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第56話 辿り着く

「な...んで...」


 再会を喜ぶべきか、今までの振る舞いに怒るべきか、今はただ驚きに身を任せるべきか......俺の心はそんな思いが混ざり合い、当惑していた。


 俺がそう、戸惑っていると、セレスが口を開いた。


「君、グリゴーに頼まれてここにきたのね。その"虚勢の宝石"も、彼が用意した代物かしら」


 老いさばらえた我が友人は、セレスを睨みつけながら返答した。


「...その通り。どうか、一緒に来てくれないか?彼を助けなければ......」


 淡々と話をする老人に、俺は尋ねる。


「康太!どうしてだよ!お前が生きて、この世界にいることは驚いたけど、なんでグリゴールとかいう奴に肩入れしているんだ!?」


「それは...」


 俯きながら、歯切れ悪く呟いた。そのしょぼくれている体格も相まって、かなり小さく見えた。


「いいわよ。グリゴーに会いに行ってあげる。ただ、カイくんたちも一緒というのが条件だけど」


「!!なぜ俺たちを...!」


「面白そうだもの。あのお年寄り、君の友達なんでしょ?それに、グリゴーに用があるはずよね」


 コイツはいつも何考えているか分からない。本来ならば言いなりになるべきではなかったが、俺の目的を果たす絶好の機会だ、逃すのは悪手だろう。


「...そうだな。俺たちも連れていってくれ」


 優しく康太に頼んだ。


「カイ...僕は...」


「お前が俺に言いたいことがあるのは分かる。俺だって問いただしたい。けど、今はグリゴールの元へ連れてってくれ」


 俺は焦っていた。切羽詰まっているのではなく、早くグリゴールに会って真実を明らかにしたいという思いがそうさせていた。ただのわがままだ。


「...分かった。カイ、君のしたいようにするといい。僕は君と会えて、状況が変わったから」


 そう言う彼の表情は少し柔らかになっているように感じた。老化によるものではない皺が新たに薄らと浮かんでいた。


 康太は懐から白い石を取り出して掲げると、空間に穴が空いた。セレスの持つ物と同じようだ。


 穴の奥は、木でできた壁が見える。


「さあこっちだ」


 俺は、ついていく前に、ミサに近寄り問いかけた。


「ミサ......大丈夫か?」


「大丈夫...というと嘘になるけど......アタシも行くわ。アンタの様子を見る限りグリゴールとかいう奴もこの惨状に関係あるんでしょ?それに、あの女も逃すわけにはいかないから」

 

 その目の下には、涙の跡が残っていた。


「よし。じゃあ行くか」


 アゼルはもういなくなっていた。魔竜との戦いで力を全て使い果たし消えていった。だから、ミサは魔力の制限が無くなっている。


 俺が持っていた軍手、怪力を出す魔道具は竜との戦闘によってズタズタになってしまっていた。もはや軍手の原型がないほどに不自然に破れてしまっている。恐らく闇の魔法に強烈に晒されたからだろう。


 巌は静かに佇んでいる。先ほどから、康太を見るなり何か考え事をしているようだ。


 フィリアは珍しく、落ち着いて穴の方向を見据えていた。光の呪いも自覚した上で受け入れ、心の整理が出来たのだろうか。凛々しさすら感じる。


 俺は、そのまま康太が開けた穴へと入っていった。


 そこは、部屋だった。近くには暖炉があり、火が煌々と燃えている。ベッドも配置されていた。


 そうだ、ここは見覚えがある。魔竜に触れた時に見えた光景に此処があった。


 続いて、康太を含む全員がこちらにやってきた。


「待っててくれ」


 康太はそう言うと、部屋の扉を開けて出ていった。


 しばらくして、康太が戻ってきた。


 そして、その後ろに見えた影は、紛れもなくその人だ。


 俺が目指した標的であり、闇の魔竜の原因であり、ミサの故郷を滅ぼした...いや違う。

 "全て"の元凶、グリゴール。

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