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第32話 帰還

 自分の世界の全てが、不安で染められていた。


 異世界で出会った同じ日本出身の巌を、芯が強くも優しいミサを、...そして、体の弱さをものともせず進み続けるフィリアを、失うのがただただ恐ろしかった。


 意図せず、共に旅をすることになった仲間たち。彼らを、守らなければと思っていた。


 だからこそ、俺は負の感情に囚われ、目の前が見えなくなっていたんだ。不安因子を取り除こうと、そのためだけの傀儡となってしまった。


 突然、視界の闇が晴れて、不安な気持ちが軽くなった。


 そこに見えたのは、フィリアの顔だった。


 いつも快活な彼女の顔は......悲しみに満ちていた。


「フィリア......」


「元に...戻ってくれ...どうか...お願いだ」


 そう懇願しながら涙を流していた。


 俺は、彼女を傷つけたのだ。仲間のことを想っての行動のはずが、こんな惨い結末を招いてしまった。結局のところ、俺は自分しか見ていなかったのかもしれない。

 仲間のために、不安を取り除く自分に、酔っていた。


 目の前が急に明瞭になった。


 フィリアの顔がよく見える。


「よかった......やっとカイの顔が見えた!」


 そう言う彼女の顔は、涙を浮かべながらも、いつものような快活な笑みが戻ってきていた。


「フィリア...俺は...俺は...」


 自我がはっきりとして、己のやろうとしていたことに怖気立つ。


 あのまま止まることが出来なければ俺は、今いる敵たちを処理し、なおも暴走していただろう。不安は膨張し続け、取り返しのつかない存在になっていたかもしれない。


「俺は、変わってしまった......。あんな無茶苦茶な考えに支配されてしまっていたんだ......」


 それを聞いたフィリアは、少し鼻で笑い、語気強めた口調でこう言った。


「なに言ってるんだ!お前は全く変わってない!私のことを心配する気持ちは、全然変わっていなかった!」


 そう彼女は言ったとたん、何かに気づいたように続けた。


「カイ!避けろ!危ない!」


 咄嗟に振り返ると、"夢の一団"の一人が、俺の頭目掛けて棒で殴りかかっていた。

 油断していた俺は、到底対処することなど出来なかった。


「"痺れろ"!」


 その瞬間、視界の端から杖が飛び出し、先から電撃が迸り、男を襲う。


「ぎゃっ!」


 男はそれにひるみ、棒を落とすとともに地面に倒れ込んだ。


「そうだぞ、カイ。お前は全然変わったなんていなかった。いつも通りの心配性なお前だ。今回のは度が過ぎていたけどな」


 巌が俺の隣にいた。


「そうよ、全く。危なかっしいたらありゃしない」


 ミサも近くまで歩いて来ていた。


「二人とも...すまなかった...!」


 俺は頭を下げて謝った。


「アンタの清算は後にすべきね。こいつらを今は何とかしなきゃ」


 ミサは倒れている一人の男を見下しながら、そう言っている。

 それに気づいた男は、不自由な体を動かして、中から何かを取り出す。


「まずい、やらせるな!」


 巌がそれを見て、手を伸ばすが、男が不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見上げて叫ぶ。


「じゃあな!」


 たちまち煙が男から巻き上がり、あたりをつつんだ。そして、直ぐに煙が変えたのだが、そこに男の姿は無かった。

 彼の仲間の二人も含めて。


「逃したか!」


 巌がそう叫ぶ。


「......もう、いいよ。お前らが、いや俺らが無事だったならそれでいい」


 あの者たちに執着していたことが嘘のように、清々しい気持ちだった。


「ははっ!カイ!戻ってきたな!」


 よく見たフィリアの笑顔が目の前にあった。本当に良かった。この状況を踏み躙ることが無くて。


「とりあえず、戻りましょ。街に行って宿で休むべきよ」


 ミサがそう促すとともに、皆でその場所を去る。

 来た道を戻り森を抜けようとしていた時、セレスがポツリと立っていた。


「やあ。君たち何とかなったようね」


「あなたのせいで危ないことになっていたんですよ。それに今までどこにいたんですか?」


 巌が詰める。


「まあまあ。今無事なんだからいいじゃない私の言った通りでしょ?あと、私は研究者だからね、邪魔になるだけだと思って隠れてたの」


「何とかなったって、それは結果論でしょう。たまたまフィリアが頑張ってカイのもとに行けただけで、もし...」


「"たまたま"、ねぇ。ホントにそうかしら」


 なにか意味ありげに不気味に微笑んでいる。


「ねえ!巌!今はそんなことしている場合じゃないわ!フィリアがしんどそうなのよ!それにカイも息を

切らしてるし...早く行かないと」


 横を見ると、顔を赤くして、何とか歩いているというような雰囲気のフィリアがいた。


 俺も、体が鉛のように重く、一歩一歩が苦痛だった。


「「大丈夫だ」」


 奇しくも、俺とフィリアの声が重なる。

 なるほど、強がってしまう理由はこんな感じか、人の心配はしたくとも、心配はされたくない......。


「急ぐか」


 巌がそう言って、俺に肩を貸してくれた。


「じゃ、アタシはフィリアを......重!」


 ミサには流石に荷が重そうだ。


「私も手伝ってあげるわよ。なんだかんだあなたたちにはお世話になったしね」


 セレスはフィリアの反対の方の肩を持つ。


「えーっ!ちょっと何でアンタが!べーっ!」


 そうして、俺たちは街へと戻っていった。

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