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氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
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騎馬戦の始まり

 打ち合わせは、ルールの確認から始まった。


 各寮共、選手は十名で、大将が帽子を取られたら、その場でそのチームは投降する。だから、大将の帽子は皆で守らないといけない。


 その大将の帽子は誰が見ても分かるほど派手だった。ふざけたことに、フロントに大きく『LOVE』の文字が刺繍されている。

 そしてリボンが赤と白のダブルで巻いてあった。

 マックスは、最上級生になった時に大将を勧められても、絶対に断ろうと決めた。


 そして、騎士たちは鉢巻きを取られたら、投降する。すぐに戦闘を辞め、馬をフィールドの外に出さなければいけない。

 投降した後で戦いの邪魔をすると、ペナルティを取られる。おまけに、後で卑怯者と呼ばれることになる。

 獲物は柔らかい紙製の剣だが、顔を狙うのは禁止。これをすると乱暴者と呼ばれることになる。


 やられた奴は、あっちに待機場所と看板が立っているから、そこに行くこと。

 負傷した場合は、速やかに医療班に申し出て、治療を受けること。


「以上がルールと注意事項だ。次は作戦のおさらいだ」


 そう言って、事前に取り決めた事を確認し始めた。


 先ず、前衛。


 はいっと答えて三人が手を挙げた。

 十人の選手のうち三人が前衛、三人が後衛、三人が遊軍だ。


 大将を囲み、襲って来る相手を前衛後衛で討ち取り、遊軍は自由に打って出ることになっている。


 馬の扱いに長けたマックスは遊軍だ。絶対に二人は討ち取るぞ、と遊軍仲間と励まし合った。ワクワクする。


 イースト寮の作戦では、先ずフィールドの真ん中に陣を張ることにしている。

 だから、開始の合図と同時に、フィールドの中央に向かって駆けなければいけない。


 他のメンバーも緊張と興奮で顔が赤い。


 衣装が赤いせいもある。さすがの年季で上級生は落ち着いている。冗談を言って笑い合う姿が頼もしい。こうなると、ばかげて見えた大将の帽子も俄然輝いて見えてきた。


「ジャケットには補強が入っているから、落馬しても、叩かれてもある程度はカバーしてくれるから、安心しろ。始まる前に柔軟をして体をほぐせよ」



 柔軟をしながら見回すと、他の二チームも作戦会議の最中だった。


 サウスは、と振り向いて、マックスはウッと声を詰まらせてしまった。王子様が大将の印である帽子をかぶっている。三年生なのに。

 これは忖度と言うものなのだろうか。もしや、さっきの王女様のように、僕、王子様だよ、とやったのだろうかと、目まぐるしく考えた。


 思わず、横で屈伸をしている上級生に向かって、あれ見てくださいと袖を引いてしまった。

 五年生の彼も、やってくれる、とつぶやいて大将の所に走った。


 何事か相談しつつ、サウスチームをチラチラ見ている。

 それはやはり、王子様相手に襲いかかるのは、きついものがある。やっていいものなのかどうか、事前に教師に確認すればよかったとマックスは後悔した。答えが返って来るか不明ではあるが。


 襲いかかって一発食らわしたいとは思う。だが、こんな衆人環視の中、王と王妃も見ている前で、襲いかかれる奴なんているのだろうか。

 好き嫌いは置いといて、あの王子は策士で侮れないと思った。

 大将から集合の合図があった。


「ご覧の通り、サウスの大将は、何故かジョン王子だ。各自、自己判断しろ」


 マックスは思った。まいった。難しいお題が出てしまった。こうなると全く手が出せない。友好関係にないマックスでは、シャレにも冗談にもならないからだ。


「サウスに対しては、騎士をガンガン討ち取れ。丸裸にして降参いただく作戦としよう」


 もう一度サウスの陣営を見ると、王子がのんびりと馬にもたれかかっていた。白いジャケットには金と銀で刺繍が施され、キラキラと輝いている。

 華やかなジャケットに負けず、いかにも王子といった雰囲気で超然としている。そして、寄り添っている馬は、学園の厩舎で一番人気の白馬だった。

 かなり懐いた様子で、大人しく王子の傍らに立っている。馬に関しては特別待遇はなしで、学園の馬を使うんだなと、そこには感心した。


 他のサウスの騎士はと見ると、のんびりした感じでうろうろとその辺りを歩いていた。

 大将が王子だから負けることは無い、とたかを括っているのだろうか。むちゃくちゃ腹立たしいのだが、このイライラは、競技で晴らさせてもらおうと心に決めた。



 ウエスト寮はどう対応するのだろうかと思い、そちらを見ると、こちらのチームと同じように、サウス寮チームをチラチラ見ながら何かを話している。さて、彼らはどうするのだろう。


 ウエスト寮は青いジャケットを着ている。こちらは濃紺のパイピングが入ったすっきりとしたデザインのジャケットだ。こちらの衣装の方が好みだが、大将の帽子だけは、ウエストの物も嫌だった。

 でっかい青い蝶が乗っかっているのだ。なぜそうなるのだろうか。この学園のセンスがマックスには理解できなかった。


 そして極めつけ。

 サウス寮の白い大将の帽子は、なぜかつば広の女物だった。さっきは帽子、ということに気を取られていたが、改めて見るとすごい。

 広いつばの上に、バラの花の造花が盛られている。ゴージャスではある。驚いているのはマックスだけのようだ。皆は毎年見ているから、既に感覚が麻痺しているのだろう。


 訳が分からないが、王子様にはとても良く似合っていた。似合うから大将に選ばれたのだろうか。

 もうどうでもいい気分になって来た。


 こうしてマックスがなんとなくメンタルを削られているうちに、ラッパが鳴り響き、各チームが定位置に整列した。


 まず各チームとメンバーの紹介が行われた。全員が騎士の名で紹介された。

 マックスの場合は、サー・マックス・ハリルだ。


 なかなかの歓声が上がったので喜び、ふと、これはキースっぽくないか? と気付いてぞっとした。真似ているうちに、本当に似てしまっては気持ちが悪い。気を引き締めなくてはいけない。


 傑作なのはジョン王太子だ。紹介の名は、そのまま将来の実名だ。キング・ジョン万歳だ。


 用意して、と声が掛かり、全員が馬に乗って、大将を先頭に横一列に整列した。

 心臓がどきどきする。

 馬たちも逸っていて落ち着かない。いななきが上がり、それらが静まるのを合図をする先生が待っている。


 全員がシンと静まったところで、開始の合図が上がった。


 マックスたちは大将を先頭に、フィールドの中央めがけて全力で走った。大将が位置を決め立ち止まると、その前後に前衛、後衛が一直線に並ぶ。


 サウスチームは全員で大将のジョンを取り囲んで移動している。


 ウエストチームは、大将の両横に半数ずつ並び、鳥の羽のような形で前進してきていた。

 キースの黄金の髪は、右側の端から二番目に見える。目だつ奴だ。それはマックスも同様だが。



 さて、どこに向かおうかと、マックスは考えた。ウエストチームには、前から行ったらすぐに取り囲まれそうだ。後ろに回らないと無理だろうと思う。


 ウエストの大将が、叫んだ。


「隊列が乱れるまで待て。一騎で飛び出したら狙い撃ちされるぞ」



 よし、待機だ、と思った瞬間に、サウスの塊が突進してきた。

 密集しているから大迫力だし、手が出しにくい。遊軍のマックス達は、弾かれたように飛び出した。


 丸くなった騎士団の外側にアタックを掛けたが、前方を囲む騎士達がデカくて強い。

 むりやり突っ込んでいった五年生と四年生の2人が剣を絡め取られ、鉢巻を奪われてあえなく投降となった。

 マックスは一旦、集団から離れた。


 あのでかいのと真っ向から戦っては、紙の剣なんてすぐに叩き折られてしまう。


 丸い塊の真ん中に白い帽子がチラチラと見える。これは一番弱いジョンを動かないキングとして置いておき、その他全員が戦う戦法なのだろうか?

 騙されたような気分だった。やっぱりジョンのことは嫌いだ。


 自軍を見ると、鶴翼の陣を組んでいるウエストに、後ろ側から囲い込まれて攻められていた。


 そちらの助けに入る余裕はなく、僕は前衛の三人と共に、前方から攻め込んでくるサウスチームに打ちかかった。


 他の騎士と戦い、集団から飛び出した者を見つけ、そいつに突撃したら、慌てたのか少し体勢が崩れた。それを剣で更に崩しにかかり、馬上でグラッとした所で、相手の肩に手を掛け、伸び上がって鉢巻を抜き取った。


 やったーっと手を上げて、マックスは鉢巻を振り回した。

 ワーッという歓声と、アーッと悔しがる声が上がる。今になって、やっと凄い歓声と応援の声が耳に入って来た。

 今まで、騒音としか聞こえなかったものが、言葉になってきた。


 マックスーと叫ぶ声が聞こえる。


 嬉しい。マックスはたまらなく嬉しかった。

 倒した相手は六年生だ。


 でも、これで終わりではない。鉢巻を首に掛け、混戦になっている場所に向かった。


 

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― 新着の感想 ―
怪しげな存在だったマックスが、陰謀を企んでいるはずのマックスが、どんどん青春に巻き込まれていくのいいな
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