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氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
46/58

初めての運動会

 体育祭の日は晴天だったので、観覧席も満員になっていた。


 生徒達も張り切っていて興奮気味だ。

 演目は午前中が綱引きと、騎馬戦、リレー、借り物競走、障害物競走、午後が馬術競技で三時頃には終る。


 寮単位の対抗戦で、三つに分かれて勝敗を争う。


 マックスは脚が速いので、リレーの選手に選ばれた。他には騎馬戦と馬術競技に出る。

 ここは都会なので、馬に乗り慣れているのは、もう少し年上の生徒たちで、三年生からの出場は珍しいらしい。


 領地で育った者にとって馬は身近なものだったが、そのマックスでも、大きい馬に乗り始めたのは、十一歳からのことだった。


 キースも出場すると言っていたが、馬に乗り始めたのは、十二歳くらいからだそうなので、マックスのほうが有利だ。


 馬術競技では無理だが、騎馬戦では彼と戦えそうだ。それが楽しみで、ワクワクしている。

 公式にケンカが出来るわけだもの、力比べが出来る。王女様の見ている前で落馬させるのもいいかもしれないと、マックスはほくそ笑んだ。


 競技は一年生と二年生の混合リレーで始まった。

 応援合戦も声援も派手だった。一族郎党を連れた親達が、メガホンを持って大騒ぎしている。


 結果はマックスの属するイースト寮が一番。サウス寮が二番、キースのいるウエスト寮が三番だった。


 俄然、周囲の生徒たちが盛り上がり始め、帰って来た選手を拍手で迎えている。


 次の競技は障害物競走だ。

 これは全学年から参加する。運動が苦手な人が参加するせいか、モタモタしていて笑える。これは、笑いを取るための競技だなと、マックスは優越感と共に思った。


 同室のマーキスがこれに出ていて、麻袋を腰まで引っ張り上げて走るとき、前にビタンと転んだ。顎を擦りむいたようだ。

 やれやれだ。

 ゴールした彼に、救護班が駆け寄って、負傷者テントに引っ張って行った。

 かっこ悪い奴だ。


 次は三年から四年生のリレーで、ようやく出番が回って来た。

 走る順番は、あらかじめ決めてある。

 マックスのいるイーストチームは、最初と最後に四年生の特に速い選手が走り、それ以外は三年と四年が順番に走るよう、くじ引きで決めた。


 マックスは四番目だ。


 キースは、と探すと、アイツ!


 キースが先頭走者としてトラックに並んでいた。

 他の二チームは四年生なのに。


 すでに観客席から歓声が上がっている。

 ハッピーと呼ぶのが結構聞こえる。


 先頭の走者は目立つものさ。女の声がうるさいが、こっちの走者は速いのだ。この歓声の中で赤っ恥をかいてしまえ、とマックスが毒付いているうちにスタートが切られた。


 ところがキースが速い。なんだ、あいつめちゃくちゃ速いじゃないかと驚いた。

 ただ、コースの途中でスタミナ切れし始めたのか、少しスピードが落ち、結局同着1位でキースはバトンを渡した。相手は4年生だった。


 マックスはやられた、と思った。どんどん差が開いていく。

 他の二チームの走者は3年生だ。


 四番のマックスにバトンが渡った時には、こっちのチームはだいぶ離されてのビリだった。

 頑張って差を縮めたけど、これでは全く目立てない。くたびれもうけというものだ。結果は、がっかりな三位に終わり、皆でしょんぼりと座席に戻った。


 でもチームが温かく迎えてくれて、この仕返しは借物競走で返す、というリーダーの叫びに、皆と一緒にオーッと叫んだ。


 借物競走は運だよね。

 運ならハッピーが最強だな、という声がどこからか聞こえた。マックスは耳を疑った。


 だが、キースが出ている。横に座っている奴に聞いてみた。


「なあ、これ幾つ出てもいいの?」


「うん。出たいのに立候補するんだ」


 出る気はなかったけど、またアイツが目立つのはムカつくし、また格好良く目立ちそうな嫌な予感もする。

 スタートと同時に、キースが先頭を切って飛び出した。箱から出した紙を広げ、読んでいる。

 周囲の応援の声が凄い。


「お姫様の人形か、お姫様にちなんだ物を持っている人いますか?」


 観客席に向かって走りながら、キースが叫んでいる。

 女の子がぴょんっと立ち上がり、良く通る高い声で叫んだ。


「はい、はい。私、お姫様です」


 えー、本物のお姫様、有りですか? とマックスは口が開きっぱなしになってしまった。

 特設テントの貴賓席から女の子が走り出ようとしているのに、キースが駆け寄り断っている? 雰囲気だ。

 王妃様が、行っていらっしゃい、というようなジェスチャーをすると、キースが恭しくお姫様の手を取って一緒に走り始めた。

 二人は拍手の中をゆっくり走り、キースが見事一等賞を勝ち取った。


 他の選手は探し物に苦労している。かつらを引いた奴は、かつら着用者に声をかけることもできず諦めていた。イーストチームの奴だった。

 もう一人はサーベル、もう一人はプードル。うちのチームは運に見放されている。


 他の出場者は花の刺繍のハンカチ、黒いネクタイ、白い帽子、赤い靴などの比較的ありそうなものだったので、次々にゴールしていった。


 借物競争は進み、イースト寮は何とか二位を勝ち取った。


 選手が待機する場所に、キースがスツールを運んできて王女を座らせ、話し相手になっている。確かに王女は他の者には目もくれず、キースを見つめていた。

 すごくきれいな女の子だ。そしてキースとはお似合いだったが、それならマックスでも同じはずなのだ。


 結果が発表されて、バラバラと選手たちが席に戻って行く。次は高学年のリレーで、騎馬戦の次に盛り上がる競技だ。


 会場の熱気が盛り上がって来る。

 声援の中、選手がトラックの中に集まっていく。


 その中を逆の方向へ、キースが王女様の手を取ってエスコートしていく。

 まるで王と王妃が護衛の騎士の間を歩いているように見えた。それだけ二人は存在感が別格だったし、目立っていた。


 マックスの周囲の者も観客席も、無反応なのは慣れているせいだろうか。当たり前のな事のように見ている。


 また横に座っている生徒にこっそり聞いてみた。


「キースと王女様がすごく親しげだけど、貴族達からの反発はないの? 王女に取り入りたい家門も多いでしょ」


「ああ、そういうのはあるかもしれないけど、王女様がああだもの。何か言ったら嫌われてしまうよ。

 それにまだ幼いし、キース自身はお守り役程度にしか考えていないからね」


「そんなものなんだ。緩いね」


「それに王女様の友人はキースの妹達なんだよ。妹たちと三人で飛びついて来るから、キースにとったら三人の妹、かな? 大変だよね。かわいそうに」


 キースの妹と言えば、侯爵家の双子か。まだ会ったことが無い。母が父を奪った相手の子供達だもの。従妹弟だけど、縁は薄い。キースの側にいれば、その内顔を合わせることもあるだろう。

 その時どんな対応をされるか分からない。あからさまに無視されるだろうか。


 なにせ、ソフィ叔母は、今でもキースに関わっていないそうだ。そこまで徹底しているなら、マックスのことはあからさまに避けて通りそうだ。


 ぼんやりとリレーを眺めている内、もうアンカーにバトンが渡っていた。


 次の騎馬戦の用意で、そろそろ厩舎に行かなくてはいけない。

 競技に参加するのは三年生以上で、三、四年生は馬術部の持っている馬を、借りることになっている。上級生は自分の馬を使うことが許可されているので、選手は馬を連れてきてもらっている。


 早く行かないと良い馬が取られてしまうので、周囲に断ってから急いで厩舎に向かった。まだ良い馬が残っているのでホッとし、その中から一番立派な馬を選んで鞍を置いた。


 軽く歩かせて調子を確かめる。いい感じだ。そのまま歩かせて会場へと向かうと、やはりキースと間違える人が声をかけてくる。体操服だと更に見分けがつかないと、よく言われる。

 適当に返事をして、会場の自陣に停止させた。


 自陣では、大将役の最上級生が待ち構えていて、上着と鉢巻を渡された。

 メンバーがはっきり分かるようにチームカラーが分けられているそうで、イーストは赤色のものだ。

 馬の前垂れも渡されたので首に掛けて結んでやった。赤地にイーストの紋章が描かれていてかっこいい。


 一番小さいサイズのジャケットを受け取り、着てみたらぴったりだった。

 鉢巻は、これまた派手な刺繍が施された広幅のもので、ジャケットとお揃いの赤色だ。眉の上くらいから額に巻いて、頭の後ろできつめに結ぶよう言われた。


 間違っても、動いているうちに落としてはいけない。その場合、失格になるそうだ。そんなことになれば、まぬけと呼ばれるぞと脅された。


 選手が揃ったところで、最終打ち合わせが始まった。あらかじめ打ち合わせて戦法を決めていたので調整程度だ。


 だが馬を引き連れ、衣装を着込み、剣を手にしたメンバーで集まると、緊張感が全然違った。


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― 新着の感想 ―
マックスの性格の悪さが漏れ出てる……
いやぁ内心の描写がある分、本当に教育されてなかったんだな、と分かりますね。他者を利用し、出し抜く。落として笑う、しか考えてないという母親の生き写しですね。どうなるかな。
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