表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の貴婦人  作者:
第二章 キースの寄宿学校生活
18/58

祖父母からの話1

 祖母が、キースの目をのぞき込み、優しく頭を撫でた。


「今日はね。これから集団生活をするあなたに、話をしようと思っていたの。

 今話していたような話よ。

 今後、周囲から色々なことを言われる。知らないで居たら傷付くから、私達から本当の事を聞いておいたほうがいいと思うのよ」


「と言っても、世間が知っている事と本当の事とは、ほぼ一緒だがな」


 祖父が言葉を挟み、乾いた笑いをもらした。


「いいよ。僕もちゃんと聞いておきたい」


 そして三人でテラスに移動した。

 お茶の用意が整うのを待ちながら、明るくて気持ちの良い庭を見て居ると、さっきまで泣いていたのがうそのように感じられる。


 庭を眺めながらぼんやりしていたら、キースはふとあることに気付いた。

 母から 『憎んでいたの』、と言われたのに、あんまり辛くないのは母の表情のせいだったのだ。怖い顔や、嫌な顔では無かった。比べるのは気が引けるが、さっき祖母の顔を見てから、もやもやしていたものがそれだ。


 物思いに浸って居たら、いつの間にかお茶が用意されていた。大好物のマドレーヌとシュークリームもある。早速食べ始めた。シュークリームにかぶりついたら、その甘さに幸せな気分になった。


 祖父が話し始めた。


「お前が今から行く学校には、貴族子弟が集まる。学内では身分の差での差別はないとされているが、そこはわきまえないといけない。

 分かるか?」


「はい。身分に合わせて付き合い方をうまく調整します」


「よろしい。それでだ。我が家は伯爵家だ。領地から上がる収入も低くはない。家門の歴史もある。つまり悪くない位置に居ると言うことだ」


「知っています」


「ところが、お前の父のせいで、我が家には大きな傷が付いた。

 それで、同等の伯爵家以上の家からは、付き合いを避けられている。だいぶマシになっては来たが、そこを知らないでいると痛い思いをする」


 実は、最近になっておかしいと思い始めていたのだ。


 なぜか、高位貴族との交流が無い。祖父母たちの社交の場への出席も回数が少なく、家格の低い貴族家の催しにしか行かないようだ。

 キースの遊び相手も、子爵家とかの子が多く、何かが変だと思っていた。


「今から聞きにくい話をする。終わったことだが、終わっていないともいえる。そしてお前は当事者なので、知っていなければいけないのだよ」


 祖父はキースを見つめた。悲しそうな眼をしている。


「まずは、何から話そうかな。お前の父親の事からがいいかな」


 少し時間を置いてからゆっくり話し始めた。


「アトレーは数回会ったことがあるからわかるだろうけど、お前とそっくりだ。若い頃からすごく女性にもてていた。そして王太子殿下の友人で、側近として文官の地位についていたんだよ。出世は約束されたものだった。

 そのままなら、お前も今頃は、王子達の幼馴染になっていただろう」


 信じられないような話で、キースは頭が混乱した。


 祖父の顔を見ると、キースの思いを読み取ったようで、更に悲しそうになった。


「そうだよ。信じられないだろう。私達は逆に今の状況が信じられないのだよ」


 祖父の手を軽くポンポンと叩いて、祖母が話し始めた。


「アトレーはね、あなたの母の姉マーシャとも付き合っていたようなの。それで、結婚式に出席するために実家に戻っていたマーシャと、結婚式の少し前に子供を作ってしまったの」


 わかるかな? みたいな顔でキースを見る。そういう関係の話は、友人からこの間教わったばかりだ。

 わかるような、わからないような、でも悪い事なのだけはわかる。

 なので、ちょっと斜めに首をかしげながら、うん、と言った。


 祖父母は、うんうんと頷き、その内わかるようになるよと言った。


「あなたの兄弟のマックスが産まれたことを、私達は皆知らなかったの。それが、3歳の洗礼式の時、突然マックスを連れてマーシャがこの地にやって来たのよ」


 祖母がまた怖い顔をし始めた。キースが見たことのないような顔をしている。


「アトレーとキースにそっくりな男の子。それをわざわざ、教会と国王と貴族達の目の前にいきなり披露したの。もちろん誰もが悟ったわ。アトレーが花嫁の姉と結婚式の時に浮気して子供を作ったのだと。これが醜聞でなくて何だって言うの?」


 祖父が祖母をなだめた。お前、落ち着いて、子供の前だよ、と言っている。

 そんな二人はとても老け込んで弱弱しく見えた。


 キースが今まで聞いていた話の上を行く酷さだった。さすがに結婚式で浮気は駄目でしょう。それは十一歳のキースでもわかるモラル違反だ。花嫁を馬鹿にするにもほどがある。


 母が憎んでいると言ったのも、全力で納得してしまった。


「ソフィは、その二人の様子を偶然見てしまったそうなの。それでアトレーを拒絶したのだけど、アトレーはそれを全く理解してなかったのよ。そして、お前は結婚したその日に出来たの。二人の誕生日は3日しか違わないのよ。ああ、本当に酷な話よね」


 更に衝撃が加わった。


「僕の父は無頼の輩ですか?」


 そして、キースはふと疑問に思った。

「なぜ結婚式の日に出来たって断言するの?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 無頼の輩もびっくりな…なんだろう? 酷過ぎて言葉が浮かばない。キースの今後が心配過ぎる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ