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氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
21/58

我が家の事情を話してみた

 あ、と王子周辺の1年生の誰かが声を上げた。大柄で鼻っ柱の強そうなやつだ。


「君、ゲート家のキースじゃないの。

 ジョン王子、こいつには近寄らないほうがいいですよ。僕は親からそう言われています」


「どうして?」


「こいつの親って、以前すごいスキャンダルを巻き起こした恥知らずだって聞いていませんか?」


「うん。知らないよ。でも親と子は関係ないでしょう」


 王子は曇りなき眼で、大柄な彼を見つめている。

 ああ、やはり聞かされていないのか。

 やれやれだ。


 キースは不敬にならないよう、一応立ち上がり、言葉を選びながら言った。


「殿下、できれば僕に話しかけるのは、我が家に関するスキャンダルを、聞いてからにしていただけませんか」


「君の親が何か失態を犯したのなら、君だって今ここには居ないはずでしょう?」


「失態の種類が、政治や執務上のものではないので、表立った処罰は受けていません。単なるスキャンダルです。では、お先に失礼します」


 ああ、お腹空きそうだな、と恨めしげにトレーに残った料理を見つめつつキースは厨房に向かった。


 トレーを受け取ったおばさんが、ちょっと待ってくださいね、とキースを引き止めた。

 手早く残った肉やソーセージをパンに挟み、紙に包んで渡してくれた。にっと笑いながら、キースお坊ちゃま、大きくなられましたね、と小声で言う。


 手で早く行きなさいと示され、足早にそこから立ち去りながら、キースは記憶を辿っていた。思い出せない。

 部屋に帰り着きパンを食べながら、思い出せないけど、ここには自分の味方が1人は居そうだと考えていた。



 戻ってきたルームメイトは、気まずそうな様子で机の中を整理したり、部屋着に着替えたりしている。

 キースも部屋着に着替え、明日の授業の支度をしながら無言で居た。だが同室でこのままの雰囲気の生活は耐えられないので、こちらから切り出してみた。


「さっきの騒ぎだけど、君たちは僕の家のスキャンダルを知っている?」


 一人は頷き、もう一人は首を振った。

 知っている方がモルト、知らない方がノーチェだ。


「かいつまんで話すね。僕が三才の頃に、父親の浮気が発覚したんだ。それも、浮気相手が洗礼式に子供を連れて乗り込むという派手な方法で。そのせいで家の評判が悪くなったんだ」


 説明してみたら結構あっけないのでキース自身驚いた。そして大した事じゃないなとまで思えた。


 聞いた二人も、ノーチェは、へえー、だし、モルトも、あれっ、そんなんだった? という反応をしている。

 三人で、で、何? となってしまった。

 なんとなく、もう少し何か話さないといけない気がしてキースは話を続けた。


「あ~、それで離婚して、両親とも再婚しているんだ。僕は祖父母と幸せに暮らしている」


 ちょっと気まずい沈黙の後、モルトがぷっと吹き出した。


「なんだよ、それ。もっとすごい何かかと思っちまった。おまけに幸せなのかよ?」


 モルトがブハハハ、と笑い出した。


 キースも釣られて笑い出したら、もう止まらなかった。

 他の部屋の奴らが、何々? 楽しそう、と集まってきたので、同じ話をしたら受けた。


 噂を知っている奴のほうが受けた。

 知らない奴らは、たまに、『それがどうかした?』 とかのボケをかましてくる。


 腹が痛くなるまで皆で笑った。


 その話が広まるのは早かったので、キースの学園生活は驚くほど楽しいものになった。

 付いたあだ名が 【ハッピー】 だった。


 そして面倒くさい子、つまり王子が話しかけてきたのは、一週間後だった。

 週末に自宅の宮殿に帰って、御両親に聞いてきたらしい。そしてすごくストレートに言った。


「聞いてきたから話しかけていいよね」


 言葉は綺麗に、だ。


「もちろんです。どういったご用件でしょう」


「友達にならない?」


(何でそうなるのか教えて欲しいのですが)


 キースは、それは君の立場上、良いのかと疑問に思った。

 ゲート家は高位貴族から敬遠されているわけで、王族は高位貴族のトップじゃあないか。

 親は彼にどう説明したのだろうと唖然としながら、キースは王子をまじまじと見つめた。


「嬉しいお申し出ですが、我が家の醜聞の件もあります。僕としては、あまり目立たないように、学園生活を送りたいと思っております」


「君、もう目立っているじゃない。ハッピー君」


 キースが目立っているのは確かだが、そういうキャラ目立ちと、王子様と仲良しは別次元だ。そちらには大人のチェックや思惑も入ってくることを、この年なら既に知っている。お友達になろうよ、で済むものではない。

 王子の友人として、ゲート家のキースは、確実に人選から外される人物のはずだ。


「あの、たぶん大人達から止められると思いますが」


「大丈夫、両親がいいと言っていたから」


 なぜなのか、キースにはちょっと理解不能だった。


「すみません。次の休みに家に戻って祖父母に聞いてきます。その後でないと、何ともお答えできません」


 キースはそう言ってその場を立ち去った。


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― 新着の感想 ―
同室のモートン君は モートン侯爵家の寄子モートン子爵令息、なのでしょうか?
食堂のおばさんの正体は? 王太子夫妻は子供には罪はないから王子とキースが仲良くするのはOKって思ってるのかな ソフィがきちんと幸せになってるから王太子妃のローラも子世代にまで禍根は残さないようにした…
一章のどうしようもなさ、やるせなさから一気に明るくなって「ハッピー君」ときたかー! 親はいなくても子はちゃんと育つんだなぁ……としみじみしてしまいました。 王子に巻き込まれてハッピーな学生生活なのかな…
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