第6話 相対的未来人
「俺は、2024年の日本から来ました。」
「は?過去からか?どういうことだ?」
「実は、俺、ぼんやりと100年後に行きたいなって思ってたんです。当然妄想で、本気で願ってた訳じゃないんですけどね」
巌さんは怪訝な顔をしている。
「だけど、天使とかいう存在が間違えて俺を飛ばしたんだ。この時間軸のこの世界に」
「そうだったのか」
顔の険しさが緩んだように見えた。
「信じられなくても仕方な──」
「腑に落ちたな!どうりで俺のことを知らない訳だ!まさか過去の人だったとは!はっはっは」
納得してくれたようで、笑っている。
そこから彼は、未来のことについて、俺に語ってくれた。
人類が、宇宙に進出したこと。各国がそれぞれ星を開拓し、そこで生活する人が多くなっていること。そして、彼の会社が開発事業等宇宙に関わる多くのこと担っていること。
そして、彼が未来の日本でとんでもない有名人だということ。
実際のところ、時間を跨いで俺がやって来たことを、現実感をもって理解できているのは彼の方だ。
俺は、未だにどこか夢のような心地だった。
「いやー、まさか過去の人と出会えるとはね。こんな面白いことあるとはな!」
「こっちからしたら、宇宙とか何とか突飛な話過ぎますよ」
「はっはっは。君の時代だと、まだ一般人が宇宙に行くことすら難しいんだろ?じゃあ分からなくても仕方ない」
「っと話はここまでだな。」
「えっ?どうしてですか?」
「そろそろ1時間、経つぞ」
「あっ」
どうしてフィリアに急かされた事を知っていたのだろう。
「俺も君に着いていこう。フィリアさんの部屋に行って、また話をしよう」
「えっ、はい」
巌さんはニヤリと笑う。
「これからの冒険の話をね」
「そうっすね」
食事を済まし、俺たち2人はフィリアの元に向かった。
コンコンと、部屋の扉を叩く。
「やっと帰ってきたかー!!」
弱々しいけれど、はつらつとした声が返ってきた。
「入って!入って!」
「巌さん、この前の魔法使ってた人も一緒だけどいいか?」
「いいよ!入って!入って!」
俺たちは、フィリアの部屋に入った。そこには当然、咳き込みながらベッドに入っている彼女がいた。
「改めてましてフィリアさん」
「オーッ!巌か!呼び捨てでいいって!」
「はははっ。フィリア!元気そうで何よりだ!」
「はははっ。どこをどう見たら私が元気に見えるんだ!変わったやつめ!ゴホッ」
なんというやり取りだ。どういうノリかついていけない。
だが、巌さんはほぼ初対面でありながら、うまいことフィリアと波長を合わせている。伊達に社長をやっていないということか。
「ゴホン。」
それっぽく咳払いをして、2人の気を寄せた。
「さて、改めて聞かせてください。巌さん、貴方は私たちの仲間になるんですね?」
「......」
彼は沈黙している。
「あの...」
俺が焦って問いかけようとしたその瞬間だった。
「「ぷふっ!」」
フィリアと巌が同時に吹き出した。
「はははははっ!何だカイ、急に改まって!」
フィリアが、涙を流して笑っている。
「わははは!本当に!唐突に聞くな君は!」
な、なんだ、こいつらは。確かに流れはおかしかったかもしれないが、そんなに笑う事はないだろう!
顔が熱いのが感じる。
ひとしきり笑った後、巌が言う。
「ああ、仲間になるよ。よろしく!」
さて、仲間が1人増えた。
そして決めた。こいつは、呼び捨てにするし、敬語も使わないと。