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氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
23/58

王太子一家とのお茶会

 侍従が呼びに来たので、ゲームを切り上げ庭に出ていく。そよ風が気持ちがいい。

 ゲームに熱中して凝った肩をほぐしながら、ゆっくりと歩いた。


 パーゴラの下に、ザ・アフタヌーンティーという雰囲気のお茶の支度が出来ている。

 色とりどりのクッションが華やかで、居心地がよさそうだ。


 侍従に促されて、二人は椅子に座った。ジョン王子はキースの横だ。

 なぜかもう2つ席が用意されていて、キースの勘は逃げろと言っている。


 そう思った時には敵の大将、まだ王太子だから副将かな、が夫婦でお出ましになった。

 3人ともご機嫌だが、包囲されたキースは全然嬉しくない。

 これは人物調査とかなのだろうか。王子に近付く人間を、面談して判断するとかの。


 ちょうどいいから落としてもらおうかと思ったが、張り切っていた祖母を思い出してキースは堪えた。また爪弾きにされたら、もっと落ち込むだろう。

 そう思って行儀よく、口数少なく、控えめないい子供として振る舞った。


 和やかな会話のリズムが狂ったのは、父アトレーの話題になった時だった。

 会話は定番の、そっくりだなあから始まった。


「そうですね」


「アトレーはどうしている?」


「知りません」


 王太子様、ちょっと動揺した様子だ。


「会っていないのか?」


「誕生日に来ましたよ。話をしないので、どうしているのかは知りません」


「じゃあ誕生日にやって来て、彼は何をしているの?」


「プレゼントを持ってきますね」


「会えて嬉しいかい?」


 キースは首をかしげて子供ぶっておいた。


「特には」


「あ~、昔したなあ。こんな会話」


 王太子様が頭を抱え、その横から王太子妃様が聞いてきた。


「アトレーについて悪い噂を聞かされて、嫌いになったからなの?」


 ゲート家の品位を汚してはいけないと思い、キースは、はっきりと説明した。


「ちゃんと話を聞いたのは学園に入学する数日前です。それまでは何も聞かされていませんでした。

 単に父が素っ気ないので、僕も懐かなかっただけです。年に1日しか来ませんし」


 王太子妃様も、年に一日、と言って絶句する。


「じゃあ、全く両親との関わり合いが無いままで生活してきたの?」


「まあ、そうですけど。祖父母がすごく可愛がってくれるので、特別何とも思いません」


「ソフィとは全く会ったこともないのでしょう?」


「入学前に会いに行って、少し話をしました」


 ええっと言って驚いたのは、二人だけではなかった。側に仕える侍従と侍女達も一緒に驚いていた。


 母は周囲からどう思われているんだろう。

 周囲の反応にキースはかなり不安になった。


「何を話したの? というか、あなたと話をしたの?」


「僕の母って、そんなに変わった人なんですか?」


「お母様の事を知らないの?」


「はい。祖父母や周囲はなるべく話題にしないようにしていたし、僕もなんとなく触れないほうがいい気がしていました。でも、学園に入学する前に、一度だけ会いに行こうと思ったんです」


 お茶や、お菓子の追加をしながら、気のせいか、侍女たちが距離を縮めてきているような気がする。

 

「ソフィは社交界の華と呼ばれている有名人よ。綺麗な人だったでしょ」


「はあ、まあ」


 自分の母を王太子妃に向かって綺麗だと言うのは、駄目なんじゃないかと思ったので、キースは言葉を濁した。


「あなた自身がそれだものね。羨ましいわ。ソフィは神秘的なムードの美女で、話題の人物よ。

 そしてあなたと完全に縁を切ったことも有名なの」


「ああ、それで祖父母も驚いたんですね」


「で、どんな話をしたの?」


 王太子妃様は、顔をこちらに少し寄せてきた。

 絶対に侍女達も、少しにじり寄ってきている。全員少し前傾姿勢だった。


 仕方なしに、キースは少し端折って会話の内容を教えた。

 憎いと言われたことも勢いで話してしまったけど、表情が嬉しそうでチグハグだったので、そんなに傷ついていないことも話した。


 ホーッと言う声があちこちから聞こえたが、王太子妃様がキッと睨みつけ黙らせた。


「氷が解けたのかしら。これは楽しみね。何か面白い趣向の夜会を開かなくちゃ」


 王妃様が張り切っている横で、ジョン王子が静かにお茶を飲むのが見えた。すごく静かで、いつものキラキラ感は薄い。気配が消えているレベルだ。


 もしかしたら、王族は東の国のニンジャという術を習うのだろうか。それならぜひ教わりたいので、ジョン王子と友達になるのも悪くないとキースは思った。


 夕暮れが迫り少し薄暗くなった頃、王太子夫妻にまた遊びにおいでと言われた。

 今回も定型パターンで返したら、王太子妃様がフフーンという含みのある笑い方をした。


「あんまり乗り気じゃあないのかしらね」


 ばれている。だが定型文に文句は付けられないはず。そう思ったキースは、更に定型文で応戦してみた。


「とんでもないことでございます。コウエイの至りです」


 発音がなんとなく棒読みになるのは仕方ない。さて、お許しが出るかな? そう思ってチラっと王太子妃様を見ると、面白がるような目と目が合った。


「あなたはグレッグに似ているのね。その人を食ったような性格、あの人そっくり」


 王太子様もキースを見つめてきた。


「容姿はアトレーで、性格がグレッグか。それは末恐ろしいな」


 伯父さんの評判を聞いてキースは不安になった。

 母の家は不倫をしたマーシャ伯母さん含め、変わり者集団なのだろうかと疑ってしまった。


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― 新着の感想 ―
王太子妃趣味わりぃな
キースくんがどんなふうに成長していくのか楽しみです。自分に生い立ちに悲観せず幸せだと言える素直さが、読んでいて清々しいいな、侍女になって(笑)応援したくなります。続きが楽しみです。
王太子夫妻、特に妃の出歯亀根性にビックリしました。 侍女や侍従たちもいるのに複雑な家庭環境を少年本人に話させるなんて……それも母親との会話を好奇心丸出しで聞きたがるなんて無神経極まりないですね。 浮気…
2024/11/15 01:44 退会済み
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