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氷の貴婦人  作者:
第四章 マックスの学園生活
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マックスの入学の日

「おいキース、お前にそっくりの転入生が来ているぞ。おまけにすごいカッコいい親父が一緒だから、女性事務員が窓に鈴なりになっている。あれがお前の兄貴か?」


 キースが窓から外をのぞくと、アトレーとマックスが先生と三人で話しながら校庭を歩いていた。


 アトレーは、少しくすんだ金の髪をきれいになでつけ、ピシッとスーツを着こなした、絵にかいたような貴族紳士の姿だった。


 一年前より、ずっとあか抜けた雰囲気に変わっている。

 服装に頓着しないアトレーを補助するために、グレッグ伯父さんが推薦した部下の、努力のたまものだった。


 三日前にこちらに戻り、それからはゲート伯爵家に滞在しているので、それに合わせてキースも寮から帰宅し、色々と話をしていた。

 今回は、二人の13才の誕生日のお祝いと、マックスの入学に合わせて戻ってきている。そして、今日がマックスの入学日なのだ。


 アトレーの家族がバラバラになってから一年数か月が経っていた。

 レグノでの仕事に慣れたころ、アトレーはマックスを呼び寄せようとしたが、マックスは学園に入学することを望み、それを拒み続けたのだった。


 マックスとは、彼がランス家で暮らし始めた時から時々会っている。あまりに似ているので変な気分だったが、今ではそれにも慣れてしまった。

 その度に話をしたり遊んだりするが、なんとなく打ち解けられない感じがある。それであまり親しくはなっていない。


 かれはキースより少し大人っぽくて、バカ話やふざけた事をあまりしない。

 ジョン王太子もそんな感じだけど、彼の方からしつこいくらいに絡んできたので、いつのまにか本当に親友になっていた。

 マックスはあっさりしていて、そのせいか未だに距離がある。


 父とマックスはとてもきれいな親子だ。

 たぶん、キースと父が二人でいる時も、あんな風に見えるんだろうな。


 ふと視線を感じたかのように、父がこちらを見た。そして手を振った。


 キースはくすぐったくて、小さく手を振り返した。周りの級友が冷やかす。

 親と仲のいいところを見られるのは、気恥ずかしいものだ。


 そして、モルトが、こいつ赤くなってると冷やかす。思わずスパンと頭を叩いてしまった。


 父が笑いながら他の二人と話している。

 歴史の先生がチラッとキースを見て、何かを言っている。

 マズイ。この前のテストはあまり点数が振るわなかった。


「もう行こうぜ。次の授業に間に合わないよ」


 皆を促して、廊下を追い立てて行った。

 今日からマックスが学校に来る。寮に入るのだ。




 マックスは、窓に連なる生徒たちを眺めていた。同じような年頃の少年達だ。

 その中心に黄金の髪が光っている。


 キースが周囲にからかわれているようだ。そのうち遠慮なく一人の頭を平手で叩いた。更に盛り上がった彼らを、キースが前に向かって押していた。ワイワイ騒ぎながら廊下を移動していく。


 きっと人気者なんだろうな。


 先生からは、兄弟はクラスも寮の部屋も別にする決まりがあると説明された。

 望むところだ。一緒では、やりにくくて仕方がないだろう。


 案内された部屋は3人部屋で、同室になるのは同学年の生徒だ。

 今日は授業には参加せず、手続きと、部屋の準備と自己紹介だけだそうだ。


 父と二人で、服や本をロッカーにしまったり、ベッドの具合を調べたりした。


「俺がいた頃と全然変わっていない。あの頃のままだよ。ということは、枕は替えたほうがいいな。カチカチなんだよ。ほら」


 枕を投げて寄越した。

 確かに硬い。


「すぐに枕を持ってくるよ。今日だけ、それで我慢してくれ」


 そう言って笑っている。すごく懐かしそうな顔で周囲を見回し、


「少し早いけど、食堂で昼食にしよう。昼になると混むからね」


 食堂の入り口でメニューを決めてチケットを買う。マックスは今日の魚料理、父は肉料理を選んだ。


 チケットをカウンターの女性に渡すと、皿に料理を盛り付けて渡してくれる。


 その女性が父を見て、アトレー様? とつぶやいた。

 父が顔を上げ、彼女を見て、ベスか? と言った。


 どうも二人は知り合いのようだ。


 先にテーブルに座っていてくれと言われ、窓際の居心地良さそうな席を選んで、座って待った。

 食堂には人がほとんどいない。数人いる客は保護者か業者か教師らしき人達だ。

 父は彼女と笑いながら話した後、僕のいるテーブルに戻って来た。


「あの人は知り合いですか?」


「昔、屋敷の使用人だった人だよ。ずっと前に結婚して辞めたけど、数年前からここで働いているんだそうだ。待たせたね。さあ、食べよう」


 トレイにはスープ、サラダ、サーモンのグリル、丸いパンが二つ載っている。

 一口魚を食べてみたら、美味しかった。


 幸先がいい気がした。


 父が肉を切って、パン皿に載せて僕の方に寄こした。

「こんなふうに食べるのは初めてです」

「学食では友人と味見しあっていたからね。これからは、こんな感じになると思うよ」


 そう言って笑った。今日、父はよく笑う。


 マックスは父の元に行かず、学園に入学したいと最初からずっと言い続けた。それに対し、学園に行くと嫌な思いをするかもしれないと、父はずっと反対していたのだ。


 キースとマックスが並ぶ姿は、父にとって辛いものだろう。自分の不行跡の結果だもの。


 評判の悪い母と、評判の良いキースの母の違い。そして自分とキースとの違いを知りたいのだ。


 キースの評判は極上だ。母親がいいから子供も出来がいいのか?

 では、母親が駄目だと言われているマックスは?


 どこが違うんだろう。今のところ、違いが分からない。


 でも扱いは、はっきり違う。

 片や裕福なゲート伯爵家の嫡男。

 片やこぢんまりしたハリル子爵家の嫡男。祖母が引き継いだ財産も相続したとはいえ、資産の差は比べものにならない。領地も持っていない。

 まあ、母親がその財産の一部を使い込んだのだから、連座で放り出されなかっただけ運が良いとも言える。

 マックスの将来にとって重荷だった母が片づいたのも嬉しかった。

 誰があんな女と暮らしたい?

 父は本物の馬鹿だ。到底理解できないし、我慢し続けていたことが更に理解できない。


 まあいいさ。それより、キースだ。マックスが手にしたっておかしくない物を、全部掻っ攫った奴。


 そして、もう一人気に入らないのが王太子だった。

 以前会った時に、完璧に無視された。そんなことは未だかつてなかったことだった。呆然とした後、ものすごく腹が立った。

 その時にこの疑問が湧きあがった。キースとどこが違う?

 キースに対しては、入学式で一目見た途端に駆け寄ったと聞いた。それなのに、うり二つのマックスには、どうして完璧な無視なんだろう?


 キースよりも、あいつのほうが嫌いだ。

 さあ、もうすぐ皆に会える。


「マックス、何を考えているんだい。嬉しそうだね」


「ええ、楽しみで仕方ないんです」


「そうか。ところで勉強は三学年に追いついたのかい?」


「はい、もう三学年の範囲を終わるくらいまで進んでいますから、大丈夫です」


「じゃあ、後は友達を作ってたくさん遊ぶんだな。時々様子を見に来るようにするよ」


「ええ」


 チャイムが鳴ると、生徒たちがバタバタと駆け込んでくる。


 中には、マックスに声を掛けようとして、訝しげな顔をした生徒もいた。

 上級生達の幾人かが、ハッピーと声を掛けて来た。愛称だと聞いてはいたが、生で聞くとムカつく。


 食堂から出て少し行くと、ジョンとキースに出会った。


 マックスは二人にニッコリと笑い掛けた。

 キースが駆け寄ってきて、もう帰るんですかと父に聞く。


「マックスを、よろしくな」


「はい」


 そして父は帰って行った。


「マックスは食事は済んだの?」


「今お父様と二人で済ませたところだよ」


「そうかあ、午後は教室に挨拶に行くのでしょ。一緒にお茶でも付き合わない?」


 うーん、と考える振りをした。


「お腹いっぱいだし、片付けが残っているから部屋に戻るよ。誘ってくれてありがとう」


 マックスは、キースとジョンに会釈して部屋に戻った。


 ジョンの出方を見て誘いに乗るか決めようと思っていたが、全く無反応だった。やはり、いい感情を持たれていないようだ。

 何故だ? 同じ容姿で、今の僕は表面上、非常に感じの良い少年を演じている。

 この1年数カ月を掛けて、キースを真似てきたのに、どこが違う?


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― 新着の感想 ―
今まで通ってなかったってことは貴族は全員学校へ、という訳でもないよね。 良からぬことをしそうな発言してる実質まだナニもワルいことはしていない同じ顔の兄が、同じ学校へ通うのは、キースの今後の負担になるっ…
おいおい、学園に通わせるのかよ アトレーにもマックスにも見張りがついてる様子もないし この家はいつになったら学ぶんだよ
表面だけ真似てもねぇ 王族は本質を見てる感じするからにじみ出る本性のオーラが隠せてないのかもしれない というか、アトレーはマックスを学校に通わせるのok出すんかーい そして4章マックス編? 何かま…
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