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氷の貴婦人  作者:
第三章 アトレーの家族
42/58

家族の解体

第三章終了です。

第四章は少し間を開けて開始します。

 グレッグが邸に戻ると、宵っ張りの貴族らしく、皆はまだ起きていた。


 サロンで談笑する家族の中に、マーシャもいた。子供達は部屋にいなかったので、早速これは一体どういうことかと、全員に向かって聞いた。


 母親が取りなすように、グレッグに説明してくれた。


「ゲート家がこの人達を家に入れてくれなかったって聞いたわ。せっかく出てきたのにひどいじゃあないの。子供達もいるのに。マーシャが泣きながら家の門の前に馬車を止めたのよ。その状態で拒否できるはずはないでしょう」


 グレッグは、マーシャの顔を睨みつけた。


「お前は、ここで何をしているんだ」


「何って、赴任準備よ。妻の仕事ですもの。当たり前じゃないの」


「商人を山程呼んでいるって? その金はどこから出ている」


「それは、アトレーに付けているわよ。私はお金を持っていないもの」


 グレッグは母親の方を向いた。


「今から買った物を確認します。手伝ってください。返せるものは全て返品します」


 母はおろおろしている。


「どういうこと? 一体何なの? 今回はおめでたい事だし、妻のマーシャがこちらで準備をするのは当然でしょ。ゲート伯爵家もあなたも、態度がおかしいわ」


「この女、子供の相続財産をギャンブルと男につぎ込んだんだ。明日離婚の手続きをする。違うなら言ってみろ。グレアムが使った金額の概算も吐いているぞ」


 さすがにマーシャがうろたえた。


「ひどいわ。投資に失敗しただけよ。これからまた稼げるじゃないの」


「男は?」


「アトレーが全く構ってくれないから悪いのよ」


「お前は屋敷の管理を放り出して、遊び暮らしていたそうだな。間男を夫だと周囲に言って回っていた。どの一つをとっても、離婚には十分すぎるよ」


 ずっと黙っていた父がマーシャに声を掛けた。


「お前の言葉に騙された自分が恥ずかしいよ。孫かわいさに、目が曇った」


「孫の一人はザカリーの子ですから、そう承知してください」


 えっと言ったまま、母が口を手で押さえて、床に座り込んだ。父が手を貸して立ち上がらせている。両親が急にしぼんで見えた。


 グレッグは両親に向かってメアリーの事を話した。

 そして、もしサウザン子爵家がメアリーを受け入れない場合、家で引き取ることは出来るかと聞いた。


 父と母はしばらく話し合い、家で引き取って育てると言ってくれた。これで、どちらに転ぼうと、メアリーの行く末は大丈夫そうだ。それと共に、もしサウザン子爵家に行く場合は、マーシャが使い込んだ分の補填は、ランス家で持つことに決めた。


 

「今回は、こちらからゲート家に謝らないといけないな」


「明日、話を付けましょう。まずは離婚です」


 グレッグはマーシャの方を向いた。


「マーシャ、お前をどうしたらいいのかわからない。離婚後、どんな風に生きていくつもりなんだ?」


「どうって、都会で華やかに貴族として暮らしたいわ。離婚なんて嫌よ。やっと理想の暮らしが手に入ったのに」


「甘えるな。家出、不義の子、家政放棄、ギャンブル、間男、身分詐称、財産横領、ここまで出揃っていてどの口が言う。不良債権のお前を、抱え込んでいこうとしたアトレーも、子供の財産に手を出したことで踏ん切りが付いたらしい。元々たった一度の関係で責任を取ったお前のことは、今だって知らない女でしかないんだ」


 母が力なく聞いた。


「二人は深い仲だったのでしょ。たった一度の責任だなんて、そんな」


「あの一回以外、今も昔もほとんど接点無しだそうだ。そうなんだろ、マーシャ」


 ふん、と鼻を鳴らしてマーシャが答えた。


「だって、生涯私を愛すと言ったのは彼よ。責任取ってもらわなきゃ」


 母が静かに泣きはじめ、マーシャの体をゆすぶった。


「馬鹿な子、何て愚かであさましいの。彼を愛してもいないのね。あなたをどうしたらいいの」


 父が溜息交じりで提案した。


「それならそれなりの相手を紹介しようか。変わり者の貴族で、社交界から遠ざかっている男は何人か知っている。そういう男に縁付かせるのが一番かもしれない。愛人でもいいだろう?」


 マーシャが、目を剥いた。思わずという感じで、父の腕にすがりついた。


「ひどい、愛人だなんて。私は貴族のレディよ。冗談じゃあ無いわ」


 父は疲れたような顔で淡々と言った。


「レディにはレディの資格が必要だ。何人かに話を持ち掛けてみよう。愛人では無く、後妻で引き受けてくれる者がいれば、それで決めていいな」


「嘘でしょう。子供たちは?」


「そんな家に子供はやれない。お前だけだ。子供は家で引き取る」


 グレッグは、パンパンと手を叩き、この話に幕を引いた。


「それで進めよう。まずは買った物の整理だ」


 母がゆらりと立ち上がった。




 次の日、ゲート伯爵家から連絡が届いた。両家で話し合いをしたいと。


 今回はランス伯爵家の有責だった。もう、こんなことは最後にしようと両親とグレッグは決めた。


 ゲート伯爵家での話し合いは淡々と進んだ。アトレーとグレッグの間で話が付いているし、両家共、今後の方針を決めている。


 まずは離婚の書類を作成し、マーシャからは子供の親権も取り上げ、接近も禁止とした。

 メアリーはサウザン子爵家が断れば、ランス伯爵家で養子にすることが決まった。


 マックスはアトレーが赴任先に連れて行くと言ったが、すぐには無理があるので、ランス家でしばらく預かることになった。


 キースがゲート伯爵夫妻の養子となり、アトレーが籍を抜き、ハリル子爵の爵位を継いだことも告げられた。マックスは将来、この子爵位と今からアトレーが築く財産を相続する。


 ランス家の面々はうなだれた。

 そこまでマーシャの係累を退けようとしたのだ。アトレーごと縁を切るほどに。そしてそれはランス家も納得できることだった。


 ランス家からもマーシャの今後についての話をした。後妻か、それに準ずる立場での受け入れ先を探す。ランス家との縁を切り、子供を持たない、社交界にも出さない条件を呑む相手だ。

 それ以外は婚家に任せる。


 マーシャがひどすぎる、子供にも会えないなんてと泣き出したが、自分から捨てたも同然だ、やかましいとランス伯爵から一喝された。


 後は子供二人に話をするだけだが、メアリーの件が決まるまで保留することになった。


 全ては両家の間で素早く密やかに執り行なわれた。


 マーシャはランス家の持つこぢんまりした別邸に、侍女二人と、従僕、護衛を付けて滞在することになった。監視付きの生活になる。

 マーシャが購入した無駄な贅沢品は、全て手違いだったとして、キャンセル、返品された。



 しばらく後にサウザン子爵家から、前向きに考えたいとの連絡が届き、両親と夫婦の4人がやってきた。

 顔合わせは非常にうまく行き、サウザン子爵家が彼女を引き取ることが決まった。

 奥方はメアリーに似た感じの女性で、大人し気な人だった。彼女は、すぐにメアリーの手をしっかりと握った。5人で並んでいると、始めから家族だったように、何の違和感もなく見えた。


 立ち会ったゲート伯爵夫妻も納得し、安心したのだった。


 ゲート家にとっても、ランス家にとっても、縁の薄い孫だったが、幸せになって欲しいと願った。

 両家から、いくらかの資産を持たせ、迎えに来たザカリーに彼女を託し、遠くなる馬車をひっそりと見送った。


 マーシャは素行不良で社交界から遠ざけられている、裕福な貴族の後妻に納まることが決まった。

 三つの縁を父親が持ち込んだが、彼女が選んだのは、父から見ると一番問題のあるものだった。


 自分で選んだのだし、今まで良かれと思ったことは、全て悪い方に転んでいる。いっそ、この方が幸せになれるのかもしれない。そう考えることにした。


 マックスにはランス伯爵夫妻が話をした。両親の離婚と、母親の再婚と別離。

 妹は本当の父親の家に引き取られ、そしてマックスはこの家で暮らすことになる。


 その話をマックスは冷静に聞いていた。


「もう少し大きくなって、アトレーがあちらの国で落ち着いたら、赴任先に行くのも自由だ。だが最低1年ほどはこちらで暮らすことになる。どうだろうか」


「はい、こちらで暮らしたいです」


 夫人が心配そうに聞いた。


「そうなの。両親と離れて寂しくはない?」


「母も父もあまりかまってくれなかったし、別にいいです。それより、早く学校に行きたいです」


「ああ、学校か。学力をまずは確認しないとな。こちらに慣れて、勉強も追いついたら、入学するのもいいね」


 母は嬉しそうなマックスを見て微笑んだ。やはり子供だわ。緊張が解けて、明るい気持ちになっていった。


「お友達が欲しいのね?」


「はい。僕も王太子殿下と友達になりたいです」


「なぜ、王太子殿下なの?」


「キースみたいに王宮に遊びに行くようになりたいと思って」


 嬉しそうに笑いながら話すマックスに、マーシャが重なった。


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― 新着の感想 ―
うわあ……<マックス
産み腹として利用もできない、不良債権のマーシャを貰い受ける理由って何ですか? 素行不良な人物に散財しか能がないマーシャを宛がっても、財産を食い潰されるしかないような…… サンドバッグとして良心の痛まな…
マックスがもうすでに獅子身中の虫になる予感しかしない これ将来性考えたらマーシャの数倍地雷でしょう
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