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氷の貴婦人  作者:
第三章 アトレーの家族

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今後についての家族会議


 補正のついでにカフスとタイも追加で購入した。


「お前は、もっといい物を揃えろよ。年齢に見合った品質にアップしていかないと、貧相に見えてしまうよ。全く、その手のアドバイスが出来る奴を人選しておかないと」


 アトレーは大した贅沢もせず、地味に真面目に領地経営に取り組んでいたので、伯爵家の財政は以前よりも、更に潤っている。

 マーシャの出費は限度枠を決めてあり、そこからは出ない。とは言え、何に使うのか全て使い果たすのだが。


 外国に引越す前に、まずはマーシャに、普段の生活について問いたださないといけない。

 気が重いが、今後は周囲に迷惑をかけるので、ほうって置くわけにはいかないのだ。


 テーラーでのあれこれが終わり、久しぶりに二人で街を歩き、オープンカフェに立ち寄りコーヒーを飲み、道行く人達をゆっくり眺めた。

 眺められる方が多いが、アトレーは見られ慣れているので、大して気にならない。


「おい、相変わらず注目されているが、相変わらず気にしていないな」


「そうだな。年も取ったし、大分しょぼくれたから、昔ほどは目立たないよ」


 そう言うアトレーを見て、グレッグは何か考え込んでいた。


「なんだ?」


「昔のようなゴージャスな華やかさは薄れたけどな。落ち付きと色気が加わって、つまり、やっぱり目立つよ」



 寛いだ散歩の後、アトレーは邸に戻り、夕食前の軽い飲み物を用意してもらい、両親と三人で話をした。

 まずは、今までの領地での生活と、メアリーが生まれた経緯を伝えた。

 伯爵夫妻は驚いたが、取り乱しはしなかった。


 グレッグが勅使として領地に来る前に、両親に任官についての伝達と、相談に来てくれたそうだ。

 その時、庶子が一名届け出られていることも伝えていた。


「なぜ、その時すぐに離婚しなかったの?」


 母は、そう言って涙ぐんだ。


「もう、これ以上の醜聞は要らないよ。それらは僕が抱え込んでいく。キースとソフィが楽しく暮らしているようで救われた気分だ」


 父が、心配そうな顔で聞いてきた。


「レグノ国で長く働くのなら、爵位と財産管理はどうするつもりだ?」


「爵位はこの期にキースが継ぐよう書き換えてください。

 伯爵家の領地の財政は、ここ数年は俺と向こうの執事とで主に管理していたが、それ以前は彼一人で行っていた。優秀で信頼できる人物だよ。彼にもう一人付けて管理してもらえば大丈夫。俺も年に、2回ほどはチェックしに戻るよ。


 必要なインフラ整備はほぼ終わっているから数年は必要ないはずだ。貧民の救済や医院のための人材も補充しているし、教会にも献金している。うまく回っているので、手は掛からないよ」


「そうか。八年間で良く改善してくれたね」


 母が自分の持っている爵位をアトレーに譲るといってくれた。母の叔父から譲られた子爵位だ。

 キースを次期伯爵とする手続きが正式に取り決められたら、ありがたくいただくことにした。


「財産は全てをキースに譲ってください。俺は自分で今から稼ぎます。給料は悪くないし、生活は国持ちだから、十分に暮らしていけるし、何がしかを残すことが出来るでしょう」


「それは駄目だろう。マックスにも分けてやらなくては」


「今から僕が築き上げたものは全てマックスに渡します。それでいいのではないかと思います」


 父が以前から不思議に思っていたと言った後、聞いた。


「なぜ、キースに全く構ってやらなかったんだ。別れて暮らすからには、あまり寂しがられても困るのだが、それにしてもそっけなかった」


「キースの目がソフィそっくりで、見つめられなかったのですよ。色は私と同じ緑だけど、目の形や表情がね」


 そういえば、そうねと母が言った。


「表情の豊かな切れ長のきれいな目をしているわ。あれは、ソフィの目ね」


「マックスは誰に似ているんだい。同じ緑の目だろ?」


「残念ながら、マーシャに似てしまいました」


 そうかと言って、両親はうなだれた。その一言だけで、大体の事を察したようだ。


「そのうちに、どうせならキースとはなるべく関わらないほうが、彼のためにいいと思い始めました。もし、寂しがるようになったとして、あちらに引き取ることが出来ない。マーシャ達がキースを受け入れるはずがない。関わらなくて正解だったと思っています」


 母が小声で言った。


「そうね。もう今までのことを悔いるのはやめましょう。私達も悔やむことがたくさんあるのよ。でも、この機会に前を向きましょう」


 次にアトレーは、メアリーの受け入れを、実父のザカリーに打診したことを話した。

 もしザカリーが受け入れてくれるなら、そちらで育った方がいいかもしれない。マーシャとの間に、母娘の親密さが感じられないのに気付いた時から、そう考えるようになった。


 グレッグが任官の話をして帰った後、家族全員で話をしたとき、マーシャはメアリーをゲート伯爵家かランス伯爵家に預けられないかと言い出した。

 メアリーの容姿が地味で、外国に連れていくにはパッとしないと言うのだ。すぐに話を遮ったが、いつもこんな調子ならメアリーが不憫すぎる。


 マーシャがそんなことを言えるのも、メアリーが公式には庶子となっているので、自分が産んだ子供とは思われないと信じているのだろう。そういう考えの浅いところが、いかにもマーシャらしい。


 では、関係者に聞いてみるが、そのまま今生の別れでも良いのだな? とアトレーは念を押した。彼女はそれに対して、それでいいと答えた。立派なものだ。

 たぶん彼女の頭の中では、すでに赴任に付き従うのは、自身とマックスだけになっていることだろう。


 父がその話を聞いて、心底驚いたという顔をした。


「一体、どういう考えで、そうなるんだろう」


「たぶんですが、見栄えの良い夫と子供を見せびらかすのに、地味な娘は邪魔なのでしょう。

 マックスを連れて洗礼式にやって来た時と、何も変わらない」



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