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氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
28/58

年末パーティー夜の部

 夜になり、大人用の夜会の会場が開かれると、着飾った男女が続々と入場し始めた。


 昼の部に出席していた人達も、衣装を替えて再びやってきている。

 昼と夜のドレスコードは違う。夜の方がより華やかになる。女性のドレスは肌の露出も多くなり、ヘアスタイルや装飾品含め、艶やかさを加える。


 会場に入った人々は思い思いに集まり、または座り心地の良い椅子に陣取り、会場を眺め回している。


 一番人が集中している場所にソフィがいる。それはここ数年の約束事のようなものだ。


 そのソフィが変わった。

 今までのソフィにもう一つ新しい顔が加わったのだ。とても華やかで生き生きした人間の女の顔というのか。


 今までは、妖精との混血ですと言われても頷けるような、どこか人間離れした様子が魅力だったのが、それに血が通った。


 その威力は絶大だ。

 昼の部でキースに向けた笑顔は周囲に被弾し、彼の周りの貴族子弟達をなぎ倒したそうだ。

 可哀想に。免疫が無い少年たちにとっては災厄だ。二、三年は、他の女に目がいかないことだろう。


 口の悪い男がこう言っている。


「中世だったら即刻魔女認定だよ。今日の様子を見て、魅力的すぎて魔女だと言われた女性が、過去にもいたと確信したね」



 王がパーティの最初の挨拶を行い、それに対してニコラスが臣下代表として挨拶を返した。例年は公爵家の当主が行うが、今年は皆、体調や年齢、領地の問題などで都合が悪かったので、モートン家が指名された。


 次期当主のニコラスが立派に挨拶を務め、その後に王と王妃、次に王太子夫妻、次にニコラスとソフィが踊った。


 どのカップルも存在感の大きさと、美しさは群を抜いている。


 見守る貴族達はため息を吐いて見惚れていた。


 曲の途中から少しずつ、他の者達が踊りに加わり始め、それは次第に増えていった。そして、華やかにパーティが始まった。



 その様子を壁際に立って静かに見ている男がいた。グレッグだった。


 いつもは陽気で派手な彼が、とても静かに目立たないように振る舞っている。

 気付いた人が居れば、不思議がったことだろう。


 ゲート伯爵夫妻が人に囲まれている。今までは、華やかな場に出ず、控えめにしていたので、家中の様子はほとんど外部に聞こえてこなかったのだ。


 アトレーがどうしているか、子供はどうなったのか聞きたい人はたくさんいた。


 キースが学園に入学し、子供のコミュニティで受け入れられたこと。そしてソフィがキースを受け入れたことが公になった今、ゲート夫妻は注目の的だった。


 今までは、ランス伯爵家に対しても、その話題はタブーで聞くこともできなかったのだ。

 興味の中心はアトレーと子供で、マーシャの事は付けたしくらいのものだった。マーシャは存在感が小さすぎて単なる脇役でしかなく、大して興味を掻き立てないのだった。


 社交の場は俄然活気付いた。




 グレッグは王太子夫妻のそばに、目立たないように近付いて行き、二人が挨拶やらダンスから解放された隙間を見計らい声をかけた。


「今、少しだけ、いいでしょうか」


「やあ、久しぶりだな。グレッグ。帰国していたんだな」


 外国での勤務のせいだけではなく、不在のアトレーの影が二人の間に立ちはだかり、なんとなく昔のような付き合いがしにくくなっていた。

 グレッグが、友人としての顔で話しかけるのは久しぶりだ。

 王太子夫妻も敏感に感じ取り、声を小さくした。


「なんだい?」


「この後、話が出来ないだろうか。アトレーとキースの件だ」


 二人は今夜の予定を頭に浮かべた。二時間後なら自室に戻っている。


「二時間後に僕の部屋でいいか?」


「うん、ありがとう。良いウイスキーを手土産に、伺わせて貰うよ」


「侍従のバースに伝えておく。声を掛けて案内して貰ってくれ」


 それだけ話し、せいぜい3分ほどで側を離れた。


 グレッグは大きな体をしているのに、目立たないよう振る舞うことが出来る。学生時代、授業をサボるために身につけた技だ。

 サイラスとアトレーはだめだった。どうやっても目立ってしまう。

 その後ろ姿を見つめたままサイラスが言った。


「今のグレッグを見て、久しぶりに学生時代を思い出してしまった。今まで努めて思い出さないようにしてきたのにね」


 ローラが侍従に向かって手を上げて、こちらに呼んだ。


「じゃあ、バースにウイスキー二本と、つまみと、良いワインを頼んでおくわね」


「おい、そんなに飲まないぞ」


「いいえ、きっと私に感謝するわ。たぶん、4時間後にね」


 それは正しい予言だった。



 二時間後に部屋のドアがノックされ、グレッグが案内されてきた。


「やあ。こんばんは。久しぶりだな。友人のサイラス君とローラ嬢」


「本当に」


 手土産だよ、と隣国の高級ウイスキーのラベルを二人に見せる。

 なかなか手に入らない幻のウイスキーだ。瓶を侍従に渡し、グラスと共に出して欲しいと頼んだ。


「今日は、時間を空けてくれてありがとう。大きなイベントの後で疲れているだろうけど、その時が一番スケジュールの穴場なのも知っているのでね」


「うん、いいよ。私たちも聞きたいことがあるし、伝えたいこともあるんだ」




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