表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
27/58

かしましい妹たち

 母の横に立つ男性が、キースと目が合うと、母の肘を支えて、こちらを向かせた。


 母が、キースを見てパアッと光を放つような感じで微笑んだ。

 紅い唇から白い歯が見えると、その映像が脳裏に焼き付いた。次に母の周囲を囲む人たちのびっくりした様な顔が目に入った。


 キースの周囲にいた学友たちは、うっと声を詰まらせ呆然としている。


「こりゃあパワーアップしたなあ。おい、周りの奴らを軽く叩いて正気に戻せ」


 伯父が言いながら周囲の学友たちの背中を叩く。

「おい、しっかりしろ。間抜け面を元に戻せ」


 キースも周囲の友人たちをパタパタと叩き、揺すって正気付かせていった。

 王子様は、と見ると、びっくりしているが正気だ。


「君の母上って、魔法使いみたいだね」

 そう言われてキースは戸惑ったが、王子様が正気でいてくれてほっとした。王家から難癖を付けられるような事態は御免こうむりたい。


 男の人が、子供を三人連れて、キースの方にやって来る。

 小さい女の子二人と、もっと小さい男の子だ。彼らは庭に忍び込んだ時に見かけた子供たちだった。

 キースの前に立ち止まると、静かな声で言った。


「僕はニコラス・モートン。ソフィの夫だよ。そして、この子達は君の妹弟だ。紹介させて貰いたいのだけど、いいかな」


 彼は、一目見て、一言話しただけで、いい人だとわかる人だった。


 キースは黙って頷いた。

 伯父もやってきて挨拶している。2人はだいぶ親しげだ。


「僕は君の母親の夫なので、呼び方はニコラスおじさんでどうだろう。

 子供は、右の少しだけ髪の色が濃い茶色なのがマリベル、もう一人がルースで、今6歳。こちらがハーレイで四歳だよ。さあ、3人共、お兄様にご挨拶して」


 女の子二人は、キースの顔に見惚れ、口を開けて間の抜けた顔で見ている。

 キースの方から挨拶したほうがいいかなと思っていたところに、別の子が割り込んで来た。


「こんにちは。キース様。お兄様ったら、私を置いて先に出てしまうんですもの。一緒に行こうって言ったのにひどい」


 王女と、その後ろに侍女が立っていた。

 そう言えば、王子様は単身で来ている。おかしいな、と思って目で問いかけると、すっと逸らされた。


 会場を見回すと、顔を見たことのある侍従が一人、会場の端にいた。護衛らしき人も二人一緒にいる。この王子様、護衛たちもろとも、王女を撒いて来たようだ。


 リデル王女様は、またキースの真ん前に立って喋っている。

 キースは思った。お兄様に文句を言うのなら、お兄様のところで言って欲しい。面倒くさい王子様と王女様、見事に兄妹だ。


 王女様の乱入で、せっかくの兄妹弟の挨拶が進まない。キースがどうしようかと考えていたら、急にマリベルが一歩前に出てきた。


「お兄様、私はマリベルです。これからよろしくお願いします。あちらで座ってお話しませんか」


 もう一人も一歩前に出てきた。そして二人で、キースを囲むように立った。


 そのまま王女対キースの妹たちで睨み合いが始まってしまった。まだ6歳なのに眼光の鋭さは一丁前だ。


「私、キース様にお話があるの。少しどいていてくださる」


「私達、今日初めてお兄様とお話するんです。大切な日なので、お話は別の日にお願いできますか」


「私も大切なお話があるのよ」


「私達、キース兄様の妹なんだけど」


「私、この国の王女なんだけど」


 また、無言の睨み合いになった。


 伯父や、ニコラスおじさんに救いを求めたが、片や、にやにや笑い、片や困った顔で、助けに入ってくれそうにない。


 ジョン王子がキースのスーツの背中をつんつんと引っ張った。

 小さい声で言う。


「逃げよう」


 賛成だ。


「御免ね。ちょっと用事を思い出した」


 そう言うと、くるっと回って、空いている後方に走り出した。王子も付いて来る。


 丁度、3,4人の女の子たちが話し掛けに来たようで、今度はその子たちに妹たちと王女様が食ってかかっている。

 会場から逃げ出してほっとしてから、キースは王子に聞いた。


「リデル王女は、何の用なのか知っていますか?」


「多分、君と結婚したいって話じゃあないかな」


 そういう冗談はいりません。


「妹って初めてだけど、めんどくさそうですね」


「ああ、そうさ。やっと、君の方に興味を移してくれたので、僕は少し楽になったかな」


「もしかして、押し付けるために僕を家に呼んだんですか?」


 あははは、まさか。そう言って王子は笑っているが、本当だろうかと疑ってしまった。



 キース達が逃げた後、一緒に戦ったマリベルとルースとリデルの間になぜか連帯感が生まれたらしい。

 すっかり仲良くなって、三人でキースお兄様の話に花を咲かせている。

 三人共、大してキースの事を知っているわけではないが、他の女の子たちも同様で、それに比べると妹という特権、王女は一度話した事があると言う優越感で高笑いの最中だ。


 父親のニコラスは、これどうしようか、とグレッグにぼやいている。


 そのニコラスに向かってハーレイが涙目で文句を言った。


「僕だけ、お兄様とお話できなかった。僕もお話したいの」


「今度会ったら、ご挨拶しようね。絶対今度はお前が一番にお話できるよう頑張るよ」


 ハーレイをなだめながら、ニコラスはグレッグにまたぼやいた。


「キースの持つ人を引き付ける力は大きいね。アトレー似の容姿の力は絶大だけど、それとは別の引力はソフィゆずりだろうな。三人の子供達にも、その片鱗は見えてきているし、先々が思いやられるよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面と向かって『憎んでいる、殺していたかもしれない』と言った息子に、愛されて育った妹達を会わせようとするのが意味わからん。 もし自分がキースなら、妹達に 『母に憎まれ、捨てられた僕が、同じ母に愛されて育…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ