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氷の貴婦人  作者:
第三章 アトレーの家族
41/58

早目の帰宅

次回が第三章の最終回です。

 邸に戻り、すぐにハンスを呼んだ。

 子供の積立金は、やはりマーシャが一人で管理していたため、残高等は不明だった。


 四年前に、投資に回して増やしたいと言われ、マックスとメアリーの分を渡していた。それまでは投資は全くせず、単にお金を積んでいるだけだった。


 キースの分はマーシャに管理権が無いと断っている。

 国の発行する債券と優良企業への投資に充てると言われ、それなら減ることもないと任せていた。

 自分の甘さと、マーシャという問題のある人間に、全く向き合って来なかった事を、再度心底悔やんだ。


 ソファにドサリと腰を落とし、こめかみをもんでいると、グレッグが同じようにドサッと隣に座った。


「思いがけないと言えばいいか、分かり切ったことと言えばいいかわからないけど、このタイミングでケリをつけられて良かったと思おう」


 アトレーはこめかみから指を離した。


「マックスの八年分の積立金と、メアリーの七年分が、たぶん消えていると思ったほうが良いだろうな」


 子供が大人になった特に、成人の祝いとして、渡すつもりで貯めていた金だった。

 それが貯まっていくことに、父親としての満足感を感じていた。

 グレッグがアトレーに向き直って、真面目な顔で言った。


「メアリーがサウザン子爵家に入るなら、ランス伯爵家から何がしかの資産を持たせるよ」


「ありがとう。金のことは大丈夫だが、これからもう一度関係者全員で、話し合わないといけないだろうな」


 伯爵家の全財産からしたら大した金額ではないのだが、子供のための積立金を、男とギャンブルに使われたことがショックだった。

 アトレーはもう、マーシャをマックスとメアリーの母親として考えることもできなくなっていた。



 ドアをノックして、キースが入ってきた。


「お疲れ様でした」


 そう言って目で語りかけてくるキースに、アトレーはこちらに来てくれと頼んだ。

 キースが寄ってくるとアトレーは立ち上がり、キースを抱きしめた。まだ細い体がすっぽりと自分の腕の中に収まる。愛おしさがこみ上げた。キースは黙っていたが、戸惑いながらも嬉しそうで、ぎゅっとアトレーの胸に頭を押し付けた。


「お~い、伯父さんにも抱っこさせてくれ。キースの癒しが必要だ」


 グレッグが、文句をいうので、アトレーはキースを彼の方に押しやった。グレッグは、あ~癒される、と言いながらキースをもみくちゃにした。

 黙ってされるがままのキースを見ながらアトレーが聞いた。


「キース、お前は大体気付いていると思うけど、マーシャがマズイことをしでかしていた。すぐに離婚することになる。そしてマックスを引き取ることになるだろう。しばらくの間だが、ゲート伯爵邸で暮らさせて貰っていいかな」


「もちろんです。何で僕に聞くんですか?」


「俺はもうすぐ伯爵家の一員ではなくなる。マックスもね。先日手続きをしただろ」


「ああ、そうか」


 そう言って、なんとなくしゅんとした様子になったキースを、もう一度抱き寄せた。


「愛しているよ」


 キースが驚いたように顔を上げ、アトレーを見あげた。

 見ていたグレッグが、頭をかきながらぼやいた。


「おい、なんだか目のやり場がないんだけど。美形同士の愛の告白は、人前では止めてくれ。

 キースが大きくなったから、なんとなく危ない風に見える」


「お前は、相変わらず不謹慎だな」


「お前が無自覚に色気を垂れ流すのが悪いんだ」


 大人達の馬鹿なやり取りには無頓着に、キースは空いている一人掛けのソファに座った。


「それで、伯母様は何をしたんですか?」


 大人二人もソファに座り、どこまで話すか考えこんだ。

 そして、もう大人扱いに変えようと決め、アトレーが隠さずそのままを話して聞かせた。


「実は隣の領地を管理しているパイク家門の息子と浮気をして、マックスとメアリーの財産を使い込んでいたんだ」


 さすがのキースも、えっと言ったきり黙り込んだ。しばらくすると、至極まっとうな質問をした。


「お金が無くなっているのは、いずれ分かってしまうのに、どうする気でいたんでしょう。マックスとメアリーが知ったら怒るでしょ」


「どうだろう。君達に渡す金を貯め始めたのは、こちらに来てからで、知っているのは俺とマーシャだけだし、投資に失敗したことにでもするつもりだったのかな」


 ウ~ン、と唸ってから、


「お父様、1日早いけど、明日帰りましょう。早く見つけて、早く離婚しましょう。お父様と全く釣り合わないです」


「ありがとう。明日の朝早くに出て、戻ろう。研修期間を少し延ばして貰って、こちらには後日もう一度来ないといけないな」


「その時は、僕も一緒に来ますね」


 キースは馬術にすっかりハマり、領地に来る機会が増えたことを、楽しみにしているようだ。



 翌朝早くに領地を立ち、スケジュールを詰めて、その夜遅くに、ゲート伯爵邸に到着した。


 出迎えた伯爵たちは驚いたが、疲れたでしょうと温かくもてなしてくれた。

 アトレーはほっとした。自分にはまだ両親がいて、かわいい息子も、頼もしい友人もいる。

 一人じゃない。思えば八年間、自分は一人で何かにこもったきりだったと、気が付いた瞬間だった。



 話は明日ということになったが、マーシャの行方についてだけは両親に尋ねた。

 彼女たちは、またここにやって来ていたかもしれない。


 すると、思いがけない事に即刻返事が返って来た。


「たぶんランス伯爵邸に滞在していると思うよ。そういう噂を聞いた。任官して外国に赴任するので、今の内に必要な物を買いこむため、業者が頻繁に出入りしているようだ」


 グレッグが、それなら俺はこのまま家に帰るよ、と言って足早に出ていった。



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― 新着の感想 ―
マーシャがクズすぎるのは当然として、問題はマックスだなー…… 確か中身は母親似という事だったけど、更生できるのかしらん?
うん。マーシャもマックスも絶対いらない。
確実にトラブルというか殺しに来る可能性もあるのにこっちに寄こすなよ愛人の子なんざトラブルにしかならないし自分が長兄だから跡取りと勘違いしているのに
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