが、ジョンも目立つのだ。その二人がいい勝負をしていれば、そりゃあ目立つし見ごたえがある。


 黄金の騎士対白馬の王子様。どっちが主役なのかと悩んでしまう。

 まあ、白馬の王子様が、白いバラの盛られたつば広帽子を被っているので、黄金の騎士対白馬の王女様にも見える。


 観覧席の応援も、キャーという声と、ウォーという声が飛び交って、うるさいこと。どっちがどっちを応援しているかは謎だ。


 そうするうちにウエストの大将が討ち取られ、サウス寮チームの勝利で幕が降りた。


 全員で一緒にフィールドを一周し、拍手に送られ、厩舎に向かう。

 マックスはとにかく疲れ切っていた。体もきついけど、メンタルが更にきつかった。


 そこから一時間が、昼食の休憩時間に当てられる。

 マックスが観覧席を探すと、ランス伯爵達が手を振っていた。興奮で目が輝いている。


「マックス、すごいじゃないか。馬の扱いが巧みで驚いたよ。すごく恰好がよかった」


「楽しそうで、チームメイトとも仲が良くて、よかったわ」


 侍従達が、木陰に簡易テーブルとイスを運び、食事の用意をしている。彼らも楽しそうで、にこにこしている。冷たい料理ばかりの簡単な食事だけど、すごく美味しい。お腹が空いているし、気分が疲れているので、オレンジジュースが最高にうまいし、食後のチョコレートがあちこちを癒してくれる。


 目いっぱい食べた。満腹して満足して、満たされるってこういうのを言うんだろうな。マックスはしみじみと思う。

 そして、ふと、先ほど疑問に思った事を聞いてみた。


「キースがジョン王太子に打ちかかって行ったけど、あれは大丈夫なんでしょうか」


「ああ、問題ないよ。昔のサイラス殿下にも、グレッグが全く遠慮なく接していたからね。懐かしいな」


「お父様は、どうだったのですか?」


「アトレーは少し遠慮していたかな? それが逆に、サイラス殿下には寂しかったらしいけどね」


 はあ、ということは、キースのあれはグレッグ伯父さんに似たということか?

 まだまだ、キースのことが全然わかっていない。

 でもマックスだって、グレッグ伯父さんと血の繫がりがあるのだ。改めて、キースとはとても濃い血縁関係なんだと認識した。


 近くを通りかかる人々が、マックスを見ている。見られることに慣れているマックスは、それも気にならないが、容姿に目を留める以上の、何かが感じられる。

 キースとの関係についてか、今日の活躍についてか、色々混ざっているようだ。


 そこに、男性が二人の娘と息子を連れて近付いて来た。

 礼儀正しく、ランス伯爵達に挨拶し、紹介を頼んだ。


「マックス。こちらはお前の叔母のソフィの夫で、モートン侯爵家のニコラス殿だ。

 ご挨拶して」


「はじめまして。マックス・ハリルです」


「僕の事はニコラス伯父さんと呼んでくれると嬉しいな。

 この子たちは君の従妹弟だよ。マリベルとルース、ハーレイだ。これからよろしくね」


 子供たちが、順番に挨拶する。一番小さい男の子が一番うれしそうにしている。女の子たちは、不審顔というか、不思議な表情をしている。

 娘たちの様子を見て、ニコラスが言った。


「キースと似すぎていて、変な気分になるんだろうね。僕だって、戸惑うよ。本当に似ているんだね」


 それにはランス伯爵が答えた。


「双子でもないのに不思議なことですね。でも、大人になれば変わるでしょう。生活と性格が容姿を変えていくものだから」


 それはマックスにとって、気分が落ち込む話だった。生活はキースより下になるし、性格は彼にかなう気がしない。それが容姿に表われると、どうなるんだろうと考えてしまったからだ。


 ニコラスがにこにこして、マックスを見つめた。


「そうですね。今でも、マックスの方がキースより落ちついた雰囲気を持っている。まったく同じではないですね」


「僕の方が落ち着いている? ああ、そういう風に言われると悪くないですね」


 マックスは素直にそう口に出していた。

 この男性の言葉は気持ち良く心に届く。

 今日は気持ちの上がり下がりが激しい。やはり疲れる日だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あの両親から生まれた上に放置されて育ったにしてはマックスいい子だな~という印象 この若さで頭も足りてるならマーシャみたいな墓穴を掘りまくる恥多き人生を送らずに世渡りできそう 不貞した両親が悪いのであっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ