カジノ
馬車で少し行くと街に到着した。街自体の規模は小さいが、なかなか賑やかで人々も楽しそうだ。
早速教えられたカジノに向かい、入口でチェックを受けた。
初めての来店だと告げると、マネージャーがやって来て、システムを教えてくれた。お金を予めゲーム用のチップに替えて遊ぶようだ。
カジノとしての営業は9時からだそうで、それまでの時間はゲームを楽しむラウンジということだった。チップも現金化はできない。
それから、子供は十一歳以上で、入店は父兄同伴、常に一緒に行動することと、七時まで限定と言われた。とても真っ当な店だ。
グレッグが、この子に見覚えはないかい、と尋ねた。
「ありません。こんなに目立つご子息を連れていらっしゃったら、絶対に忘れませんから確実ですよ」
「ありがとう」
三人はお金をチップに替えて、ルーレットに向かった。
アトレーがなかなか勘が良く、赤黒で賭けて行って、大分チップが増え、グレッグとキースが数字に賭けてすったあたりで、また元金程度に戻っていた。
キースがポーカーをやりたがり、子供だけの参加は駄目と言われたので、アトレーと二人でひと席をもらった。テーブルの他のメンバーは、綺麗な父と息子に見とれながらも、彼らをカモだと踏んで、ほくそ笑んだ。
ところが始めてみるとこの親子が強い。
特に子供がすごく強かった。
ポーカーフェースがうまく、手が読めないついでに、目が合うとニッコリ微笑むのだ。デレーッとしているうちにチップを巻き上げられる。
あのテーブルで天使のような悪魔がゲームをしていると評判になり、ポーカーのテーブルの周りに、人だかりができてしまった。
グレッグが二人の間に体をねじ込んで来た。
「おいおい、勝負しにきたんじゃないだろ。七時には出なくちゃいけないんだ。聞き込みをしなけりゃ」
「あ、そうか」
キースが声変わり中の、ちょっとかすれた声で言って、慌てて立ち上がった。
「これで終わりにしますね。皆さん、ありがとう。チップを置いていきますから、分けてくださいね」
テーブルを囲む面々は複雑な顔で、またおいで、と声を掛けてくれた。
グレッグがキースに問いただした。
「なんだって、あんなにポーカーが強いんだ。おまけに慣れているし」
「それはね、ジョンとやっているからだよ。彼は大人のすごく強い人とよく勝負しているから、すごく強いんだ。僕もやっと対等にゲームできるようになったんだ」
グレッグが、溜息をついた。
「あの王子様かあ。曲者だな。そういえば、先日マックスを見たときも、全く表情に出さなかったもんな」
「うん、いつもね、彼が何を考えているかなんて、僕には全然わからないよ」
「じゃあ、どうしているんだ?」
「聞くの。何考えてるって」
「ああ、そりゃあいいね」
二人の会話を聞いていたアトレーは呆れたが、笑い出した。
「キースはグレッグに良く似ているよ。それで、ジョン王子は前王に似ているんだろ。そりゃあ、いいコンビだ」
「何か飲むか?」
グレッグが奥のバーカウンターに二人を誘導して、適当に注文してくれた。
キースはアップルジュースをもらった。
バーテンンダーにチップを渡しながら、グレッグが聞いた。
「ここにゲート伯爵家子息の奥方がよく来るって聞いているんだが、知っているかい?」
「ああ、常連です」
「へえ、貴婦人一人でこういう店にやって来るなんてめずらしいね?」
「いえ、いつもご主人とご一緒ですよ」
「へえ~。そりゃあ、仲の良い事でいいね。じゃあ、ありがとう」
グレッグはグラスを持って二人の元に戻り、今聞いた事をアトレーに話した。
キースに聞かせるにはふさわしくない内容だ。




