蛇を頭に宿し者
放課後の楽しみは電話ボックスの中を確かめ、依頼書があるかどうかを確かめる事だ。蛇髪族の一人艶賀亜流は中学二年生の少し影がある女子。といっても完全に暗い性分ではなく陽キャと隠キャの真ん中辺りのモブ寄りキャラ。彼女は来世では蛇神様になることが決定している為、十年に一度現れるという蛇髪族に選ばれたわけだ。蛇髪族といっても普段は普通の髪で、力を発動させた時のみ髪が無数の蛇に変形する。亜流は産まれたその瞬間あの世とこの世の狭間を見たが為に、歴代蛇神様に蛇神の素質を見抜かれた。ので、誰にもばれないよう髪に蛇神の力を宿されたのだ。この力を正しいことに使おう。亜流は考え、小学校時代から悪人を石に変えるという行為を続けている。「悪の運命いずれ石」ポツリと呟き、町外れの公園にある古い電話ボックスの扉を開く。依頼書は街の電話帳が置かれてある棚に隠されており、歴代蛇髪族はそれを読んで依頼を受けていた。「あった、綺麗な便箋」依頼書があるという事は、悪人を石に出来るという事。(不愉快な輩なんかこの世から消えてしまえ!)やや歪んだ表情で憎しみを露にする亜流の姿ときたら、まるでホラーのヒロインだ。セーラー服で公園の電話ボックス内にいるから、余計にそう見える。外見が少しダークなせいでクラスでは浮いており、日々ぼっちライフを送っているからこそこの表情になる。(いつか蛇神になって、あいつらを見返してやる!)悪人も嫌いだが、人生を謳歌している者も嫌い。つまりは妬みだ。加えていつかなんて来世なのだから、見返せるかどうか不明。『石に変えて欲しい人物、あなたの後ろにいます』「えっ?」依頼書を読んだ瞬間ゾッとするものを感じ、亜流は思わず振り返った。電話ボックスの外側にいたのは、同じクラスの日ノ出雅司だった。頭が真っ白になる亜流をよそに、雅司は電話ボックスの扉を開け言葉をかけた。「やっぱり、艶賀さんだったか。薄々気づいてたよ」?マークが亜流の頭の上をぐるぐる回っている。「度々艶賀さんがこの公園から出入りするの見てさ、んでその後日悪名高い人が失踪したって噂がタイミングよくひろがってるからもしかしてって思ってさ」驚く亜流を前に説明する雅司だが、一息置き、本題に入った。「改めてお願いする。俺を石化してくれ」「え?」これには困った。クラスメイトは嫌いだが、悪人ではない。「いや、あの、でも……石化するのは悪人だけであって君は違う……」「俺らはいつも艶賀さんをハブにして、自分たちだけで遊びに行ってる。一人だけ外すなんて、悪人だろ?」「う……」「噂じゃ依頼は断れないんだよな?」雅司の意志は硬い。彼の言葉通り、力を望む相手の依頼は受け入れるのが決まりだ。「分かった。後戻りは出来ないよ?」「ん!」亜流は髪に力を集中させ、蛇の形へと変えた。恐ろしい姿を見ているのに、雅司は真っ直ぐ亜流の髪を見詰める。「ストーン!」亜流が声を出すと雅司は一瞬で石……宝石ほと姿を変えた。「綺麗な石……宝石に変化したって事は、彼は悪人じゃない」見通したように亜流が言うと、宝石は一瞬で再び雅司の姿に戻った。「えっ?」不思議な感覚を覚え、雅司は亜流を眺めている。「悪人なら人形のまま普通に石化するけど、善人なら宝石になってそして元に戻るの!」元に戻れたが、雅司には罪悪感が残ったまま。「だけど、それじゃ……罪滅ぼしにならない」「なら……」亜流がしてやったりといった感じで言ってみせた。「次遊びに行く時は、私も混ぜて」蛇髪族なだけあり、亜流も意志が硬いのだ。