謎のアトレー一家
いやいや、悪いわけじゃあ、とかなんとか言い合っている大人達は、皆複雑な表情をしている。
ゲート家で一度相談した内容だから、戸惑いの理由は分かる。王族と仲良くなることの難しさはキースもよくわかっている。普通の友人とはやっぱり違う面倒さがある。
常に不敬に当たらないか考えないといけない。メンドクサイ。
大人達にお茶会の時の状況説明をして、ちゃんと正しい受け答えを心掛けていますと弁明した。
「対王族用の定型文で返答したら、王太子妃様にグレッグ伯父さんに似ていると言われたんです。伯父さんも何かやらかしたんですか?」
「まさか。俺はいつもいい子にしていたよ」
微妙な間が訪れた。
大体わかった。
「ローラ妃は、パンチが利いた女性だからな。ぼんやりしてるとやり込められる。サイラスはのんびりしたいい奴だよ。王子様はどんな子なんだい?」
「優し気だけど掴みどころがなくって、押しがものすごく強いです。そして面倒くさい」
「うん、それは祖父似だな。王にそっくりだ。しかしキース、見事に不敬な物言いだな」
聞いていた両家の祖父がやれやれと言っている。
キースも少し心配になった。伯父までひんしゅくを買って爪はじきにされたら、またまたとばっちりを食らうのだ。
「伯父さん、もうこれ以上の負担は、僕、負いたくないので慎重にお願いします」
「あ~、まあがんばるよ。お前もな」
ここまでは明るく楽しく話をしていたが、グレッグ伯父さんが、アトレーはどうしていますかと聞くと、雰囲気が少しトーンダウンした。やはり父のアトレーが厄介事の大本なのだ。
ゲート伯爵が答えた。
「領地経営に真面目に取り組んでいます。年に一度だけキースの誕生日に一人でこっちに来て、報告してくれていますよ」
グレッグ伯父さんが驚いて聞き返した。
「年に一度だけですか? キースは寂しくなかったのかい?」
「別に」
「あ~、どっかで聞いたような会話だ。やだやだ。それで、マーシャとマックスは?」
祖父の目が少し泳いでいる。
「元気にしているそうです」
「マックスの学校とかは?」
「さあ。私達も細かいことは聞かないし、アトレーも大して話さないので、全く様子がわからないのですよ。どうしているんでしょうね」
そう答えた後、ゲート伯爵が、ランス伯爵夫妻の顔をうかがった。
お互いに探り合っているような雰囲気で、どちらの家も相手側がもう少し様子を把握していると思っていたようだ。
マックスはキースの兄弟だし、両家の孫なのだ。ここにいる全員に血のつながりがある。それなのに誰一人、今まで様子を見にもいかなかったのだろうか。
全員が驚いていて、変な雰囲気になったので、キースは思いつくままに言ってみた。
「僕だって両親とほとんど会わずに育ち、かわいそうだと思われていたのです。会って見なければ、本当のところはわからないし、マックスも親子三人で楽しく暮らしているのではないですか」
ところが大人たちの反応はあまり良くない。なぜだろうと思っていたら、グレッグ伯父さんが答えてくれた。
「残念なことに、マーシャは足りないものをあげつらう性格なんだ。だから、あんまり幸せではないかもしれない。もし不満だらけの母親に育てられたのだったら、マックスはどうだろうなあ」
皆、しんとしてしまった。
グレッグ伯父さんが仕方なさそうに、その内に一度会いに行ってみようかな、と言った。
その年の年末、王宮で年越しのパーティーが開かれることになった。
昼間に子供たち向けのパーティーがあり、親も一緒に出席し、夜には大人達用のパーティーが開かれる二部式の物だった。
キースたちは昼の部にだけ出席する。16歳以上の上級生は両方出席できるらしい。
盛装しないといけないので、皆それぞれに、ドレスシャツやスーツの新調をするために、今日は仮縫いに行くとか、親と買い物に行くとかの話題がにぎやかに交わされた。
キースのスーツはグレッグ伯父さんが用意してくれることになった。老人のセンスに任せたら、とんでもないものを着せられるぞ、と伯父から耳打ちされたからだ。
二人で一緒にテーラーに行き、布地を選び、スタイルを選び、ボタンやらカフスやら......と、細々とややこしく時間のかかる作業を経て、スーツの注文が終わった。
ティールームに寄って、お茶とお菓子を頼んで待つ間に、ゲート家の領地に行ってきたか聞いてみた。
「気になるかい?」
「はい。兄弟だし、いつか会うこともあるでしょう。彼らを僕の家族だとは思えません。でも血がつながっているのは確かだから」
「うん、そうだよな。あの後、会いに行きたいけどいいかと手紙を出したんだ。断られたよ。もう俺たちには会いたくないのかもな」
「そうなんだ。じゃあ、様子はわからないままなんですね」
「こちら側があいつら三人を強く拒否していたのだから、それも仕方がない。まあ、うまくやっているのだと思うしかないかな」




