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氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
22/58

友人宅へのお呼ばれ

 週末に帰宅すると、祖父母は数年ぶりの再会かのように、大騒ぎで出迎えてくれた。

 まずは好物攻めに合い、お腹いっぱいになるまでご馳走を勧められた。話をするのはその後だ。


 お腹が膨れてもう食べられなくなると、やっと学園生活について聞かれた。

 楽しいよ、と答え、初日の出来事を話して聞かせた。二人共びっくりしながら頷いていた。


「実はね、久しぶりに高位貴族の家から、お茶会の誘いや夜会の誘いが舞い込み始めたの。どうしてなのかと戸惑っていたけど、それね。

 あなたが醜聞を笑い飛ばしてくれたおかげよ。風向きが変わったんだわ」


 祖母は興奮して、さあ、華やかに打って出なくては、と闘志を漲らせた。

 祖父母だってまだ50歳そこそこで若いのだ、とあらためて思い出す程生き生きしている。


 祖父は笑いながらキースの両肩に手を置いた。


「こんな事になろうとはなあ。キース、お前はすごい子だよ」


 ものすごく褒められて、キースはくすぐったいような気分になった。

 そしてやっと、本題、王子様からのご提案について話すことが出来た。


「何だって! ご本人がそう言って来たのか?」


「うん、迷惑だ」


「お前、不敬になるような言葉は慎めよ」


「言ってないよ。思っているだけ」


 二人は落ち着かなげな様子でそわそわしている。これは賛成なのか反対なのか、どっちだろう。

 ジーッと見ていたら、んんッと声の調子を整えてから、祖父がキースの方を向いた。


「王子との交友は、貴族家としてはこの上ない栄誉で、出世の道筋でもある。だがそうやって高い所に登れば、落ちるときの落差は激しい。お前の父のアトレーが見本だ。目立たぬ貴族の家庭内の揉め事なら、誰も気にしないんだ」


 それはわかっている。キース自身がその被害者なのだと、この数日で知ったばかりだ。

 だから、そんな危険物からは距離を置きたいと思っている。


「では、断ってもいいでしょうか」


「そこがなあ」


 先程と同じように、はっきりしない表情になる。


「そんなにはっきり言われたら、逃げようがない。答えは、ありがたき幸せです。

 しか無い」


「え、断れないの?」


「基本、断れない。何か理由を付けてと言っても、王太子夫妻が認めているならその他の理由が無い」


 嫌な予感はしていたのだ。

 やっぱり王族というのは、関わるとロクな事が無い。

 今回は向こうが勝手に纏わりついてきたのだが、早めに悪縁は絶たなければとキースは思った。


「お祖父様、なるべく早くフェードアウトするよう頑張ります」


 王子の友人達の端っこで静かに過ごして、授業もなるべく別のを取って、週末もこっちに帰宅して、と思いつく限りを挙げて見せた。


 祖父母はキースをじっと見ている。


「お前が目立たずに居るのは無理だ。どうしろとアドバイスは出来ないが、困った事があればすぐに帰っておいで」


 2人してキースを包み込むように、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 休み明けの朝、同室の三人で朝食をとっていると、出た。王子様だ。

 彼はすぐにこちらに気付き、嬉しそうな顔をした。


「何でいちいち気付くんだよ」

 キースが小声で愚痴ったら、モルトも小声で答えた。

「そりゃあ目立つもの。まずはその黄金の髪、目立たない訳がない」


 薄い茶色に染めようかとキースは一瞬真剣に考えた。


「おはよう。ゲート伯爵達に許可をもらえたかな」


 王子様は何だか恥じらう乙女のような風情で聞いてくるが、言っていることは、王族特権を振りかざしている。

 ゲート伯爵家が、まっぴらごめんですと言えないことは聞くまでもない。


「ありがたき幸せです。よろしくお願いします」


 キースは嫌味を込めて定型パターンで言ってみた。


「わあ、良かった。これで友達だね。一緒に遊べる。じゃあ次の週末、家に遊びにおいでよ。また後で話そう」


 そう言って、同室の子達のところに戻っていった。

 軽く嫌味を込めた言葉は完全スルーされ、王宮に招待されてしまった。

 キースはこっそりと小声でつぶやいた。


「これ、女の子にやったら、やばい王子確定だからね」


 キースはモルトとノーチェに聞いてみた。


「お前達さあ、王宮に遊びに行きたい?」


「行きたいよ。団体見学ツアーみたいな感じ? ジョン王子が案内してくれるんだろ。秘密エリアも見せてもらえるかも」


 キースは少し考えてからあきらめた。

「まあいいか。無口控え目路線で、隅っこを確保しよう」



 当日、王子の私室に招かれたのはキース一人だった。団体見学ツアーではなかったようだ。

 同室のご友人筆頭みたいなやつらも呼ばれているとばかり思っていたので、意外だった。


「やあ、いらっしゃい。庭にお茶の支度をしてもらう予定なんだ。それまでゲームでもしない?」


 バックギャモンをした。キースは勝ったら不敬かな、などと悩んでいたが普通に負けた。

 ポーカーをやってもあっさりと負けた。

 チェスも同じく。


 自然に不敬でない状態になるのは助かるが、腹立たしかった。


「ゲームお強いですね」


「うん、大人達とばかりやっているから、自然と強くなったんだ」


 じゃあ、もう一局チェスを、といつの間にか二人は夢中で遊んでいた。

 キースはふと気付いた。

 こんな風に学園で一緒に遊ぶ程度なら、ややこしくはないかもしれない。

 それに、王子様だからと言って悪い奴なわけじゃあないなと思った。

 単にやばい奴なんだ。地位と育ちが。だからこそキースは極力接触を避けたかったのだが、無理そうだと半分諦め気分になっていた。




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― 新着の感想 ―
上げてから落とすのかなってちょっとドキドキしてる
「悪い奴じゃあないな。単にやばい奴なんだ」と言う表現がうまいなと思いました。
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