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氷の貴婦人  作者:
第三章 アトレーの家族
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今後の準備

 翌朝、早目に屋敷を訪ねてきたグレッグを、アトレーの滞在する客間に招じ入れ、昨夜の話をした。

 彼に伝えないといけないことは多い。それだけ、彼に頼っていると言える。


「グレッグ。向こうの国に戻るのはいつの予定なんだ?」


「三か月くらいはこちら詰めだよ。今までも、小まめに行ったり来たりしているんだ。年配の役人には旅が堪えるから、そう言うのは全部、俺に回ってくるんだ。お前も、きっとそうなるぞ」


「ありがたい。申し訳ないが、手伝ってくれ」


「マーシャは、あれだけの事があっても、何も変わらないんだな。まあ、先日あった時に、それは感じたけどな。マーシャの素行調査は、俺が以前使った調査員を、もう一度向かわせるよ。主に交友関係と、金の使い道だな。前回は屋敷周辺で、アトレー一家の評判などを調べさせただけなので、今回は範囲を広げるよう言っておく」


 アトレー自身は、自分が一度領地に戻り、屋敷の管理体制や状態を確認しようと思っていた。そのためには最低でも四日ほど掛かる。


「それなら、お前がいない間の管理の引き継ぎの件もあるし、領地に派遣する予定の執事とキースも連れて、一緒に行ってみないか?」

 

 予定では、もう一か月後くらいに七日の期間を設けて予定していたことだが、予定の変更を頼んで前に回してもらうことにした。


 キースに話をして了解を取り、学園にも連絡を入れてもらった。

 


 その日の午後、前日から訪問の連絡が来ていた、ジョン王太子殿下がやって来た。

 キースから一週間ほど領地に行くことを伝えられると、だいぶむくれた様子になった。ずいぶん仲がいいなあ、アトレーは微笑ましくながめていた。


 そのアトレーに気付き、王太子が声を掛けてきた。


「ジョン王太子殿下。お目にかかれて光栄でございます」


 型通りに言うと、普通でいいですよ。僕はキースの親友なんだからと言い、気さくに話し始めた。


「一週間もキースと会えないなんて寂しいけど、仕方無いですね」


「申し訳ございません。将来キースが治める領地の視察を一緒に行っておきたいのです」


 キースが王太子殿下に、気軽にジョンと話し掛けている。

 お土産は何がいい? というような話をしている。全く、普通の友人同士だ。


 グレッグには少し前にホテルに向かってもらっていた。マーシャ達を送り返す役目を買って出てくれたのだ。


 そちらの動向も気になるので、挨拶を終えてから、アトレーもホテルに向かおうとすると、伯爵がお茶でもどうかと声を掛けてきた。

 天気がいいので、サンルームにテーブルセッティングしたそうだ。

 そういう華やかなお茶の席は久しぶりで、一杯だけ付き合ってから出かけることにした。


 暖かくて明るいサンルームでのお茶は、また格別に気持ちの良い物だった。

 侍女たちがくるくると気持ちよく動き回り、とても居心地よくしつらえられたソファや椅子にくつろいで、和やかに会話が弾んだ。

 初めての旅行に興奮しているキースは、初めて父親とまともに話していることにも興奮していた。


 アトレーが、では用事があるのでと断り、席を立ったところにグレッグがちょうど戻って来た。ちょっと来てくれと呼ばれ、彼について行くと、マーシャ達が昨日と同じ様子でロビーに立っていた。


「アトレーすまない。絶対に戻らないと言い張られて、一旦連れ戻ったんだ。ホテルは空きが無くて、チェックアウトするしかなかった」


 また、昨晩と同じ部屋に落ち着かせてから説得しようとし、言い合いになったところに、王太子が帰るのを見送りに、皆がロビーに出てきた。


 グレッグとアトレーが壁際に下がり、マーシャ達にも、王太子殿下だ、と小声で告げて控えさせた。


 ジョン王太子殿下は、マーシャとマックスとメアリーをちらっと見ると、マックスに目を止めた。

 少しの間見てから、キースを見てアトレーを見た。その後、何事もなかったかのように普通にキースと話をして、そのまま護衛達と共に、にこやかに帰って行った。


 マーシャとマックスは、王太子殿下がゲート伯爵家に居たことに驚いていた。


「なぜ、王太子殿下がここにいるの?」


 グレッグが簡単に答えた。


「キースの学友だ」


 マーシャが、なぜかキースをにらみつけた。


 その様子を見ていたゲート伯爵が、マーシャ達に向かって言った。


「君たち三人を、この屋敷に招待した覚えはない。速やかに立ち去り給え」


 黙って立ち尽くしている親子にグレッグが声を掛けた。


「他のホテルを探してやるからついて来い。その代わり、明日には領地に帰るんだぞ。」


 マーシャはゲート伯爵に向かって叫んだ。


「キースやアトレーはここにいるのに、なぜ私達だけここに入れないんです」


「キースとアトレーはゲート伯爵である私が滞在を許可している。君たちには許可を出していない。こんな簡単な事が、相変わらずわからないのかね。伯爵は私なのだ」


 マーシャにはわからなかった。グレッグを見ても、可哀そうな物を見るような目で見返される。


「家族じゃないですか」


 伯爵はそれには答えず、グレッグにお願いすると言ってから背を向けた。

 そして、アトレーを呼んで、一緒に書斎に入って行った。


 書斎に入ったゲート伯爵は、アトレーの廃嫡届を出すこと、キースを自分の養子にし、嫡男として届ける事を告げた。


「彼らの様子を見る限り、手続きは早めにしっかり済ませておいた方が良いと判断した。何かがあった時、彼らが何も出来ない状態にしておく必要がある。彼らに礼儀や常識など、求めるほうが間違っていた」


 アトレーは、その案に積極的に賛成し、すぐに弁護士を呼び手続きをすることになった。

 伯爵は、まだ体に力が入ったままで言った。


「あの女に家族と言われた時、背筋が寒くなったよ」


「すみません。俺のせいで」


「いいや、我々があの女と結婚するように言ったのだ。間違っていた。読み誤ったんだ」


 そして母を呼び、その話を告げ、子爵位をアトレーに譲る手続きも同時に進める事になった。

 子爵位を継いだ後、ゲート伯爵家から除籍することも決まった。


 これは、任官に影響するかもしれないので、伯爵家嫡男から子爵へ変更した上での任官が可能か王宮に問い合わせないといけない。

 その返答如何で、手続をする時期に調整が必要だった。

 アトレーはもともと財産を全てキースに渡すつもりていたので、息子としての権利も持っていないほうが揉めないだろうと考えた。

 それに、父が唐突にその手続きを始めたくなるほど、彼らに嫌悪感を抱いたのも、残念ながら理解できた。

 


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マーシャには分からなかった、で流していい場面ではありません。 はっきりと「『家族なのに』屋敷に出入りできないことに文句を言う権利は、『家族である妹の結婚式当日なのに』その夫と不貞を犯したマーシャにはな…
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