王太子一家とのお茶会
侍従が呼びに来たので、ゲームを切り上げ庭に出ていく。そよ風が気持ちがいい。
ゲームに熱中して凝った肩をほぐしながら、ゆっくりと歩いた。
パーゴラの下に、ザ・アフタヌーンティーという雰囲気のお茶の支度が出来ている。
色とりどりのクッションが華やかで、居心地がよさそうだ。
侍従に促されて、二人は椅子に座った。ジョン王子はキースの横だ。
なぜかもう2つ席が用意されていて、キースの勘は逃げろと言っている。
そう思った時には敵の大将、まだ王太子だから副将かな、が夫婦でお出ましになった。
3人ともご機嫌だが、包囲されたキースは全然嬉しくない。
これは人物調査とかなのだろうか。王子に近付く人間を、面談して判断するとかの。
ちょうどいいから落としてもらおうかと思ったが、張り切っていた祖母を思い出してキースは堪えた。また爪弾きにされたら、もっと落ち込むだろう。
そう思って行儀よく、口数少なく、控えめないい子供として振る舞った。
和やかな会話のリズムが狂ったのは、父アトレーの話題になった時だった。
会話は定番の、そっくりだなあから始まった。
「そうですね」
「アトレーはどうしている?」
「知りません」
王太子様、ちょっと動揺した様子だ。
「会っていないのか?」
「誕生日に来ましたよ。話をしないので、どうしているのかは知りません」
「じゃあ誕生日にやって来て、彼は何をしているの?」
「プレゼントを持ってきますね」
「会えて嬉しいかい?」
キースは首をかしげて子供ぶっておいた。
「特には」
「あ~、昔したなあ。こんな会話」
王太子様が頭を抱え、その横から王太子妃様が聞いてきた。
「アトレーについて悪い噂を聞かされて、嫌いになったからなの?」
ゲート家の品位を汚してはいけないと思い、キースは、はっきりと説明した。
「ちゃんと話を聞いたのは学園に入学する数日前です。それまでは何も聞かされていませんでした。
単に父が素っ気ないので、僕も懐かなかっただけです。年に1日しか来ませんし」
王太子妃様も、年に一日、と言って絶句する。
「じゃあ、全く両親との関わり合いが無いままで生活してきたの?」
「まあ、そうですけど。祖父母がすごく可愛がってくれるので、特別何とも思いません」
「ソフィとは全く会ったこともないのでしょう?」
「入学前に会いに行って、少し話をしました」
ええっと言って驚いたのは、二人だけではなかった。側に仕える侍従と侍女達も一緒に驚いていた。
母は周囲からどう思われているんだろう。
周囲の反応にキースはかなり不安になった。
「何を話したの? というか、あなたと話をしたの?」
「僕の母って、そんなに変わった人なんですか?」
「お母様の事を知らないの?」
「はい。祖父母や周囲はなるべく話題にしないようにしていたし、僕もなんとなく触れないほうがいい気がしていました。でも、学園に入学する前に、一度だけ会いに行こうと思ったんです」
お茶や、お菓子の追加をしながら、気のせいか、侍女たちが距離を縮めてきているような気がする。
「ソフィは社交界の華と呼ばれている有名人よ。綺麗な人だったでしょ」
「はあ、まあ」
自分の母を王太子妃に向かって綺麗だと言うのは、駄目なんじゃないかと思ったので、キースは言葉を濁した。
「あなた自身がそれだものね。羨ましいわ。ソフィは神秘的なムードの美女で、話題の人物よ。
そしてあなたと完全に縁を切ったことも有名なの」
「ああ、それで祖父母も驚いたんですね」
「で、どんな話をしたの?」
王太子妃様は、顔をこちらに少し寄せてきた。
絶対に侍女達も、少しにじり寄ってきている。全員少し前傾姿勢だった。
仕方なしに、キースは少し端折って会話の内容を教えた。
憎いと言われたことも勢いで話してしまったけど、表情が嬉しそうでチグハグだったので、そんなに傷ついていないことも話した。
ホーッと言う声があちこちから聞こえたが、王太子妃様がキッと睨みつけ黙らせた。
「氷が解けたのかしら。これは楽しみね。何か面白い趣向の夜会を開かなくちゃ」
王妃様が張り切っている横で、ジョン王子が静かにお茶を飲むのが見えた。すごく静かで、いつものキラキラ感は薄い。気配が消えているレベルだ。
もしかしたら、王族は東の国のニンジャという術を習うのだろうか。それならぜひ教わりたいので、ジョン王子と友達になるのも悪くないとキースは思った。
夕暮れが迫り少し薄暗くなった頃、王太子夫妻にまた遊びにおいでと言われた。
今回も定型パターンで返したら、王太子妃様がフフーンという含みのある笑い方をした。
「あんまり乗り気じゃあないのかしらね」
ばれている。だが定型文に文句は付けられないはず。そう思ったキースは、更に定型文で応戦してみた。
「とんでもないことでございます。コウエイの至りです」
発音がなんとなく棒読みになるのは仕方ない。さて、お許しが出るかな? そう思ってチラっと王太子妃様を見ると、面白がるような目と目が合った。
「あなたはグレッグに似ているのね。その人を食ったような性格、あの人そっくり」
王太子様もキースを見つめてきた。
「容姿はアトレーで、性格がグレッグか。それは末恐ろしいな」
伯父さんの評判を聞いてキースは不安になった。
母の家は不倫をしたマーシャ伯母さん含め、変わり者集団なのだろうかと疑ってしまった。




