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氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
19/58

祖父母からの話2

 キースは不思議に思って聞いてみた。


「ねえ、なぜ、結婚式の日にできたってわかるの?」


 これには祖父が答えてくれた。苦虫をかみつぶしたような顔付きだ。


「隠し事は無しにしよう。知れ渡っているから。

 結婚して三日目から、アトレーに触られると、ソフィは吐くようになったんだ。だから、それから二人は手も繋いでいないんだよ。エスコートもダンスも、手を近付けるだけのエア状態だ」


 それほど嫌なんだと深く理解するとともに、よく産んでくれたなと思った。そして、祖母の言葉を理解した。


「洗礼式の日を境に、アトレーとマーシャは貴族社会から摘まみだされた。アトレーは仕事も解雇された。あるはずだった輝かしい未来を全て失ったので、私達がマーシャとマックスと共に領地に引かせたんだ」


 キースが8歳になった頃から、年に1度、誕生日に父が一人でこちらにやって来る。


 特に何の感情も動かないが、よく似ているなとは思っている。

 父もキースにはあっさりした態度で、プレゼントだけ渡して帰っていく。慣れ慣れしくされたり、妙に親ぶったりされるよりずっといいので大歓迎だ。

 父は誰とも会わず出掛けずで、一日屋敷に居るだけなので、わざわざ来なくてもいいのにと思う。

 

「父には友達もいないのですか?」


「ソフィの兄と、王太子殿下が一番の友人だったんだ。ソフィの兄には殴られた。王太子殿下には仕事を取り上げられた。二人共その時に失ったんだよ」


 ぞっとした。そこまで人生を棒に振るなんて、なんてことだ。


「そんなに危険なのに我慢できないほど、マーシャという人を好きだったのですか?」


「いいや。ただ世の中を舐めていただけだよ。たぶん再婚した頃には、大嫌いになっていただろうね」


 怖すぎて、お尻がもぞもぞして来た。

「お祖父様、僕怖いです。そんなことになったら、生きていける気がしません」


「そうだな、是非そうならないように生きて行ってくれよ。きっとお前は大丈夫だよ。ソフィの子だ。賢いはずだよ」


「僕、疲れました」


 そう言ったら頭を撫でてくれた。


「私達もこの話は疲れるよ。でもお前が学校に、つまり社会に出て行く前に、これまでの事を全て話しておかないといけないんだよ。もう少しだけ続けていいかい」


「ちょっと待ってくださいね。エクレアを食べて元気の補充をします」


 そう言ってからキースはエクレアを二個食べ、ついでにマドレーヌも一個食べた。

「もう大丈夫です。お祖父様達も食べてください。疲れたでしょう」


 はははっと笑って、祖父がエクレアを一個食べた。祖母も、そうねと言って一個食べ、なんとなく皆で笑っていたら、少し気が軽くなった。


「じゃあ、今度はソフィの事だ。彼女はお前を産んで社交界に復帰したころから、全く様子が変わって 『氷の貴婦人』 と呼ばれるようになった。

 医者が言うには、感情が一部麻痺したような状態だったそうだ。独特な雰囲気を持っていて、魅力的だったし、その頃から花が開くようにきれいになっていったから、男達が群がっていたなあ」


 祖父は昔を思い出すような目をしている。


「だから、離婚した直後から争奪戦は凄かった。彼女の信奉者達が必死でなあ。

 ついこの間まで我が家の嫁だった女性だ、複雑な気分だった。だが実際のところ、結婚と同時に離婚していたようなものだと思うと、余計に情けなかった」


 溜息をついて次の言葉を繋ぐ。


「その内の一人が彼女を落とした。モートン侯爵家の嫡男ニコラスだ。彼女より2つ年下だけど、じっくりと落ち着いたいい男だ。彼と再婚して、そのすぐ後にまず双子の女の子、その二年後に男の子を産んだ。お前の異父妹弟になるな」


 今日見た三人の姿が目に浮かぶ。キースとはあまり似ておらず、妹弟と言われても、ちょっと考えにくい。


「今日見た彼らは楽しそうで幸せそうでした。僕には似ていないけど」


 祖母が泣き始めた。


「本当なら、お前も同じように幸せに暮らせていたはずなのに、ごめんなさいね」


 泣き出した祖母に慌てお祖父さまを見たが、お爺様も困っているだけなので、仕方なしにキースが慰めの言葉を掛けた。


「お祖母様。僕は全然大丈夫です。今、幸せだし、父はいらないし、母も……いなくてもいいです」


 祖父が話を締めくくった。


「今から行く学園で、そういう話がきっと出るだろう。それらはお前のせいでは絶対にない。だから卑屈にならず、でも慎重に対応していってくれ。そして困ったことがあれば、すぐに連絡してくるように」


 キースはこれからの生活が結構ハードなものになることを、この場で覚悟した。



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― 新着の感想 ―
キース可哀想……
キースの境遇はかわいそうではあるけど、祖父母から愛されていて賢かったのが不幸中の幸いだったかもしれない。 このまま実母とは没交渉であってほしいけど、物語的にそうはならなさそうw どういう展開になって…
 調子に乗り過ぎた顔だけは良い実父と、良識と貞操観が欠けた伯母のせいで、要らぬ苦労が宿命づけられて…強く生きて欲しい。
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