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はじめまして、私、明日菜って言います♪

登場する人物・団体・国家等は現実のものとなんら関係のないフィクションですのでご注意下さい。


全自動洗濯機のけたたましい注水と回転音だけが響く6畳の天井に掲げられた一筋の光。


銀の光を放つ楕円形のブローチには、聖母マリアを思わせる刻印がなされおり、所々には黒ずみが見て取れた。


万年床に寝そべった優二はただただそれを見つめている。


外は快晴。時折、窓辺からは木漏れ日にも似た光が差し込みそれを一層神秘的なものに強調した。



もともと地方出身の優二は、高校卒業後そのまま地元の大学に進学するつもりだったが、


記念受験のつもりで受けた関東の大学に合格してしまい、親の強い勧めもありこの部屋に引っ越したのが


約4年半前。その当時付き合ってた決して美人とは言いがたいがスレンダーな彼女とは大学を卒業したら


結婚しようと約束していた。遠距離恋愛も3年ほど続いてはいたが、仮面カップルと揶揄されるほど冷え切って


いたため、いつの間にか自然消滅していたのだ。


卒業したら、地元の企業に就職してこつこつ働いて、小さな暖かい家庭が築けるものだと思っていた


優二にとって地元は後戻りできない地になっていた。


そんなとき、若くして高級外車を乗り回し、美人な女性をはべらかす証券マンたちをテレビの特集でみて


自分もこうなりたい、なれるのだと息巻いて大学の4回生の折は、講義にもでず図書館にこもっては


専門書を読み漁っていた。


金融経済は実物経済の10倍のお金が動いている。コンビニやスーパーなので取引されるお金と物よりも


株や為替などお金とお金の取引のほうが10倍もある。


実際問題証券マンにとって必要な証券外務員の資格も在学中にとり、国内2番目のメガ証券会社に勤める


ことになるのだが、仕事の内容と言えば良くも悪くともいえない商品・株券を買ってくれる


資産家・金主の所に幾度と訪れ頭を下げ金を出してもらうことであった。


その株が上がろうが下がろうが知ったことではない、とりあえず金を集める兵隊とかした


サラリーマンは、守るものがなければ不満は上司にぶつけられ自滅する。


だが、優二はそのケースにはあてはまらなかった。いつかは、自分が株価を操作し株式を公開する


主幹事にもなりえるという自負と夢と故郷からの煽りのハングリー精神の塊とかしていたのだが


いささか潔癖がすぎたのだ。仕手株と言うものが存在し、7年前、政治資金出資法がさらに改正


されたのをきっかけに選挙前に政治家の資金集めに大いに活躍することを知ってしまったのだ。


優二が担当したIT会社は毎月月末25日に自社の保有株を売りに出し30日に同じだけ高値で買い戻す


のだが、その会社と政治家が直接やり取りをすると問題が起こるので優二が間に入っていた。


そんな事情も知らず、売れない売れないと騒ぐ同期を尻目に優二は楽して業績を上げていく。


入社3ヶ月目のある日、優二は他の政治家でない顧客にそのIT会社の株を売ってしまったのだ。


チャートと呼ばれるグラフを分析し、財務状態を確認しまだあがると確信し優二自身の判断で


規定数より売って回る。これで、さらに同期に差をつけ出世できると思い上司に報告すると


別室に呼ばれ説教され、それに納得できず反論するとすべての事情を聞かされた。


会社の暗い部分を共有することは、出世の近道だと知っている上司はそれだけ優二の素直さを


かっていたのだが、いかんせん優二は潔癖すぎたのだ。


 

 全自動洗濯機の脱水音のみが響く6畳のワンルームの聖母は優二に微笑みを湛えているように見えた。


その聖母を首からかけると、ベランダに出て乾いた下着、シャツ、ジーンズ、上着を取り込むと


シミのついた黒のスエットを脱ぎ、着替える。


 「救い・・・・・・かぁ」


***************************


ST画面に”規定の工数が終了しました。休憩して下さい。次回作業開始時間は01:35です”と表示される。


優二はSTステーションと呼ばれる、緑や赤の数百のLEDランプが灯る充電スタンド郡にSTを返却する。


丁度、そのとき5つほど離れた充電スタンドにもSTをはめるプラスティック音が聞こえ、そこには


歳の頃は20歳前後だろうか幼さが残る髪の長い女性が立っていた。



「あの・・・これ・・・」


優二はそっと銀のペンダントを差し出すと


「・・・・・・ありがとう・・・ございます・・・やっぱり佐久間さんが・・・」


それを恐る恐る受け取る彼女。


「ぇっ、・・・どうして名前を・・・」


「ネームプレート・・・」


目線を胸元にあげると、”剣菱けんびし”とゴシック体でかかれたネームプレートが


細く白い首から下がっていた。


驚嘆の声を漏らす優二に向かって、


「はじめまして、私、明日菜あすなっていいます♪」


と弾んだ声をかける。


静まりかえった巨大倉庫の異様な空間から隔離されたような別世界の形成。


黙々と、淡々粛々と作業をこなす人々でさえ足を止めてしまう。


「ゆうじ・・・佐久間優二です。・・・よろしく。」


顔を上げるとそこには、少女の無垢な微笑みがあった。



次回:バスケットボール

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