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氷の貴婦人  作者:
第三章 アトレーの家族
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未来の伯爵夫人と嫡男

 アトレーがロビーに行くと、マーシャが執事とお茶を用意している侍女に文句を並べ立てていた。

 荷物が玄関先に積まれている。スーツケースが六つほどだ。


「マーシャ。ゲート伯爵邸でみっともない態度をとるのはやめてくれ。ところで、なぜここにいる。

 約束ではこちらへ出てくるのはもっと後のはずだ」


「アトレー、この失礼な執事を辞めさせてちょうだい。次期伯爵夫人の私を邸内に案内しようともしないのよ。ありえないわ」


「ありえないのは、君だ。連絡もなく勝手に何しに来た」


 マーシャはぽかんとした顔をして口をパクパクさせている。


 母の代わりにマックスが言った。


「お父様を手助けしようと思って出かけてきました。何かとご不自由かと思いまして」


 アトレーは冷たい顔でマックスをみやり、言い返した。


「明日には領地に戻ってもらう。今夜はホテルを手配したので、そこに泊ってくれ。今、馬車を用意させている」


 メアリーは端の方の椅子に座って大人しくしている。

 侍女がお茶を彼女に渡し、甘いお菓子も一緒に勧めている。それに対し、ありがとうと言ってにこやかに受け取っている。

 やはりこの子は、この二人と引き離さないといけない。この時それだけは、はっきりと決めた。


「なぜですか。次期伯爵夫人の母と、嫡男の僕がどうしてこの家で遠慮しないといけないんですか?」


「何を勝手なことを言っている。今の当主は父だ。私達はその係累に過ぎないんだぞ。当主に対する敬意も礼儀もわきまえないなら、この場に足を踏みいれることは許されない。お前たちは招かれていない」


 めったに見ない、アトレーの怒りに満ちた様子に、マックスとマーシャもたじろいでいた。


「これ以上の恥を、この場でさらさないでくれ。任官も取り消されるかもしれない。それでもいいのか」


 マックスが本当にわからないという顔をして突っかかって来る。


「でも、なぜです?わからない」


「何がわからないんだ」


「だって、僕はこの家の将来の主人です。自分勝手にふるまって何が悪いのですか」


 その言葉に対し、思い違いも甚だしいと返し、マーシャに向かって言った。


「マーシャ。領地の屋敷は今どうなっているんだ。引き継ぎなどは終わっているのか?」


 突然聞かれ、マーシャは驚いたようだ。


「引き継ぎってなんのですか?」


「屋敷の管理に関してのだ。当たり前だろう」


「知りませんわ。そんなの私の仕事じゃあ、ありませんから」


 これには、アトレーが驚いた。屋敷の管理は、女主人の仕事だ。家政の切り盛りはマーシャがしていると思っていたのだ。


「じゃあ、今まで誰が屋敷の采配を振るっていたんだ?」


「さあ、誰でしょうね? 私達が行く前にやっていた人が、そのままやっているのじゃあないですか?」


 そう言って、首をかしげている。本当に知らないようだった。


「お前は、引き継がなかったのか? じゃあ、いったい領地で何をしていたんだ」


 え、と目が泳いでいる。


 その様子に、たぶん碌な事をしていないと直感した。

 これは、アトレーが漠然と考えていたよりも、ずっとまずい状態になっているのかもしれない。嫌な予感が心を暗くした。


 馬車が到着したと、執事が連絡にやってきた。


「奥様とお子様方、皇都一のホテルを予約いたしました。本日は、そちらにお泊りいただくのがよろしいかと思います。馬車を呼び、荷物もそちらに積み終えましたので、どうぞこちらへ。明日、ご連絡を差し上げます」


 そう言って、すっと三人を馬車に案内してくれた。

 行先のホテル名を告げ、さっさと馬車を向かわせた。

 そして言った。


「アトレー様、ご連絡が必要な先がございましたら、受けたまわりますが」


 良い使用人がいるのはありがたい事だ。


「申し訳ないが、グレッグに連絡を入れて欲しい。なるべく早く会いたいと」


「早速」


 はあ〜ッと溜息をついた。領地でのマーシャの素行調査が急ぎ必要だ。そして領地の屋敷の管理が今どうなっているのかについても。


 邸でパーティーや茶会を開く事も無かったので、屋敷の維持、管理は簡単だし、維持費用もあまり高額ではない。使用人の数も少ない。だから、マーシャに任せきりだった。

 毎年の維持管理費が上がって来るが、それはチェックしているし、問題は見当たらない。


 マーシャも一応伯爵家の息女だ。淑女教育を受けているので、領地や、館の采配については学んでいる。

 邸の采配は女主人の第一の仕事だ。それが、全くのノータッチだったとは!


 自分自身は書斎と自室とくらいしか使わなかったし、食事も書斎に簡単な物を運ばせていた。家政には手も口も全く出していなかった。


 両親たちが待っている部屋に戻ると、今のマーシャ達の様子や話の内容をそのまま話した。

 隠し立てせずに、ちゃんと周囲に相談しないといけない。それは前回の事で学んでいる。


 今回は仕事が絡むし、問題があるなら全てをはっきりさせてから進めないと、周囲に迷惑を掛ける。

 そして、勝手に次期伯爵夫人と名乗る女と、嫡男と名乗る子供もいる。その二人が、実際にその権利を持っていることが恐ろしくなった。


 明日、グレッグに相談して、対応すると両親とキースに話しておいた。

 見ない振りをしていた八年間が急にのしかかってくるようだった。



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― 新着の感想 ―
アトレーが上に評価される理由が全く分からないな。ただの無能にしか見えない。
血縁上は長男であることは確かだし元はといえば馬鹿が避妊せずに不貞をしたから長男の忌み子が生まれたんだし はっきりお前は不貞から生まれて来た祝福されない忌み子だから跡を継げないと言えばいいのにお前が生ま…
マックスが本格的に登場 今後の活躍が楽しみですね
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