プロローグ
登場する人物・企業・国家等は現実のものとなんら関係のないフィクションですのでご注意下さい。
「魔王、これで終わりだ。」
青い騎士の鎧をまとった男が腰に下げた剣を抜き上段に構える。
「ふん小癪な勇者よ、我が最大の魔法によって葬り去ってやろう。」
「世界は俺が守る!!!」
構えた剣からは眩い光が放たれ、勇者と呼ばれた男は一直線に魔王に向かっていく。
「ギガ・ゾーマ!!!」漆黒の法衣をまとった竜の頭を持つ魔王が手をかざすとそこから爆炎が勇者に向かってこだまする。
放たれた炎は左手に構えられた伝説の盾によって切り裂かれ、道が出来る。
「悪よ、滅びろ!!!」上段に構えた伝説の剣を魔王に向かって振り下ろす。
「ぐおぉぉぉぉ~」雄たけびを上げ魔王は大の字に倒れこむ。
血を拭う様に左右に剣を振り高らかに剣を掲げる・・・
「これで世界に平・・・ワ・・・・・・が・・・・・・」
高らかに掲げられた剣先から胸元に目を落とすと魔王の尻尾が勇者の胸元を貫いていた。
「・・・グフっなぜだ・・・」血の滴る音と共に、金属の剣が石畳に落ちる効果音が流れる。
そのまま画面はブラックアウトし
「自分自身を守れぬ者が世界を守れるわけがないだろう・・・ハハハハ・・・・さらばだ矮小なる者よ」
魔王の声がこだまする。
保留ランプが一つ消え、画面のリールが回りだす。
その画面を食い入るように見つめ、パチンコ台のハンドルがはち切れんばかりに握り締めた男が叫ぶ。
「どうして!魔王が勝つんだよ!!勇者が何故負ける!!!」
手持ちぶたさな左手は魔王に怒りをぶつけるように画面に叩きつけられた。
「お客様、申し訳ありませんパチンコ台を叩かないで下さい。」
店員に冷淡な声をかけられ、我に返ったギャンブル狂の男は申し訳ないように肩を落とす。
「・・・・・・これって大当たり確定の演出ですよね・・・」
おもむろにパチンコ台の脇に備え付けられた解説書の一説を指差す。
<<最後の戦い・☆☆☆☆☆・大当たり!?>>
「・・・・・・あの誠に申し上げにくいのですが、大当たり確定ではないのでハテナマークがついております。
確定演出はそのとなりの<<世界の終わり>>という演出です。」
「そうですよね・・・そんな気がしました。確定演出で外れるわけがないですものね。」
回るリールと、銀色の玉がパチンコ台の釘に当たる安っぽいBGMを聞くこと早三時間、やっとの思いでかかったチャンス
俺はそんなについてないのか・・・空っぽの財布と膨大な憂鬱を抱えパチンコ店をあとにする。
築15年、ワンルーム6畳の部屋でテレビをつける。
『我が日本は未曾有の経済危機を向かえ、国債の発行額もついに1500兆円を超え余談を許さない状況の中、
やはりというべきでしょうか、世論を後押しに8年ぶりに政権が交代しました。今後の経済対策について
新政権改革党、渡辺幹事長のインタビューの様子をお届けします。』
やや興奮気味の新進気鋭のスタジオアナウンサーが高らかに声をあげる。
「今後の経済対策よりも俺の財布をなんとかしてくれよ。」
畳に引かれた万年床というべき布団に倒れこむと眠気が襲ってきた。
昨日の夜間バイトから一睡もしていない彼のまぶたは重く、閉じられ
泥のように眠りについた。
『・・・本日もご視聴ありがとうございました。明日は新内閣発足についての特集を行います。
これにて2017年9月3日、日曜の放送を終了します。明日も良い一日を・・・』
軽く会釈をするアナウンサーの口角は皮肉でもこもっているように上がっている。
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