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第2話 贈り物とお願い事

 やはり俺は異世界に来ていたようだ。夢の中の天使が言うには、"100年後の"という形容詞が入るらしいが。


 つまるところ、ここが俺の住んでいた世界でない以上、0年後だろうが、100年後だろうが関係ない。意味があるのは別の世界に飛ばされたという事実だけだ。


 そしてなぜ、そうなってしまったのかが、全くわからない。何で俺を転移させたのか。


 そういえば、悪のコンゲンとかなんか道具とか言っていた。それが何か関係してくるのだろうか。


 とすれば、俺は元の世界から消えたことになるのか?あいつは大丈夫だろうか?家族は心配しているだろう。そう考えると居ても立っても居られない。


 起き上がり、ベッドから降りようとした時、部屋に、箱が置いてあることに気づいた。いや、置いてあるというより、地面に放って置かれているようだ。


「こんなの、昨日にはなかったよな」


 それは片手で持てる大きさだったので、右手で拾い上げるとかなり軽い。振ってみても特に音はしなかった。


 早速開けてみると、そこには軍手が入っていた。紙もあった、何か書いてある。


「なになに...。"取扱説明書"か」


 内容はこうだった。

 ・あなた専用のま道具どす。

 ・りょう手けん用です。

 ・強い力を手にできます。


 酷く汚い字で書かれていて辛うじて読めた。殴り書きで、きっと適当に書いたのだろう。


 察するに、どうやらこの軍手を手にはめることで、ものすごい力を出せるようになる、とういことだろうか。ただの軍手にしか見えないが。


 試しに軍手をつけてみた。別に特段変わった様子もない。手をグーパーしてみても違和感がない。


 疑問に思いつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開けようと力をかけたその時、ベギッと鈍い音が響き渡った。


 俺は"扉だった板"を持っていた。


「何だ!?」


 誰かがけたたましく足音を立ててやってきた。受付のおじさんだ。


 彼と目が合ってしまった。とりあえず壊れた扉を壁に立てかけようとしている最中に。


「あはは...。申し訳ございません」


 俺は、呆然としながらも何とか謝った。もっとも、おじさんは目を点にして、もっともっと呆然としていた訳だが。


「何をどうやったらこうなるんだ...?」


 彼は怒りはせず、呆気に取られたまま、ちょっと小さめの声でそう問いかける。


「ち、ち、力を入れすぎちゃいました...」


 どうせここで、この軍手のことを言ったところで、ややこしいことになるだけだ。そう思って、俺は咄嗟に自分のせいにした。いや元々自分のせいなんだけれども。


「そ、そうか、まぁ何だ事情があるんだろう。だがその、何だ。その扉の弁償はしてくれよ」


 思いがけず柔らかな物腰で正論を言っている。


「はい。本当すみません。お金は何とかします...」


流石に今は謝ることしかできなかった。


「おう、頼むな。...そういえば隣の部屋にあの嬢ちゃん泊まってるぞ」


 そうボソッと告げておじさんは去っていった。その顔は当然に不服そうだった。


 この時、俺は最悪の考えに至っていた。下衆すぎる自分の思考に嫌気がさしながらも、目の先の問題を解決するためにはこれしか無いと言い聞かせて。一か八か頼るほかない。


 軍手を外して、ポケットに突っ込んだ。トラブルを招いてしまったが、これは本物だと確信は持てた。


「おーい、起きてる?」


 隣の部屋の扉をノックする。


「ああ、入っていいぞ」


 そんな返事が、扉の向こうから聞こえて来た。元気の良かった昨日とは違って、か細い声だった。


「失礼」


 そう言いながら入ると、フィリアは寝ていた。顔も赤い。


「お、おい!?大丈夫か?」


 俺はそう慌てて駆け寄り声をかけた。


「ははは...。大丈夫じゃないけど、大丈夫さ。いつものことなんだ」


「なんだよそれ...。いつものこと?」


 そう訝しんでいる俺に、彼女は説明を続ける。


「私は特別体が弱くてな。いつも戦闘をした後などはこうやって寝込んでしまうんだ」


 そう言って、懐から何か棒状のものを取り出した。


「ほら!こんなにも熱が出ているんだ。ははは!」


 俺はその棒状の、多分この世界の温度計の読み方は全くわからなかった。きっと高熱を示しているのだろう。


 俺は流石に心配になって、彼女を介抱してやることにした。濡れタオルを取り替えたり、話し相手になったり諸々の。



「すまないな。こんなに良くしてもらって」


「別に気にしないでくれ。君も俺を助けてくれただろ。その借りを返しただけだよ」


 俺が何気なくそういうと、彼女の顔が一瞬曇ったような気がした。


「まあ、命の恩人だから、これだけで返せたというには烏滸がましいけどな。あと、あの時は本当にありがとう」


 俺がそう続けると、彼女の顔に笑顔が戻った。いや戻ったと言うより、あからさまに笑っている。


「そ、そお?まーそんなに貸し借りっていうのもよそよそしいっていうかなんというか」


 そうブツブツいいながらモジモジしている。


 俺は察した。これは何か頼まれる予兆だと言うことを。昔あったのだ、こう控えめな動作で他人に金をせびられたことが。


「まあ、借りをつくったままっていうのも嫌でしょう?だからね...」


どちらにせよ、俺は彼女の頼みを聞くしかない。いや、聞きたいのだ。命を救けられた恩に報いるために。

 ...あと、金をせびなければならないのだから。


「私と一緒に行動して欲しいんだ!!貴方も行く宛がないのだろう?どうかお願いだ!」


 むくりと上半身を起こして、顔の前で、手を合わせている。額のタオルが落ちて、手に掛かった。


「いいよ。たしかに言う通り、どこへ行けばいいかもわからないしな」


「ありがとうー!」


 彼女は俺の返事を聞いて、めちゃくちゃ喜んでいる。


「それにしても、どうして得体のしれない俺なんかを仲間にしたいんだ?知っての通り、俺はろくに身を守れすら出来ないんだぞ」


「そ、それはだな...。お前の中に光る物を見たからだ」

 

 きっと嘘だ。目が泳いでいるし、言葉もふわふわしている。

 しかし、理由などどうでもいい。おかげで何とか俺の居場所を確保出来た。ありがたいことだ。結構な打算的な考え方をしてしまっているが、彼女には本当に感謝している。


「そうか!ありがとう!これからよろしくな!」


 とりあえずここは合わせることにして、できるだけ快活に返事した。なんだか利用するようで悪い気もしたが、仕方がない。俺は良心を押さえつけ、もう一つのお願いをする。


「俺からも、お願いがあってだな...」


 きっとブツブツ言い、モジモジしているだろう。


「何だ?」


 フィリアは察したように、少しにやけている。


「部屋の扉壊しちゃったから弁償代出して欲しい!」

 

 顔の前で、手を合わせた。

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