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7

 護符はたくさん持ったか、大丈夫かと畳みかける問いかけを、

「そんなもの持っていきませんよ。警戒されるでしょう」

と蝋梅は一蹴した。

「相手は数百年生きたやつなんだぞ」

 懐から自分の分を渡してこようとする望の手を、蝋梅は押しとどめてまた懐にねじ込む。

「これでも星守見習いですよ」

「わかっている。わかってはいるが無理はするな。危なくなったら、この鈴を鳴らせ。すぐ行く」

 夜の帳の下りた中で、控えめな音量ではあるが強く念押ししてくる。袖の中に隠れた手に、握りこんで隠せるくらいの大きさの鈴を握らされた。

 部屋も服も、いつもと勝手が違う。極力違うものを持ち込まないようにと、この部屋の持ち主のものを借りたのだ。

 この部屋の主――李は、報告にはなかったが確かに魅了術にかかっているようで、それでも衣装の提供に諾の返事をしてくれた。

 流行りらしい香が焚き染められた寝衣は、何とも言えない違和感がある。むせ返るほどのそれは、眠りを誘発するものというよりは、一発勝負への臨戦態勢に臨むものに思えた。

 表情が硬く見えたのか、望の指が頬に触れる。しかし、その本人も緊張した様子を隠しきれていない。

 蝋梅は鈴を持つ方とは逆の手を、彼の手の甲に重ねた。体温がじんわりと手のひらや頬の触れたところから伝わってくる。思わず口元が緩んだ。

「殿下はいつもいてくださるんですね。危ないところなのに。ありがとうございます」

「当たり前だろう」

 いささか怒ったように、望は返してみせる。言いたいことはまだありそうだったが、相手はいつ来るともわからない。近くにいるからと言い残して、立ち上がった。

「殿下こそ、何かあったら呼んでくださいね」

 小声で背に呼びかけると、「誰が呼ぶか」と肩越しに望は睨んだ。

 望が廊下に出ると、うっすらと端だけ覗かせた月が、もう沈もうとしていた。

 こちらも借り上げた斜向かいの部屋に移動すると、そこには息を潜ませた兵と李がいた。不自然でないように小さな灯りだけしか焚かれていない。影が夜闇に同化する中で、この女官は震えるでも恐れるでもなくぼうっとした様子で座っていた。

 望が近くに腰を下ろすと、ようやくその存在に気づいた様子で顔を見上げる。

「わたくしは、いつまでここにおればよいのでしょう」

 おっとりとした口調で、しかし初めて、彼女から問いかけてくる。

「明日の朝までだ。何もなければな」

 そう返すと、明日の朝? と途端に声が鋭くなった。その豹変ぶりに、望は腰を浮かせる。

「あの方がいらっしゃるのです。部屋にもどらないと!」

 言うが早いか、李は別人のように素早く立ち上がった。望と兵は、慌てて同時にその体を押さえにかかる。

 しかし、彼女はそれから抜け出そうと、なりふり構わず暴れ出した。足をばたつかせ、拳で殴り掛かってくる。口からは獣のように荒い息遣いが漏れていた。

「何だ、この執着は」

 二人がかりで何とか押さえつけながら、望は蝋梅のいる部屋の方を見る。

(蝋梅――)


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