第15話 "契約"
竜を、恐らく倒したのち、静寂が訪れた。
"契約魔"の化け物は、その場で小さな唸り声をあげながら、悶え苦しんでいる。まるで自分を律しているように。
ミサは、ゆっくりと歩き始めた。行き先は、倒れ伏す竜のそばで蠢く化け物だ。
彼女はそれの隣にたって、語りかけた。
「ごめんね。アザル。こんなことになっちゃうなんて」
「いいんだ。いずれこうなるのは分かってた。さあ、早く逃げて。僕たちの"契約"はこのままだと矛盾して破綻してしまう。そうなった時こそ、僕は止められなくなるだろう」
「......いいえ。また契約し直せばいいだけ。とっても簡単じゃない」
「......また、自分を苦しめる気かい?今回のことで分かっただろう。僕とともにいることは常に危険を伴う。さっきは、たまたま僕が良いように作用したけど......、今度は、君を手にかけるかもしれない」
「アタシは、自分を苦しめてたことなんか無いわ。アンタとともにいたくていただけ。さあ」
「何で言っても分かってくれない!」
化け物は訴えるように叫び、一時の沈黙が場を支配した。その後、ミサが続ける。
「......アタシは、"契約"を解除する。理由は私が 要求した"契約魔の力の封印"の不履行」
そうミサが言った途端、化け物が更に大きくなっていく。角は更に歪に捻れて巨大化し、竜ほどでないにしろ、怖気立つような雰囲気すら覚える。
「ミサ!何を!このままだと僕は!」
体が変容していくなか、そいつ自身が一番戸惑っていた。歪み育っていく自分の体を何とか抑え込もうとしているのか、小刻みに震え、頭を抑え、うずくまる。
「簡単なことよ。また"契約"したらいいだけよ。今度は秘密無しでね」
彼女は不適な笑みを浮かべ続けている。
「分かったよ。僕の負けだ」
化け物は先ほどまでの焦っている様子から一転して、何か吹っ切れたように落ち着いた。
「よろしい。それじゃ"契約"ね。アタシはアンタの力の大半の封印を求めるわ」
「それじゃあ、僕はそれに見合った、君の魔力を代償に」
二人を眩い光が包む。目を背けたくなるような輝きが消えた時、恐るべき存在は消えていた。
そこには、化け物の姿はなかった。見えたのは、前に見た小さな謎生物と、ミサだけだった。