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氷の貴婦人  作者:
第一章 最初から破綻した結婚
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結婚初日の違和感

 ソフィが我に返ると、いつの間にかアトレーの邸の一室で、夜着に着替えて一人になっていた。

 今まで何をしていたのかは覚えていなかったが、今から何をするのか思い出した。


 逃げようと思いドアに向かったところで、アトレーと鉢合わせてしまった。


「待ちくたびれたかい、ソフィ。遅くなってごめんね。悪友達がなかなか離してくれなくて。皆、君が綺麗だからやっかんでいるんだ。困った奴らだよ」


 そう言いながらアトレーはソフィを抱き上げ、ベッドに運んだ。


 逃げようとしたソフィは軽く転がされ、のしかかられた。


 アトレーは笑っていた。おととい見た姉との姿が頭に浮かび、叫びそうになったが、その口も塞がれてしまった。


 体を這う手が気持ち悪く、泣いて抗おうとするソフィを弄ぶようにアトレーが勝手な事をする。


 やっと終わったようでホッとしたら、また手を伸ばしてきたので、逃げようとしたら、強く引っ張られた。その内、眠ったか気絶したらしい。気が付いたら朝になっていた。



◇~*◇*~◇


 

 朝遅くなってから、ゲート伯爵家の侍女のベスは、若奥様の身じまいを整えに、夫婦の寝室に出掛けた。以前からソフィ様とは仲良くしており、のろけを聞かされたり、細々したことを相談されている仲だった。


 今朝のソフィ様はなぜか一言も喋らず、黙って出されたものをつついた。お茶だけをいっぱい飲んで、ずっとカップを見つめている。


「ソフィ様、お茶のお代わりをお持ちしましょうか?」


「ありがとう。お願いするわ」


「アトレー様は王宮からの呼び出しがあり、朝早くにお出かけになっています」


 ソフィ様は無言だった。アトレー様の話になると、いつも嬉しそうに話をしたがるのに、何も言わないのはおかしい。いぶかしく思いながら続けた。


「今夜のディナーはお祝いです。早目に着替えていただきますので、夕方にお伺いしますね」


「ありがとう。お願いするわ」


 ベスは、淡々と言うソフィ様の様子に違和感を覚えたが、疲れているのだろうと思い、そっと部屋を後にした。


 他の使用人達から、どんな様子だったと聞かれたので、疲れてるようで、ちょっとぼんやりしている感じだったわ、と答えた。


 皆、キャー激しかったのね、と喜んでいた。ベスは少し違和感を覚えていたが、いつもは快活な方だけど、やはりこういう時は疲れがたまるものなのか、と思っただけだった。

 少ししてお茶を持っていき、夕方にまたお伺いします、と言ったらまた同じ言葉が返って来た。


「ありがとう。お願いするわ」


 ちょっと気になり、言葉を添えた。


「何かしてほしい事がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」


 すると、ベスが居るのに初めて気が付いたような顔をした。


「私、家に帰るわ」


「ソフィ様、どうかしたのですか。落ち着いてください。昨日から、ここがあなたの家です」


「ああ、そうだったわね。私、結婚したのだったわ」


「ええ、昨日が結婚式で、お二人共とても素敵で、幸せそうでしたわ」


 ソフィ様が、目を見張ってベスの顔を見た。その目から、また光が消えた。


「ありがとう。お願いするわ」


 なんだか怖い気がして、ベスは早々に部屋から退出した。



 夕方になってベスが部屋を訪れると、ソフィ様はカップを持ったままぼうっとしていた。


「お支度を始めさせていただきますね」


 声を掛けると、それなりに動いて反応するが、どうにもその反応が薄い。いつものソフィ様とは全く違う人間のようだった。結婚したばかりで疲れているとはいえ、これはおかしすぎる。

 ベスは努めて明るい口調で話し掛けた。


「昨晩は、以前から用意していたナイトウエアのどちらを着たのですか?」


「ナイトウエア?」


「以前見せてくださったじゃありませんか。一日目にどっちを着るか、一緒に考えましたよね」


「さあ。覚えていないわ。ありがとう」


 本当に、何かがおかしかった。べスは急いで支度を仕上げ、部屋を後にした。




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